20:強豪校の倒し方03
天野にセイムがついて何度目かの対戦。
ミスをすることが少ない彼女が、凡ミスをしてボールを取られてしまう。
ファールの笛もなく、強く身体をぶつけられたように相手と距離を置く天野の姿は、表情に出さないが確実に動揺している。
「気持ちを切り替えて! まだ追いつける点差だわ!」
ベンチからの声で我に返るとスコアはまだ一桁差しかない。
天野は今まで敵味方で自分より強い人とは何度も対戦してきた。その誰と戦った時にも感じなかった謎の感覚が大きな戸惑いを生んでいる。
それが何であろうと開始早々集中力を切らすわけにはいかない。
「ごめん、秋葉。ちょっと集中切れてた。もう同じミスは繰り返さないよ」
セイムが戻りきる前に、天野から秋葉へパスを送ろうとする。
そこへ天野がボールを持ったということでアリスがプレッシャーを掛ける。
天野対策としてセイムは常にマークに付き、アリスは近くにいればたまにいく。
そうすることで徹底的に天野を潰すのが目的だ。
アリスの素早い寄せで速攻は防がれてしまうが、天野得意の相手の隙を見つける眼でパスコースを探る。
すぐ後ろまでセイムが来た時、天野は再び凡ミスからアリスにボールをカットされてしまう。
今度はドリブルに行く足並みがそろわず、足にボールが当たるという信じられないミスだった。
「先輩……」
チームの中心選手の異常にコート上の選手、それにベンチにいるマネージャーも気づいた。
「あいつは何を焦っているのよ。まだ試合は始まったばかりなのに」
この失点で点差は二桁差になるが、それでもスリーポイント四本で逆転ができる。
まだまだ大丈夫だ。
「おかしいな、誰かに身体を押されたみたいに勝手に身体が動いちゃう」
「ミイ先輩。少し下がりましょうか? ペースは落ちますが確実に点差を縮めた方がいいかもしれません」
「うん、そうしようか。アサミンの目も厳しくなっているし。これ以上下手くそなプレーをしたら代えられちゃう」
「……えっと、流石にそれはないと思いますけど」
去年創部した十有二月学園は、選手層の厚みが全くといっていいほどない。そのため天野の代えとなる選手がいないことは誰もが知っている。
「今度は、やられない!」
時間も置かず、天野とセイムは再び対峙する。
今度はアリスと距離がありフォローにこないため完全に一対一だ。
西條のマークに一人ついているが、そのくらいなら彼女は何とかして点を奪ってくれる。
決して強固でない守備は、長身の金髪を超えれば打ち破ることができる。
「秋葉!」
天野の動きに合わせて、秋葉がスクリーンを上手く作って抜け出した。
ゴール下から少し離れても、彼女ならある程度の距離からのシュートでも点を取れる。
だが、完璧かと思えたプレーはあと一歩のところで防がれる。
今度は、セイムが天野の手のひらごと叩いてファールが言い渡された。
調子を取り戻した天野はすぐにパスを回して上がり、秋葉からのラストパスを受けて、ベンチを安心させるきれいなフィニッシュを決めてみせた。
――もう大丈夫。そう思わせるかのようなプレーはこれが最後となった。