03:やり辛い相手1
トーナメントの組み合わせは完全に運次第というわけじゃない。
大きく分けた二つのブロックには必ずシード校が一校ずつ含まれ、二回戦からそのチームが出てくる。
そのシード校と早いうちに当るルートには、嘘か真実か分からないけど、クラブや去年の成績が悪いチームが入ることが多い。
確かにクラブチームは普通の高校より強い。
間違っても試合に経験の浅い選手は出さないし、高校の部活なら間違いなくエース級が何人もいる。
しかしここ数年間の全国大会の結果を見ると、上位にクラブチームは存在しない。
それはシード校や全国へ行くような学校が、それ以上の力があると分かっていて、予選ではぶつかるように大きな力が作用しているのかもしれない。
そういう意味では由那たちはついている。
シード校やクラブチームと当るのは準決勝まで組み合わせ的にない。
その道中は去年のベスト四が唯一の障害といえる。
しかしそれは初戦が始まる前の情報だ。
本当なら二回戦で当たるはずのその学校が初戦で敗れた。
そのチームがドリブル、パス、シュートなどの成功率で上回っていたのに、試合に勝ったのは中心選手が一年生という新鋭のチームだった。
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昨年のベスト四を倒したのは、新涼高校という無名校。
一年の不知火選手を中心に、数を撃って入れる攻撃とどんどん守備を順応させるのが上手くかみ合った大金星である。
他のチームに比べて相手校の研究はほとんどしていない。そのかわり試合中に学習するという恐ろしいスタイルを確立しつつあるが、ただ単に選手以外がいないというだけだ。
部員は一・二年生のみで唯一の二年生も二人しかいない。
顧問はいるけどバスケット経験者でなく、マネージャーやコーチなんてものいるはずがない。
そんな上等なものは私立とかバスケの強豪と呼ばれる一部の学校だけだと新涼の彼女たちは思っている。
不知火が試合後の整列で爽やかに挨拶する。
「ありがとうございました! この試合の分だけ私たちが強くなったのを良ければ次の試合で見てください!」
「ありがとう。…………がんばれば」
思ってもいなかった初戦敗退に後ろ向きな気持ちだったのが、吹き飛ぶような前向きな言葉だ。負けたのですぐに帰ろうと思っていたのに、昼過ぎの試合を見てから引退してもいいんじゃないかと思ったくらいだ。
「頑張ります!」
「うん。じゃあね」
ガッツポーズをして、この前向き百パーセントの不知火憧という選手が、由那の元チームメイトと同程度の力を持った不思議な選手だということは、次の試合でいやというほど見せつけられることになる。