16:外国からの電話2
一通りの話を聞いて、先輩からの電話を切ろうとすると、再び引き留められたので携帯の画面を耳へ近づけた。
…………。
そこで聞いた言葉に、まゆは身体の芯から力が沸き起こるような感覚になった。
今も昔もまゆの周りでバスケをしているのは、凄い人たちばかりでいつも気後れしている。
――二年前、自分が中学二年の頃は手が届かないほど遠くにいた人たち。
一人は一年生のときに全中で最優秀選手に選ばれたのを鼻にかけずに、足りなかった技術を練習して試合に生かしていた。
先輩は、世界に羽ばたけるほど才能があったのにも関わらず、全中制覇後にお世辞にも強いとは言えない高等部へ進学を決めた。
――一年前、去年はようやく手の届くところまで近づいてきた人たち。
一緒に練習をして自分がその子にも周りのみんなにも劣っていると気付かされた。それなのに部のレギュラーになれた自分が最強の中学のエースを任せられるのが意外に思った。
一人とはわだかまりから離れてしまったが、その頃の先輩は高等部で目標に掲げていた全国出場を叶えて、自分の夢を叶えに旅立ったのだ。
そんな先輩からもらった言葉は、素直に嬉しい言葉。
変な声が漏れてしまったかもしれない。
けど本当に嬉しいことだった。
「――私が戻るまで、チームのことは任せてもいいんだよね、エース」
電話はそこで終わった。
憧れの人に認めてもらえた、そう感じたのだ。
携帯を二つに折り、ポケットにしまう。
俯いていた顔は前を向いて、次の試合に負けられないと思う新たな理由を胸の内に抱いた。
***
一日置いてまゆは竹春高校の一人に電話を入れた。
番号はマネージャーが秘密裏に入手してくれたので、深くは突っ込まずにありがとうと感謝の言葉だけ伝えていた。
先輩から聞いた情報は、現在のチームメイトが知っていないとダメだ。
中には普段の由那を見て気付くような奇跡的な観察眼を持っている人がいるのかもしれないが、今彼女に一番近い人が、知っているのと知らないのでは大きく違う。
「滝浪ね。私は千駄ヶ谷高校の二條よ。聞こえている?」
「……間違い電話じゃないでしょうか?」
聞き覚えのある声だったが、間違いだと言われたら一度切るしかない。
もう一度よく電話番号を確認してからかけなおす。
「もしもし、千駄ヶ谷高校の二條と申します。滝浪さんの番号で間違いなかったでしょうか」
「………………はい。間違いないです」
電話の向こう側で観念したような声が返ってくる。
知らない仲ではないのに変によそよそしい。
一度全力で戦ったら昨日の敵は今日の味方思考のまゆにはわからないことだった。
「どうしてあなたが、私の、それも携帯の番号を知っているのよ。いくら積んだの?」
「お菓子一箱かな。高くついたわね」
「高いんだ。私の個人情報はポッキー一箱分と変わらないんだ」
「えぇっと、その件については置いておいて、世間話でもしましょうか。会話のジャブは大切でしょう」
「いや、もう部活の時間だから早く終わって欲しんだけど……」
「いいから! こっちも同じだからそれは!」
それなら別の時間に掛けてくれればいいのに、と滴は思った。
「初戦は勝ったの? こっちは別に伝える必要もないと思うけど」
「勝ったわよ。二回戦はちょっと厄介なのとあたって苦戦したけど」
「ふーん。由那が苦戦したの?」
「ううん。しらぬいって人に由那以外の全員が止められて、体力も結構やばかった」
――。
「それじゃ本題。由那が竹春以外でバスケをしているのを見たことある? もしなかったら見ておいた方がいいわよ」
「……どういうこと?」
「こっちも先輩のまた聞きになるけど、由那は高校へ入ってからどう成長したのかなって。誰だって環境が変わって、中学から高校というだけでもだいぶ違うように感じる。私は成長しているし、滝浪だって成長してるでしょう」
「それなりにしていると思うけど」
「じゃあ由那は。由那はどこが変わって何ができるようになっているのか。それは由那にとって良いこと、悪いこと?」
「ちょ、ちょっと待って。急にそんないろいろ言われても――」
「由那はあなたたちの犠牲になるために、バスケをやっているなら私たちは、前とは違う理由で由那にバスケを辞めさせるために負けるわけにはいかない」
由那には当時のチームメイトだったまゆですら知らない、もう一段階上の何かがある。
その域にまゆは達していないから、詳しくは知らないけど一年で最強の中学のレギュラーになるような人にはそのくらいあるのだろう。
とにかくそれを使えるのは、程度の違いはあれど、まゆの聞いた限り、
現在の代表選手で一人。
元千駄ヶ谷の先輩に五人。
去年ベスト四の赤坂に一人いたという。