01:流星の少女
新章開幕です。
私、音無小春の通う明誠高校は女子バスケットボール部があります。
女子バスケ部があることは特段珍しいというわけでもないが、女子の運動部が豊富にあるということで明誠高校は、受験の倍率が高く、今年入学した私は大変な思いをした。
女子の運動部には、バスケにバレー、サッカー、ハンドボール、ソフトボール部などなど多種多様な部活動がある。
それぞれが強いというわけではなく、競技人口の少ない部活では全国大会に出場する部があるほどだ。
私は、中学三年の夏に明誠高校の女子バスケ部の試合を見たことがあった。
なぜバスケの試合を見に行ったのかというと、理由は二つある。
まず、私は中学のときにバスケ部に所属していた。
その期間はとても短く、一年未満しかやっていなかったが、バスケを嫌いになったからやめたというわけじゃない。
むしろスポーツとしては好きな方だ。
もう一つの理由は、親の仕事の都合でその試合を見に行った。
それは当時の私には分からなかったが、この高校へ入学して、流れ星のような少女に出会ってから分かることになる。
その試合は、なんちゃって経験者の私から見ても“無残”という言葉が相応しいものだった。
対戦相手は、名前すら聞いたことがない創部一年目の高校で、ほとんどがバスケ未経験者のようだった。
ボールを持ったときの落ち着きのない様子や、ノーマークの状態でもたくさんのシュートを外してしまうというのは、自分とよく似ていると思えたからだ。
その中に一人、笑顔でバスケをする人がいた。
今思うとそれはニヤニヤしていたと思い直せるが、その人だけが別次元のバスケをしていた。
チームの中心に立ってゲームをコントロールする様はオーケストラの指揮者のようで、バラバラな旋律を上手く調律していた。
平穏な性格と思えた指揮者は、ときには勇ましく自分から点を取りに行くことで試合を決定づけた。
たった一人に明誠高校は敗れたのだ。
その予選からしばらくして監督が変わったという女子バスケ部は、今年は打倒その高校ということになっているらしい。
私の友達の友達に聞いたことなので正確なことは分からない。
そんなバスケ部と私が高校で初めて接触したのは、放課後の部活紹介で様々な部活を回っているときだった。
部活動が一覧になった紙を眺めながら、席の近かった子と二人で体育館の近くを歩いていた。
「音無さんは希望の部活とかあるの?」
ありませんね。
身体を動かすのは、なかなか下手くそだから。
そんなありのままを言えない私は、適当に笑顔を作って話を流した。
「そういえば、うちの男バスにカッコいい先輩がいるらしいから見にいこう! ほら、部活紹介で四番のユニフォーム着ていた人!」
「そんな人いたっけ? あんまり覚えていないけど」
男子バスケ部の部活紹介というと、私の苦手なチャラいイケメンがフリースローを決めてドヤ顔をしていた記憶しかない。
もしかしたら、そのイケメンがカッコいい先輩と彼女は思っているのだろうか。
できれば彼女と友達になりたいと思っているが、私的に中身のない男はちょっと……。
「あれれ、試合をやっているみたい……」
「――――!」
それはさっきのドヤ顔先輩のいる男バスと新入生が男女混合でミニゲームをしているところだった。
さすがエースナンバーを背負っているだけあって、あのドヤ顔はバスケが上手だ。
しかしそれ以上に輝く少女の姿が、私の瞳に止まった。
私が今までに見たことがない速さで動いて、周りとは時間の流れが違った。
全身をバネのように使う跳躍はどこまでも飛んで行けそうで、ふわふわ浮かぶ妖精のようだ。
さらに日本人離れした容姿も私の妄想を加速させる。
透き通るような白い肌に、金色の髪は結んでいたゴムを失い彼女が作る風になびいていた。
その少女が、体格の違う男子を圧倒する様は、まさに爽快だ。
それがこの日から長い付き合いになる、私と流星の少女との出会いだった。