40:平和的解決
信号機を全てスルーできた奇跡の連続があって、大学には思ったより早く着くことができた。
亜佐美さんを中心に潜入方法を考えていると、愛数、風見鶏の二人が勝手に中へ入ってしまっていた。
それを追いかける形で正面から堂々と入っても止められなかったのは、この大学の守衛さんが二十代そこそこの野球好きだったからだろう。
週末の草野球の試合を目指して熱心に素振りをして、近くに置いてあった自転車の空気入れをホームランしてしまったのはちょっとしたアクシデントだったんじゃないか。
大学キャンパス内を道なりに進んでいくと、バイオハザードのようなマークのある建物を横に見て小さなグラウンドに出る。
そこには申し訳ない程度のホームベースとバスケットゴールが置かれている。
おまけとして青ジャージの男子数名と女子一名が言い争っている。
「――から、私は姉の揚羽でなく妹の来夏――です」
「そんなはずない。前にお前と試合した奴が間違いないっていっているんだ!」
「うっ、大きな声出さないでください。耳が腐ります」
「なんだって!」
男が手を振りかぶるのを見て風見鶏が動く。
仲間の所から一瞬とも思える高速移動で、男が手を下す前にその腕を掴んでいた。
「このまま腕を逆方向に一回転させてもいいんですよ?」
風見鶏は冗談じみた笑みを浮かべるが、相手は冗談とは受け取らない。
すぐに一人を囲むように四人の男が集まるが、すぐに亜佐美さんを先頭に残りのメンバーが駆けつける。
亜佐美さんのことだから、この事態をうまくまとめてくれることだろう。
「ちょっと、女子高生一人を相手に大学生四人はみっともないんじゃなくて? どうせならスポーツで勝負しましょう、バスケとかね」
喧嘩でも一姫は負けないけどね、と亜佐美は言うが、事態を収束させる気は毛頭ないらしい。
ルール無用の草野球ならぬ草バスケをすることになり、即席チームを結成する。
センター、風見鶏
パワーフォワード、栄子
ポイントフォワード、由那
スモールフォワード、愛数
ポイントガード、滴
風見鶏さん以外に大人の男性を相手に競り合えるメンバーはいないということでセンターをまかせて、残りは適当にいつも通りのポジションについた。
この試合の目的は、話を聞いてもらうために相手を圧倒すること、である。