37:迷探偵
妹が昨日、家に帰ってこなかった。
夜遊びをするような子ではないから、どこかで事故にあっているのではないかと考えると、いてもたってもいられないのだが、父が学校には行けというのでこうして来ている。
授業が終わり早く家に帰りたかったのに、なぜか放課後も学校にいた。
知らない人に囲まれ、地面に組み伏されているのは何故だろう。
いつから私は女子柔道部になったのよ。
「どうしてあんたは柔道部になんて入りたかったんだよ」
「それはこっちが聞きたいわよ」
仰向けに倒れる揚羽を、腕を組み三咲が不思議そうに見下ろしている。
「そろそろ帰っていい? 妹が家に帰っていなくて。探しに行かないといけないから」
「それは奇遇だな。ちょうど由那や滴も同級生を探しにいっているみたいだし」
「はい?」
***
同級生が行方不明になることはそうそうあることじゃない。
あまり話したことのない相手でもいなくなればクラスに違和感がある。
普通なら警察に任せるところだが、三咲を除く女子バスケ部四人が同級生捜索に行ったのかといえば、愛数の一言が始まりだった。
担任の先生から同級生の一人が昨夜から姿を消していることを聞いて、一限目の間までの少しの時間で滴と愛数が話をしていた。
「世の中、意外と物騒よね。そろそろ日本も危ないのかしら?」
「大丈夫なんじゃない? お兄ちゃんが頑張ってくれれば、大抵のことはどうにかなるもん」
「なにそれ。愛数のお兄さんって警察なの?」
「ううん、違うよ。えーと……自称、世界一の名探偵?」
「どうして疑問形なのよ」
「最近はほとんど家にいるんだよね」
「そう。きっと自宅の警備に忙しいんでしょうね」
「うん。きっとそうだね」
滴の皮肉は見事にスルーされてしまうが、愛数は補足するように言う。
「お兄ちゃんが言うには大学生が怪しいって。事件が起きていればその答えが分かっちゃうのがお兄ちゃんだからね」
「はい?」
いつもわからないことを言う愛数だが、このときは本当に何を言っているのか分からなかった。
しかしこうして手がかりを見つけてしまった滴は愛数と由那、栄子を連れて同級生の探索に向かうことにする。
「――って、手がかりそれだけ?」
栄子が朝のことを語り終えた滴に不満を漏らしていた。
「大丈夫。きっと愛数がさらなる情報をお兄さんから聞いてくれるはず」
「愛数、そんな約束した覚えないよ?」
「ねぇ愛数ちゃん。滴もプライドがあるだろうから、ちょっとくらいは話に乗ってあげないと」
「えー、でもお兄ちゃん機械音痴だから携帯電話とか持ってない。一度家に帰らないと、だよ?」
「それじゃあいくよ。愛数の家に!」
放課後の探索は、友達の家に行くところから始まる。