13:ブランクス
運動直後の熱っぽさが残る頭に手を置くとその後輩は露骨に嫌そうな態度を取ってくる。
そういう反応をされると続けたくなった。
「……やめてくれません?」
その後輩はショートに切りそろえた赤頭を抱えるように逃げた。
春の少し前からチームに合流して付き合いがそれほど長くない一人と三人。
春の初めに高校生デビューしてきたときは驚いたが、ただそれだけのことで後輩のことを怖がるようなことはしなかった。
少しヤバイ奴が来た――――くらいは思っているけれど。
「真彩の頭はちょうど撫でやすいところにあるからしょうがない」
「……しょうがない」
「あんなことしといて、普通に帰らせるわけないでしょ!」
「いやー、身に覚えがないですね☆」
真彩は目線を反らし白々しい態度をとるが、他校の生徒との勝負を三人は見ていたのでバレバレだ。
試合に負けて勝負にも負けた相手を彼女が叩き潰した姿は、一辺叱ってやらないといけない、とそのうちの一人は思っていた。
「……別に、試合の後のクールダウンをサボっていたことを……私たちは怒ってるだけ」
「ほんとに?」
「嘘よ!」
「どっちなの!?」
「まあまあ」
これは彼女たちの“本当”だ。
直前の試合でフル出場したのに、フラフラとどこかへ姿を消して油を売っていたのはいただけない。
なによりもいただけないのは、チームにとって大事な選手が、自分の寿命を減らすような馬鹿をやることが納得できないことに怒っている。
「まあ、真彩は優しいから、ふっきれなくてうじうじしている子に前を向かせたくなるのもしょうがない」
「……しょうがない。……優しい、優しい」
「え、そうゆうこと?」
「若干一名は良く分かってないみたいだけど、別にそんな気はないよ。先輩たち考えすぎ」
「え、どうゆうこと?」
新涼高校の不知火は、試合の終わり方からして不完全燃焼していた。
それをフォローするような指導者がいない環境で独りになってしまったため、塞ぎ込む悪循環に陥りそうなところに真彩が偶然居合わせたのだ。
そこで挑発して勝負を吹っかけるのは何か違うが、結果として相手が考えを改めるようなことをしたことは褒めてあげたい。
少なくともこの地区でごく数人しか完全に抜ききれない不知火相手に、圧勝できる一人が彼女なのは紛れもない事実だ。
なかなか本音をいってくれない真彩は、先輩にも挑発をしてくる。
「目の前に倒したい人がいたら、先輩たちはどうしますか?」
確かに不知火のことを倒したいといっていたが、それはたぶん関係ない。
先輩三人が倒したいのは、とりあえず去年の雪辱を果たすための相手くらいだ。
彼女の答えを知っている三人は自分のことを二の次に、心配と勿体無さを心に秘めて彼女の首根っこを掴んで帰路につかせた。
やんちゃな後輩を見守る立場としては、この先にある彼女の将来に期待し、それと同じくらいに突き当たるであろう大きな壁が怖いと思っている。
ブランクスの次の対戦相手はそういう相手だ。
U―18日本代表キャプテン要する、霜月高校が相対する全てのチームを跪かせる。
それがこの地区大会であらかじめ決めれらたシナリオなのだから、しょうがない。