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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(開幕編)
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EX.日の出の朝に

あけましておめでとうございます。


 学校も会社もお休みで家族も恋人同士もゆっくり過ごせる年始め。


 大晦日の紅白歌合戦を見ながら友人たちに連絡をする。


 ひと眠りした後、日の出前に待ち合わせの公園にそれぞれが向かっていた。


 その中でも集合場所の裏にある団地に住んでいる一人が早めに到着していた。



「……うん、寒い」



 昨晩は紅白を見たあとにそのままジャニィズのカウントダウンライブを見て、結局一時過ぎまで起きていた。


 目覚ましはスヌーズの奴が仕事をしてくれて、本当にもう五回くらい仕事をしてくれて目はパッチリと冴えている。


 夢の内容は覚えていないが、なんとなく走ったり叫んだりして忙しかった気がする。


 夢の気だるさに負けないように起き上がり、隣の部屋で寝ている両親を起こさないように足音を消して行動した。


 そして現在、非常に寒い思いをしている。



「やだやだ。家が近いんだからいっそのこと私の家集合にしとけばよかったよぉ」



 集合一分で自分の体を抱きながら弱音を吐いていた。


 彼女の名前は“二條まゆ”。


 同姓同名の人がいても名門バスケ部で一年生の頃からレギュラーなのは他にいない。


 彼女の友達というのは中学からの付き合いで、縁あって同じ高校へ進学できたバスケ部の子たちのことだ。


 しっかりしているようでしていない田蒔鳴。


 普段は強気で隠れ甘えん坊田舎娘の今村小路。


 白い巨塔の栗原清花。


 あと、デレツンの愛宕ねね。


 その誰もが二條まゆにとって大切な友達である。



 まゆが友達を待つ間にもう一人待ち合わせをしている人が近くにいたが、まゆの友達が来たことに気付いて居づらくなったのかすぐに姿を消した。



「どうした? 彼氏と密会してたところに、ちょうど知り合いが来たみたいな顔してるぞ」


「ちょっと。新年早々、田舎娘っぽいこといわないでよ」


「どこが田舎娘なのよ!」


「出身が静岡なところ?」


「あんたは今、静岡を敵に回したわ!」


「その田舎娘が泊めてもらっていた、ねねは一緒にいないの?」


「静岡強いもん。野球とか、サッカーとか、バスケとかなんでも強いもん」


「はいはい、知ってるよ。それで、ねねは?」


「誠意がないし!」


「はいそこまで」


「仲良くしろよ」


「でも見ている分には楽しいのよね」



 遅れてきた田蒔、栗原、愛宕の三人も到着した。


 田蒔は相性の悪い二人を引き離し、栗原と愛宕は見守っている。



「それじゃあ、揃ったところで日の出を見に行くわよ」



 まゆの掛け声に全員が「おぉー」と拳を天に突き上げた。


 海までは歩いて約三十分かかるのですぐに出発する。


 道中、彼女たちは他愛ない会話をする。


 内容は、主にまゆから見た彼女たちについてだった。



「ところで、小路はなんで田舎娘って呼ばれてるの?」



 田蒔がまゆと他の二人にも聞こえるような声で聞く。


 それに愛宕が首を傾げつつ答える。



「まゆの呼び方は独特だから、よくは分からないけど。小路は化粧とか髪型とかオシャレをしなくてもかわいいから、素材良しの天然娘ってことじゃない?」


「そうなの、まゆ?」


「いや、でも、まぁいっか」


「じゃあ清花とねねは?」


「その前に、まぁいっかはなくない! どうせ清花は色白で背が高いから、ねねはたまに厳しいときがあるからってくらい簡潔な理由くらいつけてよ!」


「へぇ、小路は良く見てるねぇ」


「茶化すなよ! あんたの考えなんて全てお見通しなんだから!」



 二條と田蒔、今村の三人が仲良くやっていて、置いてけぼりの栗原と愛宕はスマートフォンを弄りながら日の出の時刻を再確認していた。



「仲良しの所悪いけど、急がないと日が昇っちゃいそうよ。走る?」


「望むところよ!」


「望んでないって」



 早朝練習でもないのにランニングしたくなかったので少し早歩きにする。


 次の話題に移り、噂程度の話を田蒔が振った。



「そういえば、小路って彼氏がいる節が噂になっていたけど……そこんとこどうなん?」



 父親が関西方面に出張することが多い田蒔家は、ちょっと面白いという理由で父の真似をすることがある。


 主に話が面白い方向に行きそうなとき限定で。



「どうもなにも、知ってるじゃん。毎日毎日部活しかしていない女子高校生に彼氏はできないって」


「だよねぇー」


「まゆに言われると腹が立つなぁ。謝ってよ」


「小路のくせに?」


「喧嘩売ってんのかぁああ!」


「はいはい、冷静になりましょうね。どうして今日はそうまゆは攻撃的かな……普段はもっと――いや、同じか」


「ほら小路は小路らしくねねの巨乳に挟まれていればいいじゃない」


「いつ、どこで、そんなことをしたんだよ!」


「え、昨日とか?」


「するか! 誰が好き好んで――」


「例えばねねの彼氏とか」「いるの?」



 まゆの言葉に被せるように小路が驚きの声を上げる。


 小路の中ではまゆと鳴はバスケバカなので彼氏なんているわけがない。


 同じく清花も色気より食い気と思っているが、ねねに関してはいてもおかしくないと思っている。



「え、いつ、どこの誰と。……そんなことに」



 急にそわそわしだす小路が気に入ったのか、ねねは話に乗っかってきた。


 もちろんねねに彼氏なんていない。



「そうね。それはもう遠い昔のことになるわ。まだ私がみんなと出会う前の」


「出会う前!」



 小路の驚きに流石に分かってしまったかと一同が思ったが、すぐに単にそんな昔からなのかという驚きなのだと分かったのでしばらく様子見をして、適当に本当のことをバラシたら、かなり本気で怒ってしまった。


 そんな小路の姿は一年前だったら見ることはできなかった。


 他にも全員が心から笑い合えている、と思えたことすらなかっただろう。


 その分岐点は間違いなく、旧友との再会と約束のおかげなのだと思う。


 冬の寒空の下、彼女たちはふとそんなことを思うのだった。


次から本編再開!

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