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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(開幕編)
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28:忘れたいこと

28:忘れたいこと






 過去の栄光の中で誰よりも輝いていた月。



 燃え尽きない熱き闘志を持ち続ける太陽。



 その二人がいた場所は、手を伸ばせば届くと思った少女たちにはとても遠いところだ。



 それを知るためにも相応の努力と運が必要。



 しかし少女たちは運命の巡り会わせから早くもその壁にぶつかることになる。






 ***

 突如現れた人たちと衝突した土曜から一夜明けると、昨日起きたことを冷静に考えることができた。


 チームの根幹を担っている『高さという絶対的アドバンテージを持つ上級生』と『精神的支えのエース』を欠いたチームがこれほど無力だとは正直思わなかった。


 ついこの間、全国屈指の強豪校と激戦を繰り広げたチームとは思えないくらいだ。


 何がどう悪かったのかというよりは、初めからわかっていた問題が浮上してくる。


 ミニバスから中学バスケと段階を踏んでやってきている人ならまだしも、中学で少しバスケをかじった程度の実力じゃどうしようもない。


 十数時間前に味わわされた屈辱に顔をあげられない滝浪たきなみしずくは、腕で顔を隠すようにベッドの上をごろごろと転がっていた。



「私は何をしているんだろう。由那と同じチームにいるだけで勝手に自分まで強くなったと思って調子に乗っていたのかなぁ」



 確かに中学のときより実力はアップしてきている。


 滴の実力が身体の切れやスピード、シュート精度のどれをとっても驚くくらい成長したのは事実だが、爆発的に急成長を遂げる“本物”には一歩及ばない。


 ちょうどそういった人種と会いまみえた結果、滴は自信を無くしていた。



「今日は何もする気になんない。起き上がる気も失せた」



 ザ・自堕落状態の滴を起こしたのは携帯の着信音や玄関のチャイムでもなく、お母さんの声だった。


 ドアの向こうで地面に腰かけて母親が娘に言葉を投げかける。



「珍しいこともあるのね。休日にダラダラするくらいならどっかに走りにいってたころが大昔のようね」



 滴にそんな記憶はないが、休みの日に家でじっとしていることは小学校を卒業してからしばらくしてからはほとんどなくなっていた。


 部活を始めたことが理由の一つで、何より目標を持ったことで常に身体を動かしていないとおかしくなりそうな衝動が毎日のようにあったからだ。


 そう考えると、無意識に外を走り回っていたことがあるかもしれないと思う。


 昔のことを思い返していると母が続きを語ってくれる。



「それにしても昨日の顔はひどい顔だったんじゃない? ほら、あの時と同じ顔をしていた」



 滴の苦い思い出というと二年間の全てを注ぎ込んだバスケに結果が伴わなかったときのことだろう。


 チームの中で一番だった自分が頑張ったところで、大局を変えることはできなかった中学最後の試合の日は思い出すと無性に恥ずかしくなるほど泣いた日でもある。



「えっと、中学三年間思い続けていた彼に告白して玉砕したときの――――」



 ドッ! ダダッダンッ!



 ベッドから飛び上がって扉の前まで走りこんだせいか顔が噴火寸前の火山のように赤くなっていた。


 扉を思い切りたたくと母が途中で言葉を区切って黙ってくれた。


 どうして母が娘の色恋沙汰について知っているのか、誰にも話したことのない滴には一生かかっても解けない謎だと思う。



「娘の初恋をお母さんは応援しています」


「うるさい。早くどっかいってよ」



 反抗期の娘らしく母を乱暴に扱うが手慣れた様子で母親が応戦してくる。



「あれほどの大玉砕をしたのに同じ高校に行くなんて、お母さんは感動したよ。自分の娘を本当に誇りに思う」


「いいから、一人にしてよ。ちょっと考え事してるの」


「…………じゃあ、ゆっくりしていってね」


「はっ? 何を言って――」



 次の瞬間、全身を電流が流れたような衝撃が走り、母親の言葉に戦慄した。


 一対一の会話だと思っていた所に突然の第三者がいるようなことをいってくる母親。


 そうとわかっていてあの話題を吹っかけてくる母親。


 下手なスプラッターもののB級ホラー映画よりよっぽど鳥肌が立つわい。



「ぷぷっ」



 部屋の扉を開けて一番初めに視界に入ってきたミニマム愛数が、滴の顔を更に紅潮させるのだった。


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