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第六話 「=溢れる気持ち」


私の中の何かが動き出していた。

それはまるで時計の針のように、ゆっくりと・・・ゆっくりと・・・





「例えば二つの歯車があったとするわ。その二つは互いに干渉し合わず、ただひたすらに一人で時間を刻み続けた。しかぁしッ!モノの弾みで二つの歯車はガシーン!と見事に連結した!二つの歯車は永遠と一つの時間を刻み続けたとさ。さてここで問題だ。この歯車とは何かッ!」


冒頭から独り言の嵐で申し訳ないが、しかし私は真剣に悩んでいた。


「うーん、難しい問題だな。答えは参議院と衆議院でいいんじゃないか?」

「いいわけあるかッ!あいつらかみ合うことなんて滅多に無いからね!

そりゃあもうねじれちゃってるからね!っていうかいつからそこにいたんじゃーい!」

「おお、キレのいいのりツッコミありがとう。」

「いや今のはのりツッコミじゃないでしょ。」


いつものように彼女高倉岬は私のマイスウィートホーム図書室へとやってきていた。

みさきの部活やめる騒動からはすでに2週間が過ぎていた。


「で、答えは何なんだい?」

「え?・・・答え、は・・・」

「ん?どうした?うつむいちゃって。」


悩んでいたのは実はこのことであり、私はあれ以来みさきの顔をまともに見ることが

出来なくなってしまった。

あれからなんだかこっぱずかしくって、話さえもまともに出来やしない。


「おお!そうかッ!この床のこの木目、なんか顔に見えるね!

さすがあいちゃん!こういうのみつけるの得意だね!」

「見つけてるかそんなもん!」


・・・いやごめん、意外と話すのは余裕だったわ。


とは言ったものの、私にとっては死活問題だよ。

なんたって彼女は私に懐いてしまっているらしく、グイグイ顔を近づけてくるんだから。

あれ以来スキンシップをとる事が多くなったし、話すことも多くなったし、


「せっせっせ~のよいよいよい!」


なんか急にせっせっせのよいよいよい始まるし。

っていうか手ッ!勝手につながないでよ!


「うわー、あいちゃんの手、ちっちゃ~。」

「あ、あの・・・ちょっと。」


せっせっせのよいよいよい何処いった!

恥ずかしいからそんなにまじまじみないでよ!手だけど。


「ふふっ、こんな手じゃ片手でりんごもつぶせないね!」

「あんた潰せんのかよすげぇな!」

「まあ冗談だけど。」


軽快に、話はどんどん進んでいく。あさっての方向に。

この時間はとても楽しい。私とみさきの大切な時間。

この時間は私、とっても笑顔でいられる。大声も出せる。

すごくすごく素敵な時間。でも、長くは続かない事を私は知っている。


「じゃあ、部活いくね。また明日。」


彼女は私を残して去っていく。

残された私はただもくもくと本を読む。

以前は普通だった事だが、最近はこの時間が余り好きではなくなった。

ああ、早く明日にならないかなぁ。

もう・・・今日は帰ろうかな・・・


「ってだめだめ!いくらなんでもみさき中心の生活になりすぎだよ!」


やっぱり気づくべきじゃなかったこの気持ち。

理解し得なかったこの気持ち。

爆発しそうなこの気持ち。

なんだろう。この気持ちは何だろう。


狂いだした一つの歯車は他の歯車を引き込み勝手に回りだす。


歯車は、私だ。

もうごまかす事など出来ない。

一度外に出した感情は二度と奥へはしまえない。

後は勝手に回って大暴走。ひたすらひたすらくるくる狂狂。


「・・・好きよ・・・」


なんて、本人の前で言えたらいいのに。

いや、言えるわけが無い。そんな事したら口が裂けてしまう。

きっとおかしな子って思われる。そりゃそうさ、私は女。みさきも女。

嫌われるか、軽蔑されるか、よくて絶交ってとこね。

でも、もしかしたら彼女も私のことが好きかもしれないし。

・・・ありえないか、そんなこと。億が一にもありえない。

でも、ひょっとしたら・・・

でも、失敗したら・・・

どっち?


どっち?


どっち?



