46:1on1へのこだわり
前回の試合と違うのは、竹春には絶対の高さを持つ三咲がいること。
千駄ヶ谷にはエースの二條まゆがいて、流石一年生で一軍のポジションを得ている選手というだけに試合に安定感が生まれている。
その二條のマークについている滴以外が、栗原、今村、田蒔とそれぞれマッチアップしてしまう。
高さはなくてもボールハンドリングが上手な栗原は、高身長の三咲との空中戦を全く苦にしていない。
「高さがあるからって、それが絶対の勝利にはならないよ」
「でも、リバウンドは負けない」
しかし味方が外したボールを死守するオフェンスリバウンドでなら、三咲はほとんど負けない力強さをみせた。
身体の強さとポジション取りなら簡単には負けないということを証明した。
栄子が自陣から敵陣まで無尽蔵のスタミナで走り回るのについていける今村は、栄子に自由なドリブルをさせなかった。状況が逆になれば、栄子では歯が立たないため、もしボールを取られてしまったらと考えると栄子は仲間を探してしまう。
そのこぼれ球に反応できるチームメイトが千駄ヶ谷にはいるため、今村は無理に止めにいこうとしない。
だが、自力で止めてやりたいと思う今村は内心イラついていた。
「逃げるなよ。そろそろ勝負しようぜ」
「望むところ」
武器は少なくてもその一つ一つが強力な栄子に、千駄ヶ谷の負けず嫌い筆頭が目を付けていた。
竹春になくてはならないオールなんにもできないプレーヤーである愛数には田蒔がマークについている。
千駄ヶ谷の一年生ではまゆの次に評価の高いのがこの田蒔だが、非常に賢い選手でもある。
しかしこういった基本に忠実にこなせる選手の天敵になれるのが愛数の凄いところだ。
「ちょろちょろするよー」
「うん、パスコースを潰されている、のかな? ドリブルだと簡単に抜かせてもらえるんだけどね」
愛数としては、田蒔の視線を盗み見て前線への効果的なパスを潰そうと足を止めずに守備をしているつもり。
それが一試合を通して続けられれば、相手にとっては相当な邪魔になるからだ。
各人が孤立奮闘しているあいだも滴は二條から目を離さない。
見た目では他の四人に劣るバスケをしそうだが、中学時代からエースを背負っている実力はおそらく本物だ。
この選手をどれだけ抑えられるかが重要だと自分に聞かせる。
「思い通りにはさせない」
「…………」
そんななか揚羽は一つ確認しておきたいことがあって滴にパスを送った。
この読みがあっていれば、この試合の突破口は滴にしか開けない。
相手が1on1にこだわっているのは、それ以外に思い当らなかったからだ。