26:始まりと終わり 上
26:始まりと終わり 上
よく話すみんなと練習をして二軍の試合をまかせてもらえるようになった。
いつもの六人組は、経験者の五人が決まったポジションで実力を発揮する。
それに割り込むようにまゆが自由なバスケをして、緩急をつけることでチームとしてもうまく機能していた。
それに加えて、一軍の成績が芳しくなくエース以外の実力が伸び悩んでいることもあって、急成長した二年生が今度の試合で試されることになった。
「まゆ。ようやく追いついたよ。私たちの目標がいる場所に」
そこへ六人の近くをレギュラーの一人が通り過ぎていく。
彼女たちが密かに目標にしているのは、同級生で一年生からレギュラーの田崎由那という少女のことだ。
***
初の一軍デビュー、といってもいつものメンバーで十五分程度出ていただけなので緊張しすぎるということはなかったのだが、全て出し切れたかといえば消化不足だった。
その気持ちをぶつけるように、その後も練習を一生懸命頑張った末になんとかまゆだけ控えに入ることができた。
この中でまゆだけが決まったポジションもなく、どこを任せても人並みにできたからある意味便利屋として選ばれたのかもしれないが……。
「二條まゆです。控えですが、念願の一軍ということで誰よりもやる気と根気はあると思います。よろしくお願いします」
周囲の反応は冷めたものだ。
ほとんどが元々一軍の控えか二軍にいた三年生。
同じ二年生では由那の一人だけがいて一年生は一人もいない。
「よろしく。二條さん」
「よろしく。田崎さん。私のことはまゆでいいよ」
「じゃあ、まゆさん。アップ一緒にやろう」
一軍で唯一の二年生同士、きっと仲良くなれるだろうと二人は思っていた。
二人が出る試合は負け試合が多かった。
攻守がチグハグで途中出場する二人は自分たちの見せ場を作って存在感をアピールする。
フットワークの軽さと思い切ったパスが売りのまゆに対して、由那は一瞬の煌めきで次々とゴールを量産。
次第にまゆのパスを受けて由那が決めるという形ができ始めた頃には、二軍に残る五人とまゆと由那を加えた七人が一緒に練習をしていた。
そのころにまゆは素行の悪い先輩によく絡まれることがあった。
「先輩。それって私たちにいじめをしろって言っているんですか?」
「あんたも自分より下手クソな奴の方が試合に出てることが不満だろ?」
「先輩方と比べればそうかもしれませんが、由那は私たち二年の中ならきっと一番バスケが上手だと思います。それにそれを決めるのは監督です」
「それは本気で言っているのか?」
目の下にクマを作った根暗先輩に肩をつかまれて壁際へ追い込まれる。
「一度やってみればいい。レギュラーと一緒じゃないあいつは何もできない。二年で一番下手なあんたより下手かもね」
二年で一番下手というのはまゆ自身も認めている。
この学校の他と変わったことの一つにエースが毎年現れるというのがあって、その原因が主力の一角を二軍のまま使うということがある。
そのため来年のエースは今の二軍から選ばれる可能性も半分近くあるのだ。
大会の予選が始まる直前に一・二軍の入れ替えがあり大きく変化があった。
まゆの仲間の半分が控えに上がることができたのだ。
「二・三年生主体のチームとはいえ。ベンチ入り。ヨロヨロ」
「えーやだ。ヨロヨロって――バランス感覚ないの?」
おどけた様子で田蒔鳴が言い、顔を赤くしながらもう一人が自己紹介をする。
「チャームなあいさつのつもりだ。……栗原美里です」
「はい。田蒔鳴です。よろしくお願い!」
このまま順調にレギュラー定着かと思われたが、現実はそう甘くなかった。
一緒に一軍に上がってきた根暗先輩が裏から手を回したのか分からないが、練習試合で一人ずつ使われる二年生にほとんどパスが回されなかった。
一試合に二回触れればいい方で、十分近く出ているのに一度もパスをもらえないことの方が多いくらいだ。
まゆはその異常につい弱音を零してしまう。
「試合には出してもらえるけど、ほとんどボールに触らせてもらえない」
このとき目の下にクマを作る根暗先輩の言葉を思い出す。
そしてその真意を読み解く。
「そう、先輩はそうゆうことをしてくるのか――――」
怖い表情をするまゆはこの時から考えを変えた。
友達になれるかもしれなかった七人すべてが幸せになれる方法でなく。
付き合いが長い六人が幸せになれる方法を取ることにした。