7 召喚勇者の実力
「ふぅ、間一髪だったなぁ」
レイアの身体を借りた私は、急いで戦場へと向かったのだが、平野のど真ん中にできたクレーターやアンデットの軍勢を見て、状況の把握に努めようとした。そして、城壁の上でゼロが休んでいるのに気付いたので、急いで向かい、状況は!と尋ねると信じられないものを見るような目で見られた。そしてしまいには、おまえは誰だ、と割とマジっぽい顔で言われた。悲しい。
だが、気を落としている暇はないと自らを叱責し、それでもと、しつこく話を聞いたら怪訝な表情を浮かべながらも話してくれた。なんでも、リーアとアレンは敵の首魁と戦っているとのことだ。ゼロはというと、でかい魔法を放って魔力を消耗したからと休んでいたらしい。あのクレーターは、ゼロが作ったものだったんだと感心しながらも、私はどこに加勢をしようかと考えた。そして、アンデットの軍勢は、このままいけば倒しきれるだろうと思ったので、城壁を飛び降りて強い威圧感の感じるほうへ駆け出して行った。城壁の上から、は⁉と驚く声が聞こえたが、今はそれよりもと無視をした。
アンデットどもを蹴散らしながら進むと、まさにとどめを刺されそうになっているリーアが見えたので、思わずやめろと声を荒げて、今できる全力の一撃を食らわせたら、敵は文字通り吹っ飛んでいった。いやぁ、マジでひやひやしたぁと心の中で再びため息をつくのだった。
また、これまで、城壁の上から飛び降りたり、リーアをここまで追い詰めた敵を吹き飛ばしたりと、人外じみたことをやっているのだが、それにもちゃんとした理由がある。それは、おそらく神の加護だ。おそらく、とついしまうのは私が今使っている力が何なのか私もまだよく分かっていないからだ。というのも、私はレイアの身体を借りてすぐに、体の内側で今まで感じたことのない力の奔流が渦巻いているのに気付いた。そして、それを使って身体の強化をしようとしたら、できてしまったのだ。前世をはるかに超えてみなぎる力に、最高だと興奮した私は、その力の赴くままに駆け出したのだった。
そして、今があるわけだが、倒れ伏すリーアもまた、信じられないものを見るような目で私を見ている。みんなしてちょっとひどくない?と、かつて見たことのあるギャルっぽい感じでぷんぷんするのだった。だが、そういえば、レイアはこんな感じじゃなかったよな、と今更ながらに気づき、すべてが終わった後、どうやって誤魔化そうかと頭を悩ませるのだった。そうしていたら、先程吹き飛ばした敵があふれ出る殺気を隠すことなく現れた。
「貴様、何者だ?我は魔王様が配下、四天王が一人、ガルグボルグだ」
え?四天王⁉と、かつて若者たちが言っていた中ボスの肩書の名前を聞いて、まだ旅始まったばかりなんだけど、と心の中で愚痴を吐くが、武器を構えたので私も構えて質問に答えた。
「私はちy………じゃなくて、レイア。お前を倒す勇者だ」
「勇者か。私の直感が貴様をここで仕留めなければ、確実に魔王様の脅威になると告げている。悪いが、貴様にはここで確実に死んでもらう」
「できるものならやってみろ!」
私は、数百年ぶりとなる強敵との戦いに心を躍らせながら、ガルグボルグと剣を交えるのだった。
………………
「何が………起こっているんだ………」
リーアは倒れ伏しながらもその戦いを見届けようと、痛む身体を我慢して必死に顔を上げて、眼前で繰り広げられている戦闘に目を向けるのだった。だが、リーアには目の前で起きていることが全く理解できなかった。いや、理解したくないのかもしれない。なぜなら、私を圧倒したはずのガルグボルグが、まるで先程の私のようにあしらわれているからだ。ガルグボルグの表情は、ヘルムに隠れて見えなかったが、時折出る苦しげな声がその表情を想起させる。
レイアはというと、どうしたどうしたぁぁあ!!!そんなんじゃ、当たんねえぇぞ!!!と、まるで別人のような雰囲気で声を荒げているが、そんなことが些細になるほど、リーアには目が奪われるものがあった。それは、剣技である。レイアの振るう剣の技は今までに見たどのそれよりも美しく、綺麗で、そして、完成されていたのである。
リーアは騎士団長の娘ということで、小さい頃から剣を振るうのが当たり前の日常だった。そして、父の才能を継いだリーアは若くして、父と互角に渡り合うほどのレベルまで力をつけた。だが、そんなリーアにかけられた言葉は、お前が男だったら、というものだった。リーアはそんな言葉にひどく傷つき、それはトラウマとなっていった。というのも、騎士団長の立場は女性ではつくことができないからだ。そしてそれは、どこの国でもそうだった。
