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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第三章 永禄尾張の地で
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第19話 共同戦線の女神たち

 

 永禄での、充実感と、ほんの少しの寂寥感を胸に、俺は、時空を繋ぐ光の中へと、再びその身を投じた。


 信長勢との、か細いながらも、確かなつてができた。村は、豊かになりつつある。だが、俺の、個人のクエストは、どうだ?

 一抹の不安と、それを、遥かに上回る、期待感。

 令和に帰れば、あの、二人と、また、会える。


「あの二人、仲良く、やってるだろうか……」


 俺は、そんな、呑気なことを、考えながら、光のトンネルを抜けた。

 眩い光が収まり、見慣れた婆ちゃんの家の仏間へと、足を踏み出す。


「ただい……」


 ま、と、言い終わる前に、俺の言葉は、凍り付いた。

 仏間には、二人の女神が、まるで、凱旋将軍を、出迎えるかのように、にこやかに、腕を組んで、待ち構えていたのだ。


「おかえりなさい、嶺さん」


「お待ちしておりましたわ、嶺さん」


 茜さんと、澄田さん。

 その笑顔は、春の陽光のように、穏やかで、温かい。

 ……温かい、はず、なのに。


 なぜだろう。俺の背筋を、ぞくりと、悪寒が駆け抜けたのは。

 二人の笑顔は、完璧に、シンクロしていた。その瞳の奥には、何か、こう、獲物を前にした、肉食獣のような、ギラリとした光が、宿っているように、見えた。


「え、あ、ただいま……。二人とも、どうして、ここに?」


「決まってるじゃない。私たちも、行くのよ」


「ええ。サツマイモの苗だけ、あなた一人に、運ばせるわけには、いきませんから」


「えええっ!?」


 俺の、驚きの声など、まるで、意に介していないかのように、二人は、てきぱきと、動き始めた。


「さあ、嶺さん、ぼさっとしてないで! 善は急げ、って言うでしょ!」


「時間資源は、有限です。最も、効率的に、活用しましょう」


 俺は、訳が分からないまま、二人に、両腕を掴まれ、今、くぐり抜けてきたばかりの、時空のトンネルへと、再び、押し込まれることになった。

 嘘だろ!? 滞在時間、約3分! 史上最短、記録更新だ!

 俺の、情けない悲鳴は、再び、眩い光の中に、吸い込まれていった。


 こうして、俺の、一ヶ月ぶりの、令和での休息は、儚くも、消え去り、俺は、二人の女神を、引き連れて、永禄尾張の地に、逆戻りすることになった。


「ふう。やっぱり、こっちの空気は、美味しいわね」


 茜さんは、気持ちよさそうに、大きく、伸びをしている。


「データの再収集が必要です。気温、湿度ともに、前回、観測時より、有意な変化が見られます」


 澄田さんは、早速、手帳を取り出し、何やら、数値を、書き込み始めた。

 俺だけが、状況についていけず、呆然と、立ち尽くしている。


「茜さんは、毎月、二泊三日で、こっちに来るのが、すっかり、ルーチンになってるみたいだな」


「ええ。農協の仕事の、良い、息抜きにもなるし、何より、楽しいもの」


 彼女は、そう言うと、ちらりと、俺に、意味ありげな視線を、送ってきた。


「澄田さんも、大学は、いいのか? 春先は、何かと、忙しいんじゃないか?」


「問題ありません。今回は、私も、二泊三日の、短期滞在です。ですが、時間は、有効に、使わせていただきます」


 彼女は、そう言うと、まるで、戦場に赴く、指揮官のような、きりりとした表情で、村の方角を、見据えた。

 この、二人……。

 なんだか、以前よりも、格段に、連携が、スムーズになっていないか?

