EX.強者たち 01
あの日した約束は今でも忘れていない。
高熱の悪夢にうなされながら三浦司はその言葉を思い返していた。
彼女が季節外れのインフルエンザにかかったのは、大事な大会の最中だ。
去年、一昨年と勝てた大会でも今年は勝てるとは限らないのに、エースである自分が途中でリタイアしてしまったらチームがどうなるのか考えたくもない。
病気をしてメンタルが弱いところに昔の約束が重くのしかかる。
碧南中学校時代の親友、天野箕五子との約束は彼女がバスケットを続ける大きな動機になっている。
「マイはしっかり寝ているのに、お姉ちゃんの司は泣いているの?」
ベッドの上で少し涙ぐんでいたのを母親が見ていた。
隣の部屋で同じように季節外れのインフルエンザにかかった妹の看病を終えたところのようだ。
「ノックぐらいして……あくびが出ただけよ」
「今日が大事な日っていうのは分かっている。今のあなたが、自分のことを無力で惨めだと感じていることもよぉく分かる」
顔を背けて母の顔を見ないように抵抗の声を上げるが、軽くいなされてしまう。
少し前にも同じようにメンタルが弱かった時のことを母が言い始める。
「五月くらいだったっけ? あなたと長岡さん、子津さんのいつものメンバーが揃った代表戦で何もできなかったときと同じね。前の大会のときは予選を突破できて、決勝トーナメントに進めたのに、今年のは予選で一勝もできずに敗退」
「……いいから、寝かせてよ」
「そう、試合の途中経過でも報告してあげようかと思ったけど?」
「別にいい。結果だけわかればそれで」
「そうね、静かに寝ていなさい。あなたが今できることは体を休めて、早くチームの力になれることだと思うわよ」
扉が閉められ部屋が静寂に包まれる。
普段はもう少し冷静なはずなのに、親とのちょっとした会話で苛立つなんて自分らしくないと思う。胸のところが苦しくて心臓の鼓動が頭に響いてくる。
本格的に身体が睡眠を欲しがっているな、と思う。
そこへ今度はノックをして入ってくる人がいた。
「ママは行ったみたいだね。ごめん、寝るところだった?」
母が来たときに寝たふりをする策士な妹だった。
今まさに行われている試合のことが気になってこっちの部屋に来たようだ。
そういえばさっきから携帯がピコンピコンうるさい。
桜の奴は試合中に何をやっているんだ。
「やっぱり、試合が気になっちゃって。私とお姉ちゃんがいないと久世先輩の負担が増えていそう……」
「大丈夫。桜は地味だけど私やマイ、他の誰とも違うバスケを確立してる。あの中学のバスケでレギュラーだっただけはある」
「あはは、それもそうだけど。久世先輩は地味だけど頼りになるもんね」
「…………」
「寝ちゃった……。あの中学のバスケのこと聞きたかったけど、今度にするね。それじゃ、おやすみ」
主力二人を欠いた田村高校は、いつもと違う様相の試合を展開していた。
それは地味地味いっている三浦姉妹が想像しているものと大きく違うものだった。