41:六人目の部員 上
佐須揚羽と来夏の姉妹は良く似ている。
同じ服を着せて髪型や話し方を同じにしてしまえば、小中高の付き合いの友人でも一瞬見間違えてしまう。そのため出掛けるときは、姉の揚羽が青色の髪留め、妹の来夏が赤色の髪留めをするようにしている。
しかし中身に関して言えば、
運動が得意な姉に、運動がダメな妹。勉強はどちらも中の下くらい。
好奇心旺盛でどこへでも行ってしまう姉と、家に引きこもり本を読む妹。
ズボン派、スカート派。
デザートは最初に食べる派、最後に食べる派。
朝型、夜型。
などなど。
趣味の一つも合わない姉妹が、一時、妹の方から歩み寄ったのが、去年の夏、高校一年の佐須揚羽が青春の全てを注いでいたものだ。
それは残念ながら実を結ぶことはなかった。
***
大学生から解放されて、女子高校生VS大学生の試合を見守ることになった来夏は、亜佐美、天野と一緒に土埃舞う地面にちょこんと座っていた。
「そうして私は姉の部活を見に行く機会が多かったんです。姉が部活に行かなくなってからも、近くのバスケットコートで他人のチームに入って強い相手を倒しまわっていた時期もこっそりついて行っていたんです」
亜佐美が聞かされているのは、ちょうど一年前に十有二月学園が竹春高校を破ったあとの話。
亜佐美たちに何も責任がないとしても、全国への夢を断ったことに変わりはないからは下手に口を挟むようなことはしないでただ話を聞いている。
脇目に試合を見れば、あの超人的身体能力を誇る一姫が競り負けてリバウンドを取られていた。点差も広がる一方で、圧倒するどころか圧倒される展開が続いている。
相手が大学生であろうと一姫と由那がいれば大丈夫と思っていた数分前の自分を殴ってやりたい、と亜佐美は内心思っていた。
「このあたりだと一番強いのがこの大学の人たちです。ちょうど全盛期の姉と同じくらいです」
全盛期の姉がどの程度か分からないが、一姫が子供のようにあしらわられているところを見ると相手に十分な実力があると分かる。
このままだと話を聞いてもらえない。どうしようか。
「当時の姉が彼らに圧勝して、それにリベンジするだけの実力を付けたところを私が通りがかったから拉致られました」
「あれ、そうすると昨日家に帰らなかったのは?」
「昨日? あっ! 試合が動き始めましたよ」
分かりやすく話を逸らしてくるが、試合の方も気を付けないといけない。
大会前に怪我をされたくないから天野を温存しているのに、そんな自分勝手な臨時マネージャーが試合の様子すら見ないならここにいる必要はなくなるからだ。
試合の方は、予想通り序盤に見せた情けない試合ではなくなっているはず。
ある程度時間が経てば一姫が相手のレベルに慣れて、それを超える成長を見せてくれる。
相手が本当に強いプロみたいな人たちでなければ一姫に敵うはずがない。
それが現在の十有二月学園のエースだ。