13:松林中VS巻風中 1Q
13:松林中VS巻風中 1Q
松林中と巻風中は練習試合を組めるだけの交流も因縁も持っていなかったが、今週末にその試合は組まれていた。
それは巻風中の調整役ということで松林中が選ばれたことによる。
もう北九州で巻風中と好き好んで試合をする学校がなく、松林中の顧問代理の電話一つでこの試合は決まった。
場所は巻風中、試合は8分×4と場所以外は中学女子バスケの一般的なルールに順ずる。
そして今日は試合の日である。
第一クウォーター
ジャンプボールは松林中琴音、巻風中大木と中学生とは思えない高さを持つ二人になった。
琴音より背の高い大木はらくらくジャンプボールを制して仲間のところへボールを落とす。
すぐに前日の夜に考えた作戦通り、松林中の四人は動いた。
***
前日の練習の後、琴音以外の四人は一度解散してから再集合して作戦会議を開いていた。
「練習後にもう一回集まろうっていったのはあたしなんだけど。まず何をしたらいいのかしら」
「明日の試合に勝つか負けるか、どっちを目指すかってこと?」
涼香の話に純が意味深なことを答えた。
茶化さないでまともに話す純は珍しい。
「涼香には悪いと思うけど、一衣に余裕で勝てる相手になんてたぶん勝てないよ」
「でも勝負はやってみなくちゃわからないでしょ」
「この前の練習試合でも見たと思うけど、一衣は私らや琴音と違ってずっとバスケをやってきた。全国の大会にも何度も出ているし、中学最強の学校のエースとも遜色ないって私らは思っている」
「……それがなによ」
真面目な純は、残酷な言葉を言おうとする。
それに割り込んだのはここ数日ですっかりチームになじんだセイラだった。
「純はきっと作戦なんて立てたってっていおうとしたと思うけど、以前私のコーチだった男がこんなことを言っていた」
セイラはいつも通り淡々と話す。
『僕はあまり賢いほうじゃないし、監督でもないから強制することはいっちゃいけないんだけど、どんなに強いチームを作ったとしても、そのチームを強くするためには考えることは重要だよね』
「こいつは結構な馬鹿とみんなで思っていたんだけど、このときだけはコーチっぽいことを言うと思った」
『最初から自分がどんなことができるか分かっている“才能のある人”じゃなくて、結末を創造する“方法を知っている”方が試合には勝つ』
「私に尾上を封じる作戦がある」
***
尾上のマークには涼香がついた。
ボールを持っていない状態でも引き離されないような運動量は、このチームだと涼香が適任だったからだ。
しかしそれでもエースにボールを集める巻風中は、強引に尾上にパスを回す。
「セイラの言ったとおりね」
人一倍負けず嫌いの涼香が抜かれ際に呟く。
「次は私たちよ!」
涼香が抜かれた後をカバーするようにセイラと純が尾上の前に現れた。
チーム一の守備力を持つ純とバスケ選手としては別のベクトルで規格外のセイラは尾上にとっても予想外だったのだろう。
高さで勝負するにはゴールから遠すぎる位置で、身長が低い相手と戦うなんて、たった数ヶ月しかバスケをしていなかった――それも強豪校のエースばかりと勝負していた人にこれは攻略できない。
「初、涼香!」
低空ドライブをさらに低い位置から奪取したセイラが前線に上がる二人に声をかけてパスを出した。
二人で次々と巻風中のディフェンス陣を抜き去り、ゴール下に待つ琴音にドンピシャでボールを渡すと期待通りのパフォーマンスで琴音は先制点をとった。
そのパターンを三、四回繰り返したところで、ようやく巻風中はエースをいったんあきらめることにした。
涼香は攻めに転じたとき以外は常に尾上のマークについていて、そのすぐあとに涼香のフォローに入る二人もその近くに必ずいる。
すると自然とフリーの選手が出てくる。
誰の目に見ても明らかな穴に漬け込まないはずがなかった。
巻風中のPGがフリーの選手にパスを出した。
そこへ小さな影が跳躍した。
「初、もっと左!」
パスコースに飛び込んできたセイラがコースを変えて、左にスライドした初にパスを送る。
想定外のリフレクトパスに対応できていない巻風中の左サイドを初が一人であがっていく。
中にいる琴音にパスがくると思っている巻風中の裏を書くようにそのまま初が外からシュートを放った。
それが運よく決まり、初が短く喜んだ。
「ラッキ」
しかし巻風中のベンチにいた高校生コーチが合図をすると、途端に攻めづらくなった。
ゴール下の琴音には身長だけでバスケをする大木がつき、安易なパスはほとんど弾かれ、得点源にパスを回せなくなる。
なにより、何がどう変わったわけでなく尾上に涼香が簡単に振り切られるようになってフォローが間に合わず得点されていた。
点差を2ゴール差まで縮められて第一クウォーター終了。