リーアはそれ以降、その言葉を聞くと感情が高ぶり、酷いときは我を忘れて切りかかってしまうこともあった。だが、圧倒的な実力を見せれば、もしかしたら、と剣の技を磨き、鍛錬に励むのだが、限界を感じていたのだった。もう、これ以上強くなることはできないのだと。そんな中、勇者パーティーのメンバーにどうかという話を聞いて、何かを変えられるかもしれないと答えを出したが、ふたを開けてみれば、肝心の勇者は先日までただの村人だったというではないか。それでも、旅を通じて何かを得られるかもしれないと、一度考えた脱退の2文字を頭から振り払い、旅立ちの日を迎えたのだった。そして、それは正解だった。
「ともあれ、後で詳しく聞かないとな」
リーアはレイアの勝利を確信したようにそう呟いた。そして、それは現実になろうとしていた。
………………
「何が、どうなっている⁉」
かつて、この大陸で最強の名を欲しいままにしていたガルグボルグは、困惑していた。魔王様から頂いた力により、生前よりも力が増しているはずなのに、どうして………どうして、我は膝をついているんだ、と。目の前の勇者からはそれは凄まじい力を感じるが、それよりもむしろ、と考えるのだった。そう、剣技だ。目の前の勇者はそれは師匠が弟子に稽古をつけるように我の剣技をあしらうのだった。
そして、それは圧倒的なまでに実力差がなければ起こりえない現象だった。だからこそ、ガルグボルグは絶対に認めるわけにはいかなかったのだ。それを認めてしまえば、単純な力の差ではなく、剣の実力で敗北することを意味するからだ。ガルグボルグはかつてないほどに己の集中力を研ぎ澄まし、剣の技を新たなステージへと昇華させようとしていた。そして、剣の天才であるガルグボルグはそれを戦いの最中に成し遂げるのだが………それでも、届かない。ならば、と頭をフル回転させて、どうにか打倒する方法を考えるが、それもうまくいかず。
己の負けを、自ら悟ってしまったガルグボルグは、絶対にありえない!!!と、剣技を捨てて力のままに武器を振るうことに切り替えた。そして、それはガルグボルグの負けを意味するのであった。確定演出というやつである。勇者は、力のままに振るわれたそれを容易くいなし、神々しく光り輝く聖剣に力をありったけ流し込み、ガルグボルグに振り下ろすのだった。
………………
「いやぁ、強かったなぁ。突然、剣技のレベルが跳ね上がるし、ちょっと焦ったけど最後のはいけなかったなぁ。力任せに剣を振るうのは、敗北と同義だよ」
戦いの興奮から覚めず、早口にそう分析した私はそれでも楽しかったなと思うのだった。ガルグボルグについてだが、浄化したように存在が消滅してしまった。これが、神の加護か。すごいなと戦いの余韻に浸っていた私だが、聞こえてきた戦闘の音に頭を切り替える。そして、私は彼らの援護しようと思い、駆け出そうとしたところで、声をかけられて、その存在に気付いた。
「レイア、いくつか聞きたいことがあるんだが」
「あっ………」
「………」
いや、忘れてたわけじゃないんだけど………ごめんね、と心の中で謝るが、それを読まれたかのように訝しげな視線を向けてくる。私はバツが悪くなり、冷や汗を流し、ひゅ~と口笛を吹きながら目をそらすが、その様子にぷっ、と何か結界が壊れたようにリーアは笑い出した。そして、一言すまない、と言うと真面目な顔に戻って再び問うてきた。
「レイアはあの剣技をどこで習ったんだ。いや、それよりも、君は本当にあのレイアなのか?」
「………」
そう問われて、どうしたものかと頭を悩ませるが、『君は本当にレイアなのか?』と聞かれたことを思い出し、ヤバい、レイアの身体のままでかなり無理しちゃったかも⁉と、戦闘時に高鳴っていた心臓よりも心拍が上がった私は、焦ってレイアの身体から抜け出すのだった。そして、突然そうされたレイアはというと、かつて私が憑りつき仲良くなった女性のような末路を辿るのだった。
「ギィヤァァァァァアアアア!!!!!!………か……からだ………が………」
「レ、レイア⁉大丈夫か⁉だっ誰かぁぁああ!!!」
そうして、戦場に勝利の悲鳴がこだまするのだった。




