26:埋もれた才能2
実際問題、余裕なんてなんにもない!
このシュートで十有二月学園は明誠にたった三点差を縮めただけ。
相手のエースを止めて、活躍していなかった選手が得点を決める、という最高の形からの流れは間違いなく十有二月学園が握っている。
しかし亜佐美が三本連続でスリーを決めても、明誠のエースが確実に点を返してくるので思った以上に点差は縮まらない。
この状況をただただ喜んでいられない亜佐美は、調子が続く限り、行けるところまで行くことにした。
確かに亜佐美のシュートは、必殺技といっても差し支えないほどの強力な武器だ。
本来はマネージャーである自分自身、弱いところがある。そのため、この状況が長く続かないことを十分理解していた。
中学時代の自分は、練習を人一番頑張ったつもりでも、緊張のせいで試合になると全く使えない存在だった。
緊張や重圧で、全身が岩のように動かなくなり、本当に悪いときは味方のパスを受け取ることも攻守に走ることも満足にできなかった。
その緊張が、今この瞬間だけは雲一つない快晴のように晴れ渡っている。
仲間のピンチに覚醒したといえば聞こえはいいが、実際はそんなファンタジーなものじゃない。
――試合がここまで崩れたのは自分のせい。
――一姫が遅れたのは自分のせい。
――無能なマネージャーなのは間違いなく自分のせい。
それら自惚れともとれる勘違いが亜佐美を勘違いさせている。
いつまでこの状態が続くのか気がかりだが、その間に出来る限り点差を詰めておきたいとは間違いなく本音だ。
「先輩、ナイスシュートです!」
ベンチから後輩が声援を送ってくれる。
ベンチに下がった今もいつでも行ける準備をしていて、最後に必ずその子の必要な時がくることを、感覚として分かっているのかもしれない。
その思いをボールに乗せることが出来るのが、今の永田亜佐美だ。
そうなのだと、彼女は自分自身に言い聞かせる。
「このクォータ、できるだけ点差を縮めるわよ!」
「「おぉぉおおお!」」
夢も希望も――まだ、ある。
未だ、点差は四十五点あった。