27:麻痺
少女は連続スリーポイントを決める亜佐美がビデオの中にいた選手だということに気付いた。
あのときは竹春高校の助っ人としてスリーポイントシュートを決めていた。
この試合では既に五本中五本のシュートを決められている。
一度、亜佐美を止めに行った方がいいかとコーチの方を向くと、コーチも悩んでいるようだ。
亜佐美にはマンマークを付けているが、機動力のある風見鶏であったり、独特のペースのある天野であったり、彼女たち周りの人の動きに流されて亜佐美がフリーになったところへパスを送られてしまっているため、対応に困っているのだろう。
彼女のマークに付くのがアリスやセイであれば、周りに流されることなく封じることができるけれど、それ以上に現状のマークを外すのはリスクが高すぎる。
「アリスは、そっちに集中していて。これはこっちでなんとかする」
千里が頼もしいことをいってくれるが、眉間に汗を垂らしている彼女は相手の奇策に動揺している。
こちらが点を取り続けても相手の方が一点多く返してくるのは、明誠側に不穏な空気をもたらしていた。
***
「つまんね」
会場の隅でそんなことを言う人がいた。
小さな波紋が大きな波紋に移り変わってくるように、会場へ来ていた全ての人が思っていた波動がそれを始まりに広がっていった。
無名の高校が強豪校を追い詰めて、残り時間が少なってくれば会場は弱い学校の方を応援するのが心理の一つだ。
しかしそれは同じ土俵の学校同士であればの話。
今回のこれは、片方のチームがやや反則的な方法で急激に力を得ている。
それが金髪ツインテールのアリス・テンペストとボブカットのセイム・クライスター。
日本人にないスピードと高さに加え、ややサイズの小さい少女には超絶テクニックで他者を全く寄せ付けない実力を持っている。
珍しいものをみるという点なら、最初の内はよかったかもしれない。
しかし時間が経つにつれて、それはハッキリと得も言われぬおかしな気分になる。
夏のインターハイは、冬の大会を残していても、多くの三年生が引退してしまう大会だ。
そのため、これが最後の大会だと思っている人は多い。
そんなところに突然、次元の違う選手を入れた元弱小校が出てきて、圧倒的な試合を見せると観客の感覚はマヒしてしまう。
愚痴にも似たくだらない言葉が出てきてしまう。
「なぁなぁ、負けている方って去年の優勝校だろ? それに何十点差もつけて勝ってる方って、凄いを通り越してズルイって思わないか?」
草野球のお爺ちゃんチームにプロを連れてきたようにその男子生徒の眼には映っていた。
留学生の印象が決して良くないというのはしょうがないにしても、酷い意見だ。
しかし会場の行き詰った雰囲気が後押しするようにその考えは広まっていき、選手の耳にまで届くようになっていた。