 まるで、長年、連れ添った、夫婦漫才のコンビのような、阿吽の呼吸を、感じる。

 俺が、首を傾げていると、村から、俺たちの帰還に、気づいた、大森たちが、駆け寄ってきた。


「先輩! お帰りなせえ! ……って、あれ? 茜様に、澄田様まで!?」


「やあ、大森さん、詩織さん! また、お世話になるわね!」


「ご無沙汰しております」


 二人は、にこやかに、挨拶を返す。

 大森は、俺の顔と、二人の女神の顔を、交互に見比べると、ニヤア、と、意地の悪い笑みを、浮かべた。


「へえ……。先輩、隅に、置けませんなあ。両手に花、ってやつですかい?」


「ち、違うわ、馬鹿者!」


 俺は、顔を真っ赤にしながら、大森の、脇腹を、小突いた。

 その、俺たちの、やり取りを、二人は、実に、穏やかな笑みで、眺めている。その、余裕綽々な態度が、逆に、不気味で、仕方がなかった。


 二人の、女神が、加わった、永禄尾張での、生活は、想像以上に、目まぐるしいものだった。

 特に、茜さんの、活躍は、目覚ましかった。


「さあ、みんな、聞いて! 畑仕事は、ただ、闇雲に、やればいいってもんじゃないのよ!」


 彼女は、令和から、わざわざ、持ち込んできた、新品の鍬や鋤を、山窩の男たちの前に、ずらりと並べると、まるで、農業指導員のように、熱弁を、ふるい始めた。


「いい? 土を、深く、そして、柔らかく、耕すことが、一番、大事! こうやって、腰を入れて、テコの原理を、使うの!」


 茜さんは、自ら、鍬を手に取り、見事な手つきで、固い地面を、掘り返していく。農協勤務で、鍛えられた、その、無駄のない動きは、もはや、芸術の域に、達していた。

 山窩の男たちも、最初は、遠巻きに見ていたが、彼女の、的確な指導と、エネルギッシュな姿に、引き込まれ、次第に、真剣な眼差しで、聞き入るようになった。


「畝は、ただ、土を盛り上げれば、いいわけじゃないわ。水はけを、ちゃんと、考えて、作るのよ! サツマイモは、高い畝を、好むからね!」


 農業に関する、知識と経験は、俺たちの中では、彼女が、随一だ。俺や、澄田さんのような、本で読んだだけの、知識とは、訳が違う。

 その指導は、大森よりも、むしろ、詩織さんの方に、より、熱が入っているように、見えた。


「詩織さんは、本当に、飲み込みが、早いわね! 筋がいい!」


「まあ、茜さん! そんなに、褒めていただいても、何も、出ませんわよ」


 二人は、キャッキャと、楽しそうに、笑い合っている。なんだか、女子会のような、華やかな雰囲気だ。

 俺は、ただ、ぼうっと、その光景を、眺めていた。

 この村で、初めて、本格的に、行われる、農業。

 それは、俺たちの、未来の、食糧事情を、左右する、極めて、重要なプロジェクトだ。


 茜さんが、いてくれて、本当に、良かった。彼女は、この時代の、人々が、陥りやすい、初歩的な失敗を、知り尽くしている。その、的確なアドバイスのおかげで、少なくとも、大森と、特に、優秀な生徒である、詩織さんには、そのノウハウが、確実に、伝わったようだった。


 詩織さんが、元、ホームセンター勤務だったという、経歴も、伊達ではないらしい。彼女は、茜さんの、専門的な言葉を、驚くほど、すんなりと、理解し、自分のものに、していた。

 俺たちが、時間切れで、令和に戻る、間際には、詩織さんの方から、「茜さん、次は、この作物の、追肥をお願いします」と、肥料の要望を、メモにして、渡してくるまでになっていた。


 一方、澄田さんも、短い、滞在時間を、一秒たりとも、無駄にしない、という、強い意志で、動き回っていた。

 彼女は、村の、生産活動の、あらゆるデータを、収集、分析し、改善案を、次々と、提示していく。


「炭焼き窯の、燃焼効率ですが、ここに、空気の取り入れ口を、もう一つ、増設すれば、温度管理が、より、容易になり、品質の、均一化が、図れるはずです」


「陶器の、強度を上げるには、粘土に、この、長石の粉末を、一定の割合で、混ぜ込むのが、有効です。科学的な、アプローチを、導入しましょう」


 彼女の、提案は、常に、具体的で、論理的だった。

 そして、俺が、武井夕庵と、接触した一件を、報告すると、彼女は、自分のことのように、興奮し、その意義を、熱っぽく、語り始めた。


「素晴らしい……! 嶺さん、それは、最高の、ファーストコンタクトです! 武井夕庵は、ただの、武将ではありません。信長の、ブレーンであり、祐筆……つまり、秘書官です。彼のような、文官と、繋がりが、できたということは、我々が、血生臭い、戦の、最前線に、駆り出される、リスクが、大幅に、減少したことを、意味します!」


