50:夢のような
由那は先日の大学生と試合をしたときのようなプレーを連続で決めて、昔の仲間に格の違いを見せつけるような“らしくないプレー”をしていた。
それを一番見せつけているのは、間違いなく、マークに来る二條まゆに対してだ。
彼女を必ず抜き去ってからゴールを奪い、中でも印象に残るのが、高円寺高校の天才のような、スリーポイントラインからのシュートに威圧感だけで相手に尻餅をつかせるプレーを見せつけたときだ。
仲間に手を借りて立ち上がりながら、まゆが独り呟く。
「はははっ、可笑しいな。これじゃ昔と何も変わらないじゃない。本当にバスケはつまらなくて笑えてくるわね」
心配そうに不安を滲ませた表情の仲間にも気づけず、まゆは再び由那、さらに滴のコンビとマッチアップする。
仲間のフォローが来る前にまゆの方からボールを取りに行き、明らかな彼女のミスから得点ができたことで滴も口を挟んだ。
「つまらないなら、それでいいけど。お願いだから、バスケを楽しんでやっている子の邪魔だけはしないで欲しい」
「…………なんなのよ、それ……ふふ……」
滴の何気ない一言が、まさかまゆの琴線に触れるとは思っていなかった。
「辞めるなら勝手にやめてよ。こっちはあんただけは良い奴かもって思ってたんだ。裏切られた気分だわ」
まゆが不敵に笑いながら語りだす。
「なに? このままじゃ試合に負けるから、『代わりに私が一生バスケをしません。だから他のみんなだけは止めさせないでください』とか言うと思ったの?」
鼻で笑い、まゆは次に体育館を震わせるほどの声を上げて叫んだ。
「その通りよぉおお!
本当はこんなところまで来て由那に会いたくなかった!
できれば、永遠に、一生会いたくなかった!
だって、私が目標にしていた中学で一番すごい人を私は自分でダメにしちゃった。
何度も何度も助けてもらって、
練習にも付き合ってもらって、
最終的にはその座を奪う形で念願の名門バスケ部で試合に得ることもできるようになって!
でもその場所に由那はいなかった。
一緒に試合に出るのが夢だったのに!
そりゃ当然ね。
私自身が由那はハブにしていじめるようにみんなにお願いしたんだから!
部活中も!
学校のどこでも!
ずっと由那は一人だけになちゃったんだからぁああ!
…………………………――――――――――はぁ、はぁ、はぁ」
自分にも相手にも厳しい言葉をいうようになった現在の二條まゆは、ここ数年間で誰にも言えなかったことを、収まりが利かなくなり決壊した川のように垂れ流してしまう。
自分でも気づいていないうちに、大粒の涙まで流して精神が完全に壊れてしまったように荒れてしまう。
その光景に千駄ヶ谷高校の選手やベンチ、滴たちを含めたその場にいた全員が、凍りついていた。
レフェリーが試合を止める笛を吹いて、千駄ヶ谷監督が選手交代を告げた。
――二條まゆOUT、越谷円IN