29:隠していたこと
29:隠していたこと
双子の兄から住所を聞いてきた栄子と愛数が滴の家にお邪魔していた。
愛数が笑いを堪えながら体を震わせて座っている。
栄子は掌で手をポンッと叩くと「あぁ、そのことか」と一人で納得して隣に座り。
二人の正面に滴が体育座りで小さく丸まっていた。
「ほら、ごめんごめん。別に聞きたくて聞いたわけじゃない」
「なによその棒読みは。誠意が感じられないわ」
「ぷす。しょぼくれてやんの」
鋭利な言葉で一刀両断。
傷心の滴に深手を負わせた愛数は、抑えられない感情を床にぶつけている。
「ちょっと~、考え事してるの~」
「愛数、言い過ぎだ。それ以上言うと愛数で遊ぶよ」
「ぷぷっ。愛数で遊ぶとか意味わかんないし」
平静を装う愛数だが、栄子と三咲の二人からはよく自分のことをおもちゃにされることがあるので気付かれないように距離をとっていく。
しかし標準より小柄な彼女の感覚で距離を取っても、栄子の手が伸びてくる。
「こう、裾の方をめくって中身を滴に見せつける、とか」
「こらバカ。スカートめくるとかやめてよ! この変態! 痴女! ロリコン!」
「同級生にロリコンはおかしい。ふ、ふ、ふ」
「なに笑ってんのよっ! 変態変態変態、おかしいのはお前だ!」
「ほら力の差は歴然としている」
「ちょっと――本当に見えるぅ……」
「そんで、何をしに来たのよ?」
滴が止めなければ脱がせていた。
そういう瞳を栄子はしていた。
ここまで二人が来たのは、あの場にいた残る二人についてを話し合うためだ。
試合の後、千駄ヶ谷の人たちに逃げられて落ち込んでいた滴を慰めにくるという名目も少しはあったと思う。
「そういえば昨日来てた先輩って誰さ?」
「佐須先輩と佐前先輩」
「そういうことを聞いてるんじゃなくて」
「だから、どうしてあれだけバスケができる人がまだいたのかって聞きたいんでしょ?」
「そうそう。滴もたまには使えるね」
「別にそれでいいわよ。今日はもう歯向う気力がないから」
「あともう一つ。愛数には気になることがあるのです」
愛数はさらっと重要なことを口にする。
「亜佐美さんって、色々な学校のバスケ部のことを知っているよね。それで赤坂こーこーのことも調べてくれたのに同じ地区の二人のことを知らないってことはないんじゃないの」
「そういえば。アサミンに聞いてみようか?」
「あー、滴が使えないからそうしようか」
すでに取り出していたスマホから栄子が亜佐美に電話を掛ける。
この時間なら向こうは部活をしているはずだ。
二、三回のコールで亜佐美は電話に出た。
『はい、もしもし。栄子から電話なんて珍しいわね。こっちはちょうど休憩時間だから、十分くらいなら付き合うわよ』
「じゃ、単刀直入に。どうして“佐須揚羽”のことを教えてくれなかったの?」
『……秀人みたいに鋭いことを聞いてくるわね。さすが双子というだけはあるということかしら』
「あと佐前燕も」
『そっちの人は知らない』
「教えて。このままじゃまた由那の足を引っ張っちゃう」
『うーーん。興味本位というわけじゃないのね?』
「うん」
『なら教えてあげる』
亜佐美は語り部口調で長話をするのかと思いきや、短い言葉にまとめて彼女の知るすべてを伝える。
『竹春高校の女子バスケ部が休部になったのは、当時一年生の佐須揚羽――彼女が起こした暴力事件が原因なのよ』
竹春高校が抱える闇。
それは揚羽と当時の仲間たちしか知らないことだ。