「そ、そうか……」


「ええ! 我々は、あくまで、『物作りの民』として、後方から、信長勢力を、支援する、という、スタンスを、確立できる、可能性が、出てきたのです。これは、今後の、我々の、生存戦略において、極めて、重要な、布石ですよ!」


 普段の、クールな彼女からは、想像もつかないような、早口で、捲し立てられ、俺は、ただ、圧倒されるばかりだった。

 だが、彼女が、俺の、行動を、手放しで、褒めてくれていることは、分かった。それが、なんだか、無性に、嬉しくて、俺は、照れくささのあまり、頭を、掻くことしかできなかった。


 そんな、俺たちの、やり取りを、少し離れた場所で、見ていた、茜さんが、ぷうっと、頬を、膨らませていたことには、残念ながら、俺は、全く、気づいていなかった。


 あっという間に、二泊三日の、時間は、過ぎ去っていく。

 俺たちは、再び、時空のトンネルを、くぐり、令和へと、帰還した。

 そして、そのまま、リビングで、今後の、方針を話し合う、という、一連の流れは、すっかり、俺たちの間の、ルーチンと化していた。


「農業関連は、詩織さんたちに、任せるしかないわね。一ヶ月や、そこらで、結果が出るものじゃないし、あっちから、何か、SOSが来ない限りは、信じて、待ちましょう」


 茜さんが、そう、切り出す。


「同意します。我々が、今、注力すべきは、外交……、織田信長との、関係構築です」


 澄田さんが、きりりと、表情を、引き締めた。

 彼女は、持参した、ノートパソコンを、開くと、画面に、年表や、地図を、表示させた。


「改めて、歴史の流れを、確認します。来年、永禄五年、信長は、犬山城の、織田信清を、本格的に、攻めます。この、一帯が、きな臭くなる前に……、いえ、むしろ、その、きな臭さを、利用して、我々は、信長配下としての、地位を、確立する必要が、あります」


「武井夕庵との、繋がりを、もっと、太くする、ということか」


「その通りです。彼は、戦働きは、せず、信長の、側に、いることが多い。つまり、彼に、気に入られれば、我々の、存在と、有用性を、直接、信長に、伝えてもらえる、可能性が、非常に高い、ということです」


 澄田さんの、分析は、いつもながら、明快だ。

 俺が、武井夕庵という、人物を、引き当てたのは、全くの、偶然だったが、結果として、最高の、当たりくじを、引いたらしい。


「よーし! じゃあ、次の、目標は、決まりね!」


 茜さんが、パン!と、威勢よく、手を叩いた。


「次に、嶺さんが、向こうに行くのは、五月でしょ? その時に、積極的に、武井様と、やら、に、会いに行って、顔を、売ってくること!」


「ああ、分かった」


「何か、手土産も、必要ですね。前回は、陶器でしたから、次は、別の、我々の、生産力を、示せるものが、望ましい……。茶葉は、どうでしょう。まだ、少量ですが、収穫は、可能なはずです」


「いいね、それ! 『うちの村で、採れた、特別なお茶です』なんて、言ったら、喜ぶんじゃない?」


 二人の、会話は、ポンポンと、小気味よく、進んでいく。

 まるで、最初から、結論が、決まっていたかのように、話は、まとまっていった。

 俺は、ただ、二人の、見事な、コンビネーションに、感心しながら、頷いているだけだった。


 なんだか、俺が、いなくても、この二人だけで、全てが、上手く、回っていくんじゃないだろうか。

 俺が、そんな、少し、寂しいような、気持ちになっていると、ふいに、茜さんが、俺の頭を、わしわしと、撫でてきた。


「な、なんだ、茜さん!?」


「んー? いやあ、難しい話は、よく、分かんないけど、とにかく、嶺さんが、すごい、頑張ってるんだなあって、思ってね。よしよし、えらい、えらい!」


 子供扱いだ! 完全に、子供扱いされている!

 だが、その、手のひらの、温かさが、なんだか、心地よくて、俺は、何も、言い返せない。


「……こほん」


 その時、澄田さんが、わざとらしく、一つ、咳払いをした。


「大峰さん。戦略会議の、途中です。私的な、インタラクションは、慎んでいただきたい」


「あら、ごめんなさい。でも、澄田さんだって、さっき、嶺さんのこと、褒めちぎってたじゃないの」


「あれは、客観的な、事実に基づいた、状況分析です。あなたのような、