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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(激闘編)
169/305

36:エピローグ04「バスケが怖かった少女」


 試合が終わっても観客たちの声は鳴りやまない。


 選手たちがベンチに戻って、それぞれの控室に帰るまで「がんばれ」「よくやったぞ」という内容の声に会場が包まれている。


 そんななか足早に会場を後にしようとする一団がいた。


 部活のジャージを羽織り、いかにも強い学校という凄味がある。



「つまらない試合」



 一団の先頭を歩く三年生が呟く。



「勝った方もバカじゃないの。あんなの一人、さっさと潰せば良かったのに」



 この学校は半年前にある学校と試合をして勝利を収めていた。


 東海地区で強豪といえばすぐに名前の出てくる学校で、元千駄ヶ谷中の選手がいるところだ。


 その試合、元千駄ヶ谷中の選手が送るパスを受け取るのは一選手だけなのが目立っていた。


 その選手が負傷して途中退場をくらってから、まるで別のチームのようになり、大金星を挙げたのが真新しい記憶だ。



「あんなチーム、敵じゃないのよ。ようはどう勝つかじゃなくて、勝てるようにすればいい。そういった意味じゃ、私たちのブロックは恵まれている」



 彼女は対戦表を片手にニヤリと微笑する。


 翌日に行われる対戦相手でぶつかりそうな相手をオレンジ色の蛍光ペンでマークしてあった。



「竹春高校と霜月高校。どっちも一人のエースさえ潰せば楽勝なんだから。良かった、神様に感謝しなくちゃ」



 竹春高校の横には背番号5の由那の名前、霜月高校の横には背番号4の子津の名前が書き込まれている。


 現実的なことを考えているこの子は、この学校のキープレイヤーなのだろう。


 しかし由那や子津、明誠のアリスなどそのチームで代替の利かない選手ではない。


 こういうことを考えているところが、一発勝負のトーナメントでは上に来ることがよくある。


 アリスたちのような正統派の力でなく、異端な力を持った悪魔が反対側のブロックに潜んでいる。







 ***

 周りの人とは違って、頑張った彼女たちに声援を送れていない子がいた。


 隣には水色の髪で帽子を脱げば超目立つ人がいるが、その人は「アリスが負けたの初めてなのよね」と、どこか楽しんでいる一面を見せていてよく分からない。



「こんなのって……」



 まだまだ続くと思っていた自分と少女の関係がこれで終わりと小春は思った。


 全国出場を条件にコーチを務めた自分の母が学校を離れれば、自動的にアリスはいるべき場所へ帰ってしまう気がしたからだ。



「これからじゃない。これからあなたがチームを強くすればいい」


「え?」


「だから、自分のことを良く知って。バックアップをしっかりやることができれば、アリスはそれに応えてくれる。そういう子よ」


「いいえ。それならアリスはちゃんと自分にあった場所でバスケをやるべきよ。こんな極東の島国でやるには……」


「それはないんじゃない? アリスはバスケは高校生以上にできるけど、勉強が全くできないから向こうじゃ高校に入ることも無理。せいぜい名もないクラブチームに拾われて、使い捨てられる」


「そんなことない! アリスって凄いもの!」


「それならあなたがアリスを強くして。向こうに帰ったときにはプロになれるくらいにね」


「そんなことできるわけないでしょ! アンジェさんって意味わからないこと言い過ぎ!」


「本気だよ。あなたが今日から必死に頑張って、あの子をもう負けさせたくないという気持ちを持ち続けられるなら、必ずその願いは叶えられる」


「む、そんな真剣な顔で言わないでよ」


「あっ、照れてる。かわいいわね」


「照れてないし! かわいくない!」



 少女たちは自分たちにある無限の可能性を良く分かっていない。


 アンジェリカは既に完成された選手と言われていて、大きな飛躍はほとんどない代わりに高校入学時の二年前からトップクラスの力を持っている。


 そんな彼女はアリスがいなくなってしばらく経った後に同じ州の無名校に痛い目に遭わされたことがある。


 帽子がトレードマークで、その下には後ろ手に髪を結んだ自信過剰な人だった。


 その人の言った言葉を確かめるためにアンジェリカは遠いこの土地まで来ている。


 誰にも言っていないが、そのとき試合に勝って勝負に負けた気持ちは整理のつかないものだった。


 彼女にとって負けるという記憶は、プロの世界でもほとんどないことだったからだ。


 それが今回の身近な人が負けた姿をみて、違う気持ちになりつつあった。


 次は負けない。


 そのためにはどうするか。


 そういった前向きな思いが次から次に出てくるのだ。


 それは隣にいる小さなバスケット少女も同じだろう。


 本当に気付けるまでもう少し時間がかかるかもしれないが、きっと大丈夫。


 コート上とコート外で同じようで全く違うところにいる二人は、流れ星とそれを見る小さな人だとしても、お互いのことを知って同じ気持ちを持ったいまなら、無限大の力を発揮できるようになるのは、そう遠くないことだろう。


 アンジェリカは帰国する前にいいものを見れた、と思って会場を後にした。


 その後、突然の停電が会場を襲ったが、誰がやったのかは結局わからなかったという。






 *小春家*

 小春はアリスの帰りを玄関で待っていた。


 三回戦が終わってすぐに帰った小春と違い、続く午後にある準決勝を見てからアリスたちは帰ると聞いていたので、大分長いこと待っていて身体が若干冷えていた。



「アリス。私じゃ力にならないかもしれないけど、私も一緒にやるよ」



 時間があるのでこうやって話すことの練習を玄関でしている小春はデートへ行く前のういういしい彼氏彼女のそれだ。


 すると不意に玄関の扉が空けられる。



「コハル?」


「いや、今のは違うの! ちょっと幽霊的な何かと話していただけで!」


「また、わたしとがんばってくれル?」


「うん!」




 これまで自宅の庭でしていたアリスと小春の二人だけの練習はもうしないだろう。




 高校生になった彼女たちは自分で考えて自分で判断していく。




 目標は変わらず全国大会を目指すことで、変わったのは背負った思いの数だ。




 それぞれの内に秘めた思いとは別のいろいろが彼女たちを、一歩前へと進ませる。




 謎の水色の髪の女性が言ったように彼女たちの物語はまだまだ続く。




 終わりから始まる彼女たちの物語はこれからなのだ。




 二人の音無と二人の留学生。




 彼女たちが全国に名を轟かせるのはそう遠くない未来のことだ、と思う。




ここまでで、いったんアリスと小春の物語は幕を閉じます。

試合に負けたすべての学校が同じような悔しさを感じているんじゃないかと思いますが、こんな前向きな気持ちを持てるのがスポーツのいいところなんじゃないかとも思います。



閑話休題。



書き上げた直後で、自分でもよくわからないことを書いていますが、この次のことをちょこっと出しておくと、三か月以上放置しているメインの五人が返ってくると思います。

まだハッキリとどうなるかは考えていませんが、エピで触れたような波乱あり、感動あり、笑顔ありになれればいいと思います。



最後に、一月からいろいろと生活環境が変わり住んでいる場所や仕事内容もかわって、稚拙な文章が続いていたようで申し訳ありませんでした。

またここから気合をいれて頑張っていきますので、どうかよろしくお願いします!

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