24:少女たちの目標
24:少女たちの目標
少女たちの目標は栄光をつかんだ偉大な先輩でも同じようにレギュラー争いをする後輩でもない。
三年生になったその子は二軍の選手で、一つ下の代の後輩と試合に出ている。
身長や足腰の強さなどの持って生まれた才能を持ち合わせているわけでもない。
ただ一度うらやましいと思ったのは、彼女たちが手の届かないと思う先輩たちと肩を並べている一瞬がその子にはあったからだ。
***
真っ向勝負をしてくる千駄ヶ谷は、燕と揚羽の二人にとって御しやすい相手だった。
フォワードの燕は、シュートできる位置まで持っていけば、不可解なシュートで決めてくる。
その不可解なシュートは、プロでも止めるのが難しいと言われている。
一番後ろで待っている揚羽も、滴や栄子、愛数のチェックが入ったあとに全員抜くまでシュートをして来ない相手を止めるのは簡単なことだった。
これが『燕にダブルチーム』や『揚羽の手の届かないところからシュート』をするなら、まだ何かできたかもしれないが、真っ向勝負すぎるプレーが通じるほど二人は格下ではない。
見る見るうちに点差は開いていく。
上から見ているマネージャーから見てもあと一人、試合の流れを変えられる選手がいればとたらればが漏れてしまいそうになる。
それだけここに来ている五人の中で彼女の存在は大きい。
「くそくそくそくそくそっ。流れが悪いにしても全然点が入らないじゃない」
混乱して周りが見えていないのは一人だけじゃなく、全員が見えない壁にぶち当たったようにプレイを乱している。
対峙する滴から見ても、数分前までと同じ人たちとは思えないくらいだ。
「上で見ていた時より調子悪そうだな。せめてボク以外は止めてくれよ」
「上から目線は止めたら。大和撫子らしくないからね」
「それは失念していた。すまん。口を慎むよ」
「まあ、このゲームもそろそろ潮時でしょう。もうすぐ午後の部の男バスが来る時間」
「もうそんな時間かい? それじゃ最後にいいもの見せてあげよっか」
燕が一本指を立てて天に掲げ、告げる。
「パーフェクト・パス・コースいっとこ」
「はいはい」
ボールを持った揚羽と燕がタイミングを見計らってワン・ツーパスを繰り返す。
本当ならもっと多くの人数で高速のパスを繰り返すのだが、燕の柔らかいパスと俊敏性で面白いようにコートを縦横無尽に駆け上がっていく。
最後は揚羽が受け取り、一人をかわしてそのままシュートを決めてしまった。
「どうよ!」
「どうもなにも、これじゃただのコンビプレーだから」
「そうは見えないかもしれないじゃないか」
「いや、それ以外の何物でもないでしょ」
それは確かにただの高速コンビプレーだったのだが、強豪校のマネージャーには別のものが映っていた。それは二人の視線が常に一歩先を見つめていて『最初から決められた位置でパスを受けて、最短の時間でパスを繰り返していた』ということ。
つまるところ、一回見ただけでは良く分からないが、想像より凄いことを彼女たちはしている。
そこで時間切れとなるチャイムが鳴った。
どうやら昼休みに入るらしく、次にここを使う部活の部員がまばらに入ってくるようになった。
「バーカ、バーカ。これで勝ったと思うなよ!」
「はっ……! ちょっと待ちなさいよ!」
マネージャーの伊織は逃げるように立ち去ろうとする後輩どもを見送り、それを追いかけようとする竹春の人は上級生に引き留められていた。
伊織はどうしようもない後輩たちのためにやらなくてはならないことができた。
彼女たちの確執はどうしようもなく今後の千駄ヶ谷を苦しめることになる。
それを解消するためにも大会前にもう一度このチームと戦わせる必要がある。
それはできれば二條まゆと田崎由那がいれば一番良い。
監督を説得してでもなるべく早い段階で試合を組んでもらおうと携帯ですぐにメールを送って伊織も霜月高校の方へ戻ることにした。
その表情には微かに普段は見せないわくわくと期待を感じさせるものがあった。