表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(激闘編)
147/305

15:ハジマリの夜1


 週末に大事な試合を控えるアリスは何故か傘も差さずに雨に打たれていた。


 その視線の先には、セイムと同じくらい高身長な外国人の集団がいた。


 その集団はアリスとは全く関係のない人たちだった。


 普段のアリスなら、それが知らない人たちだということはすぐに分かっただろう。


 しかしこの日のアリスはどうかしていた。


 背格好だけで昔のチームメイトたちだと勘違いしていた。


 全身が凍えるほど冷たくなるまでアリスはその場から動けなかった。





 ***

 対策会議二日目も音無家で行われた。


 週初めの月曜日は、大会での疲労を考えて軽めの練習になった。


 それでも大会中ということで続く三回戦について各自考えてくるという宿題を三年生と一部の生徒に課せられた。


 その翌日、音無家の会議にアリスは病欠した。


 その理由は夕立にあたり身体を冷やしたままフラフラしていたせいで引いた風邪らしく。


 よく利く風邪薬を飲んで一日中寝て、すぐに回復するだろうとコーチが言っていた。


 できれば医者に見せた方がいいのだが、アリスたちは日本の保険に全く入っていないので、いろいろと問題があるためドラッグストアに走ったのだ。


 アリスの看病を小春に任せてセイムも作戦会議をする一階に到着したところで、第三回戦についての対策を話し合い始めた。


 コーチが最初から最後まで話すだけでは選手たちが何も考えずに試合をしてしまう。


 そうならないようにまず選手たちが考えてきた宿題の答えを各自が発表して、意見を言い合ったものをキャプテンの千里が分かりやすく簡単にまとめる。



「――このくらいね。みんな疲れているのに、何回もDVDを見てくれたってのが伝わってきたわね」



 十有二月学園の初戦を撮ったDVDを焼いて、三年生全員に事前に渡しておいた。


 トーナメントの組み合わせを見れば、普通に考えればここで終わる。


 しかし、もしここを超えられれば、決勝戦まで大した敵はいない。


 そのため今年が最後の三年生は頑張った。


 一晩しかないのに全員が注意深く試合を観察した意見を言ってくれて千里は瞳にきらりと光る滴を見せた。



「それじゃあ、コーチとウチが研究してきた“これまで”と“現在”をもう一度話し合って、早めに終って明日に備えようか」



 またしてもセイムのプラカードを借りて千里がいろいろと書いていく。


 今回は、前回のときに説明した十有二月学園の選手個人のストロングポイントは省略した。


 今回の議題は、端的に言って彼女たちの弱点について話し合う。


 調べてみてから分かったことだが、創部二年目の十有二月学園には伝統の強豪校にはあり得ない弱点が確かに存在した。


 そこを突けるかどうかは分からないが、勝つためにはそこを徹底的に考えてみんなで勝利を掴む。


 例えその手段が、みんななんて言葉を嘲笑うような外国人の少女たちに託す感じになっていようと、その道筋は彼女たちが自分で考えて決めることだ。



「まず、みんなに聞いておきたい。DVDを見た三年生は分かってると思うけど――」



 千里は“確認”の意味を込めて問いかける。



「あの学校に勝って全国にいくにはこの場にいない一人とこの間の試合で活躍したセイムの二人の力が必要。その二人が試合に出ることに賛成じゃない人は手を挙げて。正直な意見で頼むわね」



 千里はなるべく優しい声で聞いた。


 無理やり言わされているわけでないことは、チームのみんなも分かるが、それぞれ納得できない部分もある。


 少なくとも現在試合に出られている三年生のうち、二人が試合に出れなくなる。


 それに加えて、一度も練習に来ていない一人に試合を託すことへの同意を求めている。


 それは凄いことだろう。


 そもそもこれはあまりフェアな話合いではない。


 意見を聞く場は、二人を連れてきたコーチの家で、二人の実力を練習試合で見せつけられている部員たちは安易に二人を否定できない。


 この二人がいれば勝てそう、とは違い。


 この二人がいれば勝てる、という風潮が強い。


 現に、二人が噛み合った試合は全国区の高校にもそう負けたりはしないだろう。


 そう思えるのだ。


 特にアリスの持っているバスケは、他を圧倒している。


 タイプで言えばアリスに「カザミー」呼ばわりの風見鶏一姫が一番近い。


 どういうことかというと、アリスのバスケはオールマイティーに凄い。


 全員が低い能力でも、アリスにやる気があればそれを底上げする力もある。


 しかしそれを使わなくても個人の力で、日本の女子高校生くらいならぶち破るくらいの力の差を持っている。


 それを踏まえて、部員たちは手を挙げなければならない。



「まあ、分かっていたけど……反対は、ゼロね。遠慮はしなくていいよ。コーチがいることは忘れていいから」



 部員たちが互いに目配せをするわけでもなく、意見が一致していた。


 それは同時に次の試合にどうしても勝ちたいという思いに直結する。


 そう思うことにした。



「それじゃあ、二人ありきで次の試合の対策を考えていくわよ。はい、集中!」


「あの、その前に私たちはもっとお互いを知るべきなんじゃないんですか?」


「土井さん、そうゆうことは、今、関係ないよ」


「そうは思いませんけど!」


『それだったら……』




 ***

 二階では小春の部屋で寝ているアリスの側に小春がいた。


 近づく試合に向けて体調を万全にするために全力で休息している。


 しかし思い通りに深い眠りに入れず、すぐに目を覚ましてしまう。


 その度に小春はアリスが寝なおすまでの話し相手をしている。


 話の内容は、下にいる人たちが知らないアリス本人のことについて聞く気がなくても勝手に話される。


 アリスの言葉は、聞かせて理解してもらおうとする話し方ではなく、彼女本人が気を紛らわせるだけの途切れ途切れになったものだ。



 小春が聞き取れたことと、以前ネットで調べたりセイムに聞いたりしたことをまとめると次のような内容になる。



『アリスのいた施設には明確にランク付けされたチームがある。


 完全実力主義で、メンバーが変わるのは基本的に入れ替え戦だけ。


 そこでは同ポジションの選手を蹴落とすしかない。


 その中で最も長い間、チームAに残り続けたのがアリス。


 一部の身体的特徴を除けば、ボールハンドリング、ドリブル、シュート、トランジション(攻守の切り替え)、スタミナ(基礎体力)、スピード、メンタルなどの全てでプロを目指せる成績を残し続けたおかげだ。


 そうして十五歳になってしばらくしてから小春の母に声を掛けられて――――』



「生きている世界が違いすぎて、それが本当のことなのかどうかはわからないな」



 あと一年もすれば本当に手が届かないところへ行ってしまいそうな、そんな感覚。


 アマとかプロとかいろいろな分野にいるけど、学生と社会人くらい近いようで全然違う。


 アリスが眠りに入ったのを見て、温まったタオルを冷蔵庫の奴と交換するために降りた。


 するとリビングで行われている作戦会議が一段落ついたのか、ほとんど話し声が聞こえてこない静かな状態になっていた。


 そこで小春は信じられない言葉を聞いた。



「それじゃあ、アリスが日本にきた本当の理由って……」



 アリスが言っていたことからは想像もできないことだった。



予定通り書ければ、次で章の前半が終わり、試合へ移行していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