私は歯車。狂った歯車。意味もわからず行く先も知らず。

回り続ける。一人っきりで。彼女の隣で。







・・・・・・・・・・・・



どの位たったかわからないが、私はハッっと目を覚ました。


「・・・ふぇ?あ、ああっ!寝ちゃってた!今何時だ?」

「もうすぐ7時ってとこかい?」


!?


「え?み、みさき!」

「よう、おはよう。」


しまった、考えてるうちにどうやら眠ってしまったらしい。

私とした事が。もうとっくに下校時間も過ぎてるじゃないか。

・・・あれ?ならなんでみさきがここにいるの?


「業務員のおっちゃんがうるさくってさー、あいちゃんがおきちゃうでしょ!

って怒鳴ったらぶつくさ言いながら引っ込んでったよ。」

「ええ?撃退しちゃったの!?」

「だってさ、あんまりあいちゃんがぐっすりねちゃってたから。」

「そんな、言ってくれればすぐ起きたのに。」

「いやいや、私はあいちゃんの可愛い寝顔が見れて満足だったよ。」

「いやそーじゃなく・・・て・・・」


可愛い寝顔、って、そ、そんな事言われちゃったら、

恥ずかしくて嬉しくて、顔が赤くなっちゃうじゃない!

どうしよう!ただでさえまともに顔も見れないってのに!


「あはは、顔に本の跡がついてるー。」

「ぅええ?!」

「かわい~。」

「・・・・ッ!」


もうッ!あなたって人は、本当に!


「・・・ひきょうもの。」

「え?何だって?」

「なんでもない!さ、早く帰ろう。」


卑怯。卑怯卑怯卑怯!

あなたはそうやって私の心をゆれ動かして。

ひきょうもの!



ひねり出した言葉がそれだった。

彼女への気持ちはとどまる事を知らず、溢れそうになるばかり。



「どうして私が起きるの待ってたのよ。」


帰り際、電車で帰宅をする私にみさき(地元民)はわざわざ駅までついてきてくれた。

からからと自転車の車輪を鳴らしながら彼女は私の一歩手前を歩いていた。


「いやあ、あんまり気持ちよさそうに寝てたもので。」

「じゃなくて、なんでわざわざ部活終わったあと図書室来てたのって事。」

「ああ、職員室にまだ図書室の鍵が返却されてなかったからさ。もしかしたらまだいるのかな、って思ってさ。おかげであいちゃんと帰宅できるなんて、ついてるなー。」

「わざわざ鍵を確認しにいったの?」

「いやいや、今日は私が部室の鍵当番だったからねー。ひょっとしてこれって運命かも!?」

「安い運命ねぇ。」

「つれないなー。」


・・・そっか、私に会いに来てくれたんだね。みさき。


「でも、みさきと下校なんて初めてだね。」

「うん。いつも図書室は5時半に閉まっちゃうからねー。

どうしても下校時間はずれちゃうよね。だから今日はついてる!ありがとうあいちゃん!」

「なにが?」

「寝過ごしてくれて!」

「微妙な感謝だなおい!」


そこから、しばしの沈黙が訪れた。

心地よい無音。隣を走る車の音が妙に小さく聞こえる。

私のすぐ横数センチのところで、彼女が一緒に歩いている。

この時間が永遠に続けばいいのに。

駅までの道がもっと長ければいいのに。

このまま、どこかへ二人で走って行きたい。


・・・ついてる、か。

私もついてるな。今日はいい日だまったく。


・・・あれ?でもまてよ。それってみさきが私と一緒に下校したかったってことだよね。

友達として・・・だろうけど、でも運命とかいってたし・・・

脈・・・ありなのかな?

う~ん、流石にこじつけ過ぎかな?

いや、でも・・・


「? あいちゃん?」

「あ、ひゃい!」


しまった。


「あはは、ひゃい、だって!」

「うう、うるさいッ!」

「駅、着いたよ。」

「あ・・・。」


ああ、考えてるうちに着いちゃったッ!

もう!なんて短い道のりなの!


「あの、えっと。」

「ん?どした?」

「あ・・・」


聞きたい。みさきが私をどう思っているのか。

私がみさきを好きでいて、嫌じゃないのか。

私のこの気持ちは、間違っているのか。

言葉が出ない。出せない。苦しい。


許されないこの気持ち。

どうすれば、いいのか、私には分からなかった。


「何でも、無い・・・じゃ、また。」


聞けるわけ、無いよね・・・


私が構内へと入ろうとしたその時。


「あいちゃん!」


え?


