13:少女たちのシアイ
接戦を制して念願の初戦突破をした明誠高校。
一時間弱の休憩後に続く二回戦を控えている。
対戦相手は、明誠の一回戦と同時刻に試合があり、去年は三回戦まで進んだ学校だ。
決して敵わないほど強い相手ではないが、選手の層は明誠よりもよっぽど厚く、出し惜しみして勝てる相手じゃない。
ここを乗り越えればその次にある試合で圧倒的なアドバンテージを得ることが出来るのも確かだ。
そうはいっても続く二回戦は一時間弱先のことになる。
売店へ行って昼前に軽い食事をするのもいいけど、コートではトーナメントの反対側にあたる学校たちの試合が行われている。
十有二月学園と同じシード校の霜月高校はこの日に試合をしないらしいが、面白いトコがあるとアリスが試合を見る気満々なので、試合を観戦することになった。
試合が始まる前から面白そうといった理由は、コートに整列する両チームの面々を見てすぐに考え着いた。
ベンチが潤沢な学校と、ベンチにマネージャーや顧問を含めて三人しかいない学校の試合だ。
少人数の学校は先発で選ばれる選手も人数合わせのような子がいて、特にその身長差が酷い。
両チームの誰よりも背が高く、身体つきががっしりした一人は二メートル近い身長があるが、その人と同じチームに平均より一回り小さな選手もいる。
この選手を出すくらいなら、ベンチにいる人を出した方がいいんじゃないのかと小春でさえ思ったくらい運動ができなさそうな子だ。
試合が始まり、各選手ポジションに着くと、その子がチームの指令塔を担うポイントガードでさらに驚かされた。
「なんていう高校かな……えっと……たけはる、竹春高校かぁ」
これといって小春は聞いたことがない学校だった。
「あ……ビデオのトコだ」
「十有二月学園は今日の午後からの試合だけど?」
「そっちでなく」
「ではどちらなのか?」
アリスが小春に伝えたいのは、この間の部員が集まって対策を立てた日とは異なる。
それより以前に、小春の母が手に入れた全国区の高校が気まぐれに行った練習試合の映像のことだ。
試合の映像は途中からしかなく、U―18代表の長岡萌が出場してからのものをアリスは小春の母親と一緒に見ている。
当時の竹春は、使える武器を最大限生かして持てる力の全てで全国の強豪校に挑んでいたがその力は決して長岡一人に対しても通用しないものだった。
しかしその突破口を開いた選手が試合の最終局面で出てきた。
その選手が今、アリスの前にいる。
「こんなバスケもあるんだ……」
映像で見たバスケでは圧倒的な個人技を駆使していた選手がこの試合では、パスの中継役として活躍していた。
その姿は、あるチームにいたある少女の姿にダブって見えていた。
ある少女は、自己犠牲によるチームのためのプレーをして――そして――。
アリスは試合を集中して見ていた。
自然とアリスの口から言葉が漏れていた。
「シアイしたいな」
「次の試合にでちゃえば? 同じ時間に十有二月学園も試合だから、偵察もいないかもよ」
「がまんする」
「あの人はその方が、都合がいいかもね」
「どういうこと?」
「あの人にとって結果が全てなのは間違いないけど、選手に重圧をかけて強引な手を使ってくるのは凄く嫌い。あの人が自分で国内ならほぼ無敵って言っていたアリスたちを隠してまで勝ちたいチームがこの地区にいるとは思えないんだよなぁ」
「そんなことない。いまシアイをしているトコもつよいヨ」
「そうは見えないんだけどなぁ」
遠くから見ているだけでは、なんちゃって経験者の小春だとその選手の凄さというのは良く分からなかった。
「どんなにふりなじょうきょうでも、あの5バンはパスをおとさない」
「確かに!」
「コハル、ウソはよくない。テキストとにらめっこしているときのナニもワカラナイかおしてる」
「はい、ごめんなさいでした」
その試合は予定通り終わり、次は明誠高校の二回戦がある。
そして同時刻にシード校の十有二月学園の一回戦がある。
アリスがどちらの試合の観戦をするのかと思えば、少女はおかしな提案をしてくる。
「つぎのシアイは、コハルにベンチにはいってもらう」
「はぇあはい?」
「きっと、つぎのシアイはセイがでるから、そのデンゴンヤクをして」
「えっ、いやだ」
「ソウ、イワズニ」
「断固拒否する!」
「いまから、ここでまっぱだかになってドゲザしてもいいんダヨ?」
首を傾げて上目使いにアリスが聞く。
春風コーチからの必殺は、その娘の小春に喜怒哀楽の様々な表情をさせて首を縦に振らせた。
次の試合、登録名:アリス・テンペストで音無小春がベンチ入りする。