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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(開幕編)
130/305

52:エピローグ01「希望の翼」


 東東京都大会準決勝戦――千駄ヶ谷高校対大和郷やまとむら女子高校。


 準決勝と決勝とを同日に行う厳しい日程のため、ベンチを含め登録した十二人がフル稼働するはずだ。


 なぜならこの試合に大和郷は全てを賭けてくることが予想されるからだ。


 東と西で各二校ずつ全国へ進むことができる都大会。


 つまり全国出場を賭けた大事な一戦ということである。


 昨年度の成績から決まるランキングで、全国第三位の千駄ヶ谷高校は、ここまでの試合を前評判通り勝ってきたとは言えない。


 去年の主力やエースが抜けているとはいえ、今年のカラーをしっかり持ったチーム作りができていて、新入生も某中学のフルメンバーが上がってきている。


 それなのに波に乗れなかったのは、直前にエースとして期待された一年生が太腿裏の痛みを抱えたまま初戦に出場して、その試合中に肉離れを起こしてしばらく試合に出場できなかった。


 それに対する相手校は、高さと速さを兼ね備え単純にいえばフィジカルの強い女子高校。この大会で一番波に乗っており、昨年千駄ヶ谷高校を苦しめた高校に勝って準決勝に駒を進めている。




 そうして、これまでの試合を欠場してしまった二條まゆの復帰戦が開始された。




 同日に続く決勝戦があるため通常とは違うメンバーの千駄ヶ谷。


 前半を一年生の攻撃力で蹂躙していたメンバーと違い、バランスがとれた省エネの陣営の中、下がりぎみの位置にまゆはいた。一年生ではまゆの他に万能型の田蒔鳴とプレッシャーに強い攻撃型の今村小路もスターティングメンバーに選ばれている。


 それと対照的なのは、あと一つ勝てば全国への切符が確実なものになる対戦校だ。


 次の決勝を捨ててこの試合に全てを賭けてきている彼女たちは今まで通りのメンバーで挑んできている。


 ジャンプボールを取られて守備につく千駄ヶ谷は、まずポイントガードの三年生がボールを持っている選手のチェックに行くが、すぐにそのボールは横に流されて前線へ送られた。


 そのサポートをする選手にも大きくコートを使われて、試合開始から全開の勢いに対応を迷ってしまう。


 そこで千駄ヶ谷は、髪をサイドにまとめた少女が相手の前に現れ流れを止めに行く。


 相手の先の先を読んで出鼻をくじくように出現したまゆにより、相手の足が止まると即座にまゆと三年生の二人で相手を囲む形になる。



「もらいっ。まゆ、いくよ!」


「前線、距離を詰めて!」



 二人で挟む形でボール奪取してからの速攻は、練習通りに他の仲間が敵陣に走りこんでいた。


 一度上がりかけてから戻る動きをしたまゆに、先輩からのボールが入る。


 ここがポイントだと思った相手が叫ぶ。



「来るよ! 気を付けて!」



 相手は大会前までに行われた千駄ヶ谷高校の少ない練習試合のビデオで、二條まゆのことを徹底的に研究していた。


 予選のトーナメントで当たったら絶対に負けないよう、彼女たちも努力を重ねてきている。


 パスを受けたまゆに相手陣営は注意を集中させるが、データ通り、相手に構わずまゆは始動する。


 つま先でパスを出す相手に照準を合わせ、小さな一歩を踏み出す。


 腕の振りはなるべく小さく、かつ力を失わないように腕を畳みながらスナップの利かせたパスが、もう片方の足を踏み出す第二歩と同時に射出される。


 それは相手の知るデータとはまるで別物だった。


 以前のような唸りをあげる大砲と形容できるものではなく、遥か遠くの小さな的を射る長距離射撃を目的としたスナイパーのような鋭い弾丸がコート上を一閃する。


 パスの威力はほとんど落とさずスピードが格段に上がったそのパスに相手は反応すらできずに一瞬のカウンターが決まった。



「――――よしっ!!」



 まゆは拳を握りしめ控えめにガッツポーズをする。


 約束した由那との再戦のために負けられない試合にまず先制できたこと。


 一ヶ月弱のブランクがあっても以前のようなプレーができたこと。


 そのどちらも彼女の中では本当に嬉しいことだった。







 ***

 由那たちのいる地区でも予選が行われ、今日は応援に会場まで足を運んでいた。


 初戦のオープニングゲーム以降は日程にばらつきができて、決勝までは当たることがなくなった反対側のブロックにいる十有二月学園の応援に来ている。


 予選ももう三回戦になり、シード校の十有二月学園は二戦目。


 先週の一回戦は、中学MVPの西條と前回大会MVP級の活躍をした風見鶏を中心に天野を温存させた試合運びを見せた。


 現在の会場には多くの観客や偵察に来ている他の高校が来ていて、その人たちを掻い潜りながら由那たち五人は前の方の席を確保することができた。



「あれ、アサミンがいない?」



 コートを覗くとベンチには選手だけで顧問の先生とマネージャーである永田亜佐美の姿がなかった。


 なにか用事があって席を外しているのだろうと、その時の由那は思っていた。



「ついでに一姫さんもいないんじゃない?」


「ほんとだ。でも大丈夫なんじゃないの。確か去年もやって勝った相手が今日の相手、だっけ?」


「えーと、明誠高校……そうだね。亜佐美さんがいってたとこと同じ名前だわ」



 滴と愛数がコートと対戦カードが書かれているホワイトボードを交互に見ながら話をする。


 二人の会話を聞いて他の三人もコートを見渡すが、確かにその姿は見当たらなかった。


 時間は刻一刻と過ぎていき、試合開始五分前になっても風見鶏は姿を現さない。


 試合開始一分前になると顧問と永田亜佐美がベンチに戻っていた。


 こうして始まった試合は、西條と天野が先発して対戦相手もここまでの試合を見る限りは去年と大した差は確認できなかった。


 盤石ともいえたその試合。


 誰にも予想できなかった事態にそれは発展する。




 明誠の女監督は、コーチとして二年目を任されていた。


 その女監督が先発メンバーに告げた。



「アリス、セイ、ようやく大物だぜ。分かっていると思うが、相手がもうバスケを辞めたくなるくらい、徹底的に打ちのめして、狩ってこい」



 由那たちが見ているなかで、不気味な試合が始められた。


最後に高円寺高校に触れて、いったん一区切り付きます。

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