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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(激闘編)
148/305

16:ハジマリの夜2


 明誠高校では生徒たちが自分で考えて、こうしよう、ああしようと決めた作戦ための練習が行われていた。


 明日には大事な試合が控えている。


 全国大会出場を決める準決勝でも、去年の雪辱を果たす初戦でもなく。


 ましてや明誠高校初の優勝を決める決勝戦でもない。


 いうなれば次の試合は、他の学校なら通過点にしか思わないような何でもない試合だ。


 しかしも何も本当にそうなのだから反論はできない。


 前の試合からたった一週間だが、明誠高校女子バスケットボール部は変わったことがある。


 それは遅咲きの絆だ。


 ある少女について一番近くにいた少女が知る過去を知って、意識的に周りと親しくしない少女の訳が分かったのだ。


 一見、スポーツ特待生として留学してきた人なら恵まれた環境でこれまでもこれからも過ごしているものばかりと思っていた。


 初めにコーチから聞いた通り、その少女は時間が経てば勝手にプロになって成功する人なんだと勘違いしていた。




 ――そんな人はこの世のどこにもいるはずがないのに――。




 それを知っただけで彼女たちはまだ遅くないと思った。


 自分たちが勝手に期待する少女が、手の届かない存在なんかじゃないと分かったから、ようやく一対一で話すことができる。


 風邪を引いて、初めて飲んだ薬が効きすぎたのかなかなか体調が回復しないアリスの元へ数人ずつ部員がお見舞いに行った。


 毎日びっしょりと汗をかいて歩けなくなるくらいへとへとになった部活終わり、学校でシャワーを浴びて、そのままの足でアリスのいるコーチの家にいって、少女の眠る横でなんでもない雑談をした。


 病人の横で騒がしくするのは間違っているのかもしれない。


 現にその雑談から顔を背けるように、毎回、アリスは反対側を向いていた。


 四日中四日、顔を背けていたのできっと起きていて話を聞いてくれていたのだと思う。


 きっと迷惑に感じていたのだろうけど、話す方は話してみたいことがたくさんありすぎて、どのメンバーも饒舌に話しすぎて外が暗くなる頃にコーチの車で送ってもらっていた。


 最後の夜、平日をずっと眠り続けて身体が鈍りきっているアリスの布団に潜り込んで小春が話しかける。



「チカイよ」


「一人用だからね。しゃーなしよ」


「シャーなし?」


「そんなことはどうでもいいのよ#」


「しゃーなしダナ」


「それより、ここ最近、ずいぶん仲良くなったのね」


「さぁ、ねてるときのことはワカラナイ」


「それは偶然ね。きまって無意識に顔を背けるなんて偶然ね」


「ファンタジー、もしくはミラクル」


「ねえ、抱きついていい?」


「???」


「はい、ぎゅぅううう」


「###」



 ああ、恥ずかしい!



 小春は心の中でそう思っているが、小春の身体は意思と関係なく細身のアリスの背中を抱きしめている。


 これほど衝動的に動く小春は珍しいが、なんとなくこうしたいと思ったのだ。


 そのまま無言の時間が続き、アリスと小春は眠ってしまい、翌朝になっても抱き枕にしていたことにアリスは、顔を真っ赤にして真剣に怒ってさっさと下に降りて行ってしまう。


 このとき小春は、友達みたいだなって初めて思えた気がした。


 どこかよそよそしく感情がこもっていないこれまでとは違うような気がしたからだ。





 ***

 そして予選三回戦。


 明誠高校は、アリス・テンペストとセイム・クライスターが、鮮烈なデビューを飾ることになる。


 前の試合にセイムは短い間しか出ていなかったため、試合に出るメンバーが発表されて順番にコートに立つと観客からドッと歓声が沸き起こる。


 この歓声が止まないうちに試合は始まった。



 試合に出ている選手や、見に来ている他校の人や観客たち。



 様々な思いが交錯して、試合は後半戦へ向かう。



 第二クォーター終了時点でスコアは、大会最高の五十点差をつけ、リードしている学校が会場や運、勝利に必要なすべての要素を味方につけつつあった。









『わたしは、レンシュウダイでもフミダイでもない。わたしはわたしなんだ』







 試合はもう始まっている。


次から、十数話ぶりに試合を描写していきます。

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