09:青空色の約束
09:青空色の約束
初めての練習試合から一夜明け、巻風中との試合が明日へと迫ってきていた。
体育館を使っていたママさんバレーの次の時間をとっているため、少し速めに来ていたメンバーが外で歩きながら会話をしていた。
「上園は帽子が似合うと思う」
昨日のリベンジを積極的に初が話しかける。
「帽子はあまり被ったことがない。小さい頃、バスの中に大事にしていた麦藁帽子を忘れてから、なんか嫌なんだ」
「確かに、そういうなくし方をすると疎遠になっちゃうかもしれないわね」
涼香は自分に置き換えて何事も考える特殊な思考回路を持っている。
自称、世界は自分を中心に回っているというのはそういう意味もある。
残りの二人はというと「小さい頃?」と挑発的発言をした純は、琴音にヘッドロックを食らわせられて悶絶していた。
初は上園のことを見ていた。
少女は、その小さな身体にどれだけの力を秘めているのか初には分からない。
少女の身長はよくて中学一年生の平均以下だ。
その身長で松林中の高身長二人に競り負けないプレイを何度も見てきた。
ジャンプ力が高いということもあるが、ボールの方向を察知する勘と、競り合いになった際のタイミングが絶妙。
昨日の一衣に負けないスピードも初速を落としているからこそ得られるそれなりの技術だった。決して上園の最高速はそれほど速くない。
そんな少女に初は興味があった。
「その、一人だけ名――――」
「一人だけ名前じゃないのって変じゃない?」
初が言いづらそうなのを察してか、またはただ単に考えていることが同じなだけか、涼香が上園青空に聞く。
「青空の方で呼びたいってこと?」
初と涼香がウンウンと頷く。
「別に、いいけど……」
照れくさそうに青空は視線を逸らし、ぼそぼそと口篭る。
「下の名前は呼ばれなれてないから、気付かなかったらゴメン」
よく分からない「ゴメン」の一言に全員の口元が緩んだ。
「「「「セイラ」」」」
そうしているうちに、ママさんバレーの人たちが次々と体育館から出てきていた。
ようやく使用時間になったようなので五人は体育館へと向かう。
「明日試合が終わったらセイラの帽子を買いに行こう」
練習前の一時、初の言葉は見渡す限りの青空に消えていった。