42:六人目の部員 中
空を見上げていた。
雲の動きもなく青と白のコントラストが映える一枚の静止画のよう。
毎日のように通う学校から見えていたはずの景色を私は知らなかった。
溜息以外の吐息が漏れ、となりにいる少女が心配そうに覗き込んでくる。
身長がないその子は見た目より幼くみられることが多いが、私の知る限り人とのコミュニケーションにおいて彼女は自我を出すのが非常に上手ですごく大人だと感じる。
中身と外見が一致しない違和感に出会ってすぐは警戒した。
出会った場所が旅行先の知らない土地がそうさせたのかも知れない。
確か私の愛する妹が不埒な輩に絡まれそうになったとき、空から舞い降りた美少女がそのことの出会いだ。
あのとき彼女と一緒にしたバスケットがとても鮮明に記憶に残ったのを今でも覚えている。
しかしそのことを隣の彼女に言ったことはない。
だって、自分より上手い、すごいと思った同年代の人に自分の気持ちを明かすのは恥ずかしすぎる。
せめて違うチームで対戦して私が勝利するまでは言わないつもりだ。
私が感傷に浸っているのを遮るように彼女が私の肩を掴んで揺さぶってくる。
「ほらほら、早くいこう。来夏ちゃんを探しにさ」
「あぁ、そうだったね」
今頃どこで何をしているのか分からないけど、お父さんより早く見つけてあげないと来夏は凄く怒られてしまう。
まだ両親から連絡がないということは見つけられていないということ。
放課後になったらすぐ探しに行けば、来夏のことを良く知る私には十分見つけられる。
まずは来夏の彼氏疑惑のあった小僧の家から――と考えて帰ろうとしたら、突然巨大な女性に引きずられて、更衣室で胴着に着替えさせられていた。
おそらく私を引っ張ってきた二年生の後輩にあたる一年生なのだろうけどすごい力と速さで着替えさせられたので何の抵抗もできなかった。
そして次になぜか畳の上に組み伏されて、柔道部の山田三咲が「どうして柔道部に入りたかったの?」と聞いてくるので真っ向から否定した。
それで大幅に時間をロスして部活動がない生徒が完全に帰りきった頃の時間に私は彼女――佐前燕に出会ったのである。
「バスケ部に入ろうと思ったら、今日は休みだって。全く大会前なら練習しろよと言いたいね」
「しょうがないじゃない。他の部も使うのだから同好会は肩身の狭い思いをしてるんでしょう」
「え? バスケ部って部活じゃないの?」
「この間、創部して。そのすぐあとに同好会に格下げにあったらしい。なんか試合で負けたらそうなるって話だったらしいわ」
「なーんだ。ならもう一回その負けたとこと試合して勝てば部活だ! 大会だ!」
「うん。頑張れば」
「……揚羽は戻らないの?」
「別に」
「ふーん。まぁ、僕もそろそろ帰国しないといけないから部活は無理かな」
「そう。もうそんなに経った?」
「三ヶ月程度の短期留学だからね。そろそろ期限切れかな」
「残念ね。部活に入って全国までいけば相当強い人たちとやれるのに」
「いいさ。強い相手とは帰ればいつでもやれる。女子バスケットボールの世界ランク上位国なんだよ、スペインって」
「知ってるわ。国際大会でアメリカに一度も勝てていないことも」
「今まではそうかもね。でも次はどうかな?」
「……そういうことにしておいてあげる。さあそろそろ妹が隠れていそうな小僧の家にいくわよ」
「アイアイサー!」
歩き始めてすぐに彼女は立ち止った。
急に足を止めるので何かと思って彼女の方を見ると、留学中のキャラづくりで脳天気を演じている彼女からはかけ離れて出会ってすぐの彼女の表情をしていた。
「揚羽の居場所はもうあるんだ。その手伝いくらいしないと、わたしはまだ帰れないよ」
「そんなものはとっくの昔に壊れているわ」
この間混じったその場所は私には居心地が悪かった。力のない人たちでお互いに助け合ってする、漫画の世界のような友情ごっこのバスケなんて――最悪すぎる。