「まだ時間あるよね。ちょっとよってかない?」


彼女が指差した先には某有名コンビニエンスストアーがあった。

私は彼女の顔も直視できぬまま静かにうなずいた。







「ンまぁーーいッ!やっぱピザまんは最高だね!」

「うん。そうね。」


店内を3週も4週もしたあげく、結局中華まんをほおばっている私たちがいた。

あんまりこういうものは食べないんだけど、いいよね。たまには。


「おいしい?あいちゃん。」

「ええ、とっても。」

「あ・・・」

「へ?」


ガターンゴトーン。と、私が乗るはずだった電車が音を立てて去っていく。


「ごめん、あいちゃん。電車いっちゃった。」

「・・・いいよ。」

「本当ごめん!」

「いいってば。15分したらまた来るし、それに・・・」




もうちょっとだけ・・・一緒に・・・




「え?なんて?」

「なんでもな~い。」

「え~、なんだよー。おしえてよー。」

「聞いてなかった方が悪いんだよ~。」

「けちー!あいちゃんなんかこうだ、えいッ!」

「あ!ちょっと、私の肉まんかじらないでよ!」

「へへ、じゃあお返し、ハイ!」

「えぇ!?」

「遠慮しないで、あーん。」

「・・・ッ!」



もう一本くらい、電車、遅れちゃおうかな。

そんな事をふと思う今日この頃であった。







          *







そんな楽しい楽しい一日も終わり、私は今日もうつらうつらと数学の授業を受けていた。 

食事の後の5時間目。地獄体育組みが今日も元気に騒いでいる。


「・・・ん?あれって。」


今日の種目はどうやら走り高跳びらしい。

この時間はみさきも授業を受けているはず。どこに・・・


「あ、いた。」


他の生徒とは一線を画するように入念に準備体操をする彼女。

思えば私は彼女が実際に飛んでいる姿を見たことが無い。

ふん、全国クラスの高飛びを、見せてもらおうじゃあないか!


「よし、じゃあ高倉~。見本見せてやってくれー。」


と、体育教師が合図をするや否や、彼女は見事なフォームで助走をつけ、

一気にその両足を地から解き放ち、まるで重力から逃れるかのように中へ浮いた。


「・・・おお。」


瞬間、全てのものがスローモーションに見えた。

美しいそのみさきの姿に、私はただ見とれるばかりであった。

空気が同調するかのように、まるで彼女に馴染むかのように、

その完成されたフォームから私は目を話すことが出来なかった。


ダッ!


「はっ!」


見事に着地した彼女に盛大な拍手が送られていた。

そのジャンプは以前弱気になっていた彼女からは想像もつかないほどきれいなものだった。

着地成功後、彼女は近寄る女の子には見向きもせずに、こちらのほうを向いた。


「え?」


にこっ、と彼女は笑って見せると、手をピースの形にして私に見せ付けてきた。

自然と私にも笑みがこぼれ、思わずピースをしかえしてしまった。

そのせいで教師に注意を促されようと、私は一向にかまわなかった。

みさきが真っ先に私を見てくれて嬉しかった。

ただ、それだけだった。それだけのことで私はとっても幸せになれた。

やっぱり私は彼女が好きだ。大好きだ。

抑えられない。しまう事など出来ないこの気持ち。

後悔はやっぱり少しあるけど、でもこの気持ちに嘘はつけない。


彼女を好きになってよかった。


その瞬間。今までのしがらみから開放された気分になった。

そう、悩んでいたって仕方が無い。

好きなものは好きなのだから。胸を張ればいいんだ。

彼女だって、ずっとそうしてきたのだろうから。

私がネガティブになっちゃだめだ!


「・・・・・・」


でも


「あ・・・」


やっぱり彼女は遠く


「みさき、男子としゃべってる。」


儚く


「笑顔でしゃべって、楽しそう。」


切なく


「・・・やっぱり、そうなんだね。」



・・・ひきょうもの。









          *







その日の放課後。彼女はいつものように図書室へやってきた。


「あいちゃん、見てた?私の高飛び!どうだった?どうだった?」


飼い犬のように彼女は私に擦り寄ってくる。


・・・そんな気など無いくせに。

どうせ私に特別な感情なんて持ってないくせに。

好きだと伝えたら、気持ち悪がるに決まっている!

