09:選手とコーチ
予選の組み合わせが決まり、チームの方針が決まった。
コーチとは選手と共に並び立たず、偉大なものとするがもっとうの音無コーチが部員たちの前で話す。
「トーナメントの組み合わせが決まった。一番警戒していた相手は反対のブロックになって私は一安心よ」
「はい、コーチ。それで初戦はどこと当るのでしょうか?」
福島千里がコーチに聞くが、マイペースにコーチは答える。
「初戦と二回戦は問題ない。あの程度のチームに負けるようには鍛えていないからな。逆にそんなところに負けられたら困る」
「はぁ? それでどこと――」
「問題は三回戦だ。シード校だ。十有二月学園だ」
「それで――あぁ、あそことまた当たるんだ。去年は一回戦で先輩がメタメタにやられた」
「そういうわけで、アリスたちは三回戦から使う。それまでは任せたぞ、福島」
「はぁ、え?」
千里は言われていることが良く分からなかったが、ようは毎年一回戦負けの明誠高校が自力で三回戦までいきなさい、と言われている。
にわかには信じられないが、このコーチはどこかおかしい思考をお持ちのようだ。
「無理です。今の私たちの力でそんなに勝てません。せっかくコーチが組んでくれた練習試合も私たちは全戦全敗です」
「男子相手にあれだけやれて何を言うんだい? 元々、福島、君は三年前には選抜候補に選ばれるくらいだったじゃないか」
「あれは例の中学が全員拒否して、サブのサブとして呼ばれただけです。結局は候補に残れませんでした」
「まあまあ、全国でも数十名しか呼ばれていない合宿に参加できたのだから自信を持てよ。例えば、今日まで一緒に練習をしていたアリスとセイムは、その例の中学の生徒たちよりも実力は上だぞ。そいつらと二か月も練習を共にしていれば、実力は底上げされているだろ」
「あの、コーチ。セイムさんはともかく、アリスって人とは練習試合以外で一緒になったことはないです。確かに、セイムさんや男子バスケ部との試合のおかげで背丈のある人対策は十分にできましたけど、それだけです」
「やぁやぁ、しゃべるねぇ。それだけ分かっていれば、死ぬ気でやれば勝てる。もしも負けそうになったら、ラスト一クォータで二十点差以内ならアリス一人でひっくり返せる。安心しておけ」
『めちゃくちゃじゃないですか』
千里はその思いを心の中に隠した。
チームとしての目標は、一、二回戦を留学生コンビ抜きで突破して、続く最大の難関となる三回戦で十有二月学園というポッと出の新設校を留学生コンビで倒すこと。
そうすれば自然と全国への扉は開かれるはずだ。
あまり先のことを考えるのは、千里としても得意でないが三回戦まで行ければ、去年の天野や風見鶏のコンビ以上にこちらのコンビが相当凄いということを知っている。
明誠高校が獲得した留学生が、停滞しつつある高校女子バスケットボール界に旋風を巻き起こすのはもうすぐそこまで迫っている。