09:エースがいない3
突然の交代で竹春は、滴を中心に大きく陣形を変えることにした。
基本的なことができない来夏はとりあえずゴール下に配置して、全員が一つ下がるような陣形をとる。
栄子と三咲で左右のフォワード、滴が守備的ガード、コート中央に揚羽とした。
前に練習試合をしたときに揚羽のプレーは記憶している。
「無理があると思うけど、栄子は守備重視であまり深いところまで攻めていかないで」
「うん。パスの中継は佐須先輩に――」
「嫌よ。この相手なら四人もいれば大丈夫よ」
この人は何を言っているんだろうと滴は思った。
ただでさえ試合の途中ということで、突然エースの由那を下げるといったことは黙っていたのに。
「申し訳ないですけど……少し失礼なこと言います。何を言っているんですか? 公式戦なんですよ!」
「数合わせで入っている部外者なんだから、放っておいてよ」
「そんなことできるわけないでしょ!」
「まあまあ」
「三咲先輩……」
「ようはこいつがいなくても勝てる相手ってことでしょ」
――意味が分からない。
怪我をしているらしい三咲先輩と代わって入るなら分かるが、絶好調の由那に代えて入ってくるのはおかしすぎる。
佐須姉妹が使えないとなると三対五で試合をするようなものだ。
確かに新涼は不知火という人以外は大したことないが、最初は入らなかったシュートがだんだん決まるようになってリードは縮められてきている。
使える駒が減った竹春は、より速い攻撃を選択するしかなかった。
ボールは滴が出していく。
その滴には、やはりというか当然のごとく不知火がマークにつく。
「落ち着きに欠けていますね?」
「別にこっちは煩いのがいなくなって落ち着いているくらいだわ」
「失礼しました。でもボールはここでもらいます!」
「やらせるわけないでしょう!」
滴は負けん気で「落ち着いている」といったわけじゃない。
三人で戦わなくてはならないなら、考えることがたくさんある。
それが自分を熱くする前に逆に冷静にさせていた。
想定外のことで攻撃パターンが減り、より慎重に試合に入れている。
相手にはもう自分の動きは見えているのかもしれない。
そこへ突撃していけば確実にこれまでと同じように止められる。
直感的に滴はドリブルで左へと勝負を避けた。
「あの背の高い人を使うんですか?」
「いちいち答える義理はないわ」
滴と三咲の連係はあまり練習していないが、言われた通り三咲を使うしかない。
三咲に高いパスを送れば落としたところに栄子が走りこめる。
「……そうじゃないわよね」
「……?」
確かに三咲や栄子とパスを回していけば、ゴールに近づける。
効率的なバスケットができる。
しかしチームに勢いを与えるのは、もっと違うもので、異なる価値がある。
滴は一度逃げた勝負にサイドラインギリギリで挑むことにした。
これが由那の揃えた現バスケ部を表している。