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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(激闘編)
144/305

12:少女の見るセカイ


 明誠高校の地区予選一回戦が市民体育館で行われていた。


 この一回戦で試合に負けることがあれば母親が職を失うということもあり、小春は観戦に来ていた。


 すると試合に出ていなくともベンチにいるべき少女の姿を見つけた。


 深紅のリボンで結んだツインテールはいつも通りで、申し訳ない程度に浅く被った帽子は姿を隠す気があるのかないのか良く分からない。


 足を忍ばせて近づき、少女の小さな肩を優しく掴む。


 もうすでに試合開始のホイッスルが鳴り響いた試合に注目していた少女は少し驚いた反応を見せる。



「コハル……どうしてきたの?」


「それはこっちのセリフ。どうしてアリスがベンチにいないのかって方が不思議ね」


「きょうは、カンセン。なにもシンパイはいらない」


「そうは、見えないけどね」



 試合に集中したい少女の横顔はとても真剣で家では見せないものだ。


 客席ではなく、会場の隅からアルミ製の手すりを強く握りしめている。


 初めの頃に見た試合を楽しむ表情とも家で緩やかに過ごすときとも違い、少女の気持ちが溢れ出しているのかもしれない。



「あっ、餡蜜も試合に出てる」



 新生明誠高校の初戦がどのようなものなのかというと、大方の予想通り、大分苦戦している。


 試合運びこそ毎年初戦敗退のチームとは呼べないほどスムーズだが、あと一歩のところで決定力にかけて僅かなリードを守りきれずに即座に逆転を許す展開が続いている。


 明誠は事前にビデオで研究した相手チームのパスパターンの先読みでパスカットを成功させる確率が非常に高かった。


 初戦にかける二、三年生の思いが実を結ぶことになったようで嬉しい話だと思うけど、ただそれだけなのだ。


 走力のある餡蜜が先発で出ているのも、このパスカットを成功させるピースの一つ。


 それは成功している。


 しかしカウンターにせよ、練習で習得した早いパスワークにせよ最後にシュートを決めるフィニッシャーが全く育っていない。


 そのポジションは、本来アリスでありセイムであったのかもしれないが、この試合と続く二回戦で彼女たちの出番が回ってくることはできればやりたくないはずだ。


 そのことで一度、音無親子は衝突しているが、この非情さに選手たちは納得しているのかと、小春には疑問だった。



「心配をしすぎるに越したことはないのだろうけど。ここまでの練習試合で通用していなかった人たちに、試合をさせるなんておかしいよ」


「……むむむ……」


「反抗的な目をしてるね。でもさ、アリスが試合にさえ出ていればこんな相手楽勝なのにね」


「うん」


「そこは素直なんだ」


「でも、センリはまだホンキをだしていない」



 アリスが見つめる先に福島先輩がいた。


 先輩に期待をしている理由は、彼女が何かとセイの世話焼きをしていることを聞いているからだろう。


 実力からみても部内なら、一番の実力者。


 試合が終盤に入り、最後のタイムアウトを取って逃げ切りたい明誠高校。


 勝った方はすぐ二試合目があるのに、息をぜえぜえ吐いている先輩たちは大丈夫だろうか。


 もちろんその中にはアリス期待の福島先輩もいる。



「本当かなぁ?」



 アリスたちの出番なく大会が終わりそうな気が、とってもした小春だった。



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