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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(激闘編)
156/305

23:忘れていた気持ち


 少なからず十有二月学園のベンチの雰囲気は悪くなっていた。


 それを払拭したのは、一年近く一緒に練習を重ねてきた頼れるエースの到着だ。



「この点差は洒落にならないね」


「ホント洒落にならないわ」



 いつも通りの調子で亜佐美が冷たく返す。


 学校側の用事で試合に遅れたとはいえ、最初から一姫がいれば試合がここまで崩れることはなかったはずだ。


 ここまでの試合を見てアリス&セイムの金髪コンビを止めるには天野、一姫、秋葉の三人がいれば不可能なことではなかった。


 しかしそれは希望的観測だ。後半からは、謎の不調状態の天野と消耗の激しい秋葉は下げなければならない。


 それを知ってか知らずか。


 一姫は真剣な顔で亜佐美に聞いてくる。



「そんで、私はどうすればこの試合をひっくり返せるの。教えて、亜佐美」



 一姫が亜佐美のことを愛称で呼ばないのは、それだけ真剣だということだ。


 エースの絶対条件として、チームの勝利をあきらめない心を彼女は確かに持っている。


 その心とは別に亜佐美の中にくすぶる心は燃え盛る炎のような怒りだった。


 この試合で亜佐美が貢献できたことは何もない。


 二十分間を通して、選手でない自分の無力さを思い知らされるだけだったのだ。


 結局、相手に見破られた天野の弱点は見抜けず、数か月前に入部した一年の秋葉に全てを託すことしかできなかった。



「……分からないわよ。もうどうすればこの試合で勝てるかなんて! いくら考えても出てこないの! 完全に試合は壊れて――」


「そんなことない。まだ終わってないよ」


「あんたは知らないだろうけど、天野も秋葉も後半の試合には出せないわよ」


「うん。二人ともすごく悔しそうに下を向いているからなんとなくわかるかな」


「そう……それは察しがいいわね」


「亜佐美的には、やれることは全部やったって感じ?」


「……」


「やれることはやろう。そうしなきゃいけないと思うんだ。だって口では弱気なことを言っていても、亜佐美のギラギラした眼はそんなこといってないのは分かる」


「え?」



 無意識に自分の顔を両手で覆う亜佐美だが、恥ずかしくてそうしているわけではない。


 一姫に見透かされたようで癪だが、自分でも気付かなかった本心に彼女のおかげで気付かされたのだ。



「ふふ、ふふふふふっ」


「亜佐美?」


「行くわよ一姫。試合がまだ終わっちゃいないってことを教えてあげましょう」


「そうだね! まだ終われないよね!」



 一姫が聞いた亜佐美の言葉は、試合を動かす力を秘めた力強い言葉だった。


 亜佐美の中で燻っていた怒りは、悲しみや後悔を経て驚きに変わり、あきらめていた気持ちを支える何かに変わった。


 これは十有二月学園の四人目に足りなかった何かを、取り戻させるものだった。


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