06:遠方の守備
不知火憧の前には目標とする人の後輩だった人がいる。
その人とこの大会で負ける前に当たることができて良かったとちょっと感謝。
不知火憧の学校は、はっきり言って弱いから一回戦を突破できたのだってできすぎ。
攻撃と守備のどちらの駒も揃っていないだけでなく、竹春高校で実力が一番劣っているであろう愛数より劣っているのが高校女子バスケットボール部の部員たちだ。
「やっぱり本物。他の人より桜さんに近いオーラがする」
ここで不知火が由那の前に立ちはだかるが、挨拶代りのフェイントで軽くかわされてしまう。
「うわうわ。本当に抜かれてる」
由那を追いかけるように不知火も走るが、ゴール下のボール回しを見ているだけで何もできなかった。
これが自分の目標の域なのだと不知火は改めて思う。
そしてここからが、この日用意していた新涼の戦略だ。
「やっぱり凄い。本物はものが違うって感じ。でも一旦はあきらめておきましょうか」
不知火は次なる標的をガードの一人にした。
「私たちが勝つために必要な、良い経験をさせてもらったわ」
「なに? 由那に敵わないからって愛数に乗り換えるの?」
「はい。田崎さん以外なら、私が全部止められそうなんで」
「舐めてくれちゃって。後悔させるよ」
不知火は、マークにつく愛数と十分な距離をとった。
本来ディフェンスをするなら腕一本分の距離を取るのが無難だが、不知火はそれ以上に離れてパスやシュートを警戒する距離だ。
愛数にドリブルがないと思っているなら、彼女が言うとおりなめすぎだ。
愛数はドリブルでスライドしてパスコースを作ろうとする。
ハンドリングは大会までに愛数が身に着ける最優先事項だった。
決定力はまだないが、ボールを簡単に失うことは少なくなっている。
「なっ! いつ、こんな近くに!」
「眼でもつむっていたんじゃないですか?」
その愛数が、ドリブルを開始したのと同時にボールを失っていた。
不知火は愛数が陥った感覚を理解している。
自分が目標とする選手が得意とする相手の距離感を狂わせるマーク。
地味な技だがこれほど効果的なバスケットはないだろう。
警戒されたとしても、目の前にいるのが分かっているのに姿が見えないようなものだ。
別に瞬間移動したわけじゃない。
しかし相手が感じたものとしては、それが一番近いのもまた事実だ。