02:目標は負けないこと
竹春高校の初戦は、一見危なげなく勝てたように見えたが、由那と滴の個人技に頼ってしまう場面が多くあった。
三咲、栄子、愛数の三人は練習通りのパターンにはまらないとき、相手がきっちり対応してくると二人に渡せばどうにかなると思っているように、揚羽は感じた。
これでは勢いだけのチームになってしまい、近いうちに負けてしまうことが容易に想像できる。
その初戦を静かに見守っていた揚羽の感想がもう一つ。
初心者ばかりなのに竹春はバランスが取れたチームに見えるのだ。
攻守でリバウンドを落とさないセンター。
止められそうで止められないポイントガード。
左からえげつない速さで飛び込んでくるフォワード。
その三人をフォローする二人がチームバランスをうまく調整する。
それが強さでなく、歪さに見えたのは気のせいじゃないだろう。
試合中、揚羽の隣で静かだった来夏も同じことを思っていたようだ。
ベンチへ帰ってきた選手に労いの言葉を掛け、冷たい飲み物を手渡す。
「お疲れ様です。はい、ドリンクはいかがでしょうか」
「おぅ、おぅ!」
「何をオットセイみたいな声を上げて、緊張してるのよ。いじられキャラが定着しすぎて、優しい言葉に動揺しすぎでしょう」
「滴……だってさ、マネージャーに労われるのがこんなにグッとくるものだったなんて知らなかったもん。私たちの知ってるマネージャーといえば亜佐美さんだよ! もはや鬼コーチって――」
「ストップ! もし聞かれていたら、怖いからそういうことは学校に帰ってからにしようね」
この試合が入部テストと周りが忘れていても、自分で覚えている来夏はびっしりと書き綴ったノートを後ろ背にモジモジした。
栄子は気付いていないフリをしつつドリンクを飲み干す。
「トイレなら我慢しない方が良いよ」
「違います!」
小学生じゃないんだから、と来夏が顔を朱色に染める。
栄子は敏感に鈍感な子だ。
「わ、私はこのチーム、強いと思います」
「それは当然。この愛数様がチームの指令塔をしているんだから、ごにょごにょ」
「どうして偉そうなのよ。自分でも濁すようなら、最初から言うんじゃないわよ」
来夏は冷静かつ感じたことをそのまま伝える。
「それでも、次の試合も同じようにいくとは思えないです」
彼女は去年と今年の竹春、姉がやっていたストリートのバスケが全てでそれが基準だ。
例えば、人数が少なくても各々の長所も短所も取り込んで、より強くなるようなチームしか知らない。
それに比べて今の竹春は、長所が生きれば強いチームだが、短所を突かれれば極端に弱いチームに様変わりしてしまう。
その不安定さはどうしようもないのかもしれないが、もっと上を知っているから言い切れることがある。
「私のおねえ……姉より下手なバスケットだなって感じたのは本当です。相手が相手なら初戦みたいにはいかないです」
ただ負けなければいいというだけで試合に勝てるほど、全国を目指す大会は甘くない。
勝利するチームがあれば当然、敗退するチームがある。
今の竹春高校は、全員が団結できる気持ちはあるが、明確な目標を持っていない。
それが去年との大きな差に思うのだ。
「私は、姉が立ち直るきっかけになるかと思って、この竹春高校バスケ部を支えていきたいと思ってここにいます。ほとんどお姉ちゃんのことしか考えていません! 皆さんにとって、この部は……バスケットは、どうしてやっているんですか?」
本音を孕む素朴な疑問だった。