かつての私のように!


「あいちゃん?」


私はその日、黙々と本を読んでいた。

集中して読んでいないと、彼女に何を言ってしまうか分からなかった。

もう限界だよ。感情を抑えるのも。


「どうしたの?今日はだんまりしちゃってさ。」


だめだ、話すな。こらえろ。

爆発してしまわないように。

集中するんだ、本に。私の大好きな生物に。


「ほーれ、こちょこちょー。」

「きゃははははは、ってなにすんねん!」

「あ、やっとしゃべったー。」


くっ、この女は、本当に、本当に、


「・・・」

「・・・ん?」


本当に、可愛いなぁおい!ちくしょー!


「あ、また顔そらしたー。もう、話すときはちゃんと人の顔みなきゃダメだよ。」

「う・・。」

「ひょっとして私の事嫌い?」

「い、いや・・・」


なーにが「嫌い」だ。

大好きだバカヤロー!

どうせ言ったって伝わらないだろうがな。

ああ、だめだめ、集中集中、しゅう・・・


!?


「ッつ・・・」

「あ、どうした!」


しまった、なんてことだ。

私とした事が。本で指を切るなんて初歩的なミスを。


「あー、やっちゃった。みさき、ティシュかなん、か・・・」

「う、う、うわあああ!たた、大変!あいちゃん!手、指!切れてる!落ち着いて!」

「お前が落ち着け!」


取り乱しすぎだろ。


「てててて、てっしゅ、てしゅー。ハンカチ。な、無い!」

「あの、だからちょっと、落ち着いて。」

「ああ、血!血がたれてきてるよあいちゃん!」

「ちょ、ちょっと切っただけだから。大丈夫だって。」

「し、止血、しないと!ティッシュ!無い!え~い、こなくそー!」


かぷ



!?


「ちょ、ちょっとぉ!みさきッ!」

「うふぉふぁふぁいふぇ(動かないで)!」


あろうことかなんとみさきは私の指を口に含んでしまった!

こんな、こんなことって・・・


「あ、ちょ、ほんと、勘弁してよ・・・あっ・・・」


す、すわれてる。みさきに。

私の指が・・・



時計の音がやけに大きく聞こえる。

あわただしいおかしな時間が刻々と過ぎ去っていく。


どうしてみさきは私にここまでしてくれるの?

ただの友達でしょ?

そう思っているんでしょ?

結局みさきも男がすきなんでしょ?

女となんて・・・女となんて・・・

私となんて・・・ッ!


なのに、なんでっ!



こんなの、おかしい・・・





「・・・離して、みさき。」

「ふぇ?ふぁんで(何で)

「いいからッ!」


ドンッ!

っと、私は彼女を突き放した。


「え?」


・・・動悸が激しい。

頭に血が上りすぎてまともに思考できない。

どころか、立っているのもままならない。

でも、でも・・・


「・・・やめてよ。こういうの・・・」

「だ、だって、あいちゃん

「名前で呼ばないでよッッ!」


ビクッっと彼女は体を振るわせた。


「え、と。どうしたの?一体。」

「何でも・・・ない・・・」

「なんでもないわけ無いじゃん。怒ってるの?」

「怒ってない!」

「ならなんでそんな顔してるのさ!」

「わからないのッ!」

「!?」


溢れる


「わからないのよぉ・・・」


気持ちが


「どうしてこんな・・・」


大爆発


「私・・・あなた・・・」


こんがらがって大爆発して、ついに飛び出す私の歯車。

暴走した心はもう止まらない。

一人で勝手に壊れて逝く。

音を立てて、崩れ去る。



「・・・せいぜい軽蔑しなさい。」

「は・・・?」




「私、みさきのことが好き。」




時が止まり、心が動く。

溢れる感情は涙となって零れ落ちる。


ズキズキと痛む指をつたって、一滴の赤い紅い雫が音もなく地に堕ちていった。


次回でいよいよ(というほどでもない)最終回です。

ラストまでもうしばしお付き合いを。

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