25:平穏な日々
25:平穏な日々
今でこそ千駄ヶ谷高校の一年生たちは仲良くやっているが、まゆや田蒔が中学生だった頃のあるときまでは彼女たちの仲は今ほど良くも悪くもなかった。
そこに由那も加わって友達の輪を作っていたのだから、信じられないことだ。
そこに変化が起きたのは夏の大会が始まる少し前からだった。
***
史上最強と言われた中村八重、野田佳澄率いる昨年のチームの解散からあまり時を置かず始動した新チーム。
エースの上園青空を中心に、一軍でベンチにいた現三年生と二軍で出場していたメンバーから選ばれている。
スタメンの四人を担う先輩たちが卒業して戦力がガクッと落ちたが、エースが才能を開花させてなんとかバランスを保っていた。
それでも予選が始まるまでに行われた練習試合では、勝ち負けを繰り返す苦しい時間が長く続く。
この状況から脱却するためにも、これまで戦力として数えられていなかった新二年生の台頭が望まれていた。
監督のことを尊敬も尊重もしていない唯我独尊なエースは、人付き合いが苦手だ。
「上園さん。私たちもチームに馴染んできたし、そろそろ仲良く話せるかな~と思うんだけど」
「いや、あの、私は話すの苦手だから。できれば独りでいたい」
「そんなこと言わずに、ほら、帰りにカラオケでも行きましょう」
「……いるだけでもいい? 歌わなくてもいいなら行く」
「OKです。ではさっそく行きましょう!」
同級生で三年間同じクラスだった子に対してもこんな態度を取る青空を心配して、部活のない日はこうして遊びに出かけている。
しかし新部長の頼りなさは、バスケになれば驚くほど頼りがいのあるものに変わる。
「フォワードだけで攻めても私一人も抜けないよ! 四人全員でかかってきて――それでも止めてあげるから!」
空中戦に強い青空は、ゴール付近でのシュートなら長い滞空時間でほとんどを打ち落とせる。
そのため人数をかけて細かくパスを回しながらでなければ振り切るのは難しいが、そのパスもカットしてしまうことが多い。
そのため一対多人数で練習しても青空の方に分があるのが今のチームの実力を現している。
その様子は、その場に立てもしない実力の選手たちからは評判の良いものではなかった。
「何あれ? 調子乗りすぎでしょ。四人で攻めて一本も取れないなんて恥ずかしいだけじゃん」
残りの試合も数えるほどしかない三年生にとって、控えにも選ばれていない何人かは心に闇を持ち始めていた。
その逆に、自分たちの実力を底上げすれば手の届くところにあるレギュラー。
それを目指して、頑張ろうと思う者もいた。
そのうちの一人の少女は、入部時の実力で言えば最下位だった。
小学校の頃、ミニバスもやっていなかったのはその子だけで、他とはスタートから違う。
それが目立つきっかけになったのか、部活中の話し相手というのはすぐにできた。
しかし友達というには、まだまだだと思う。
それでもみんなが共通して思っていることがあると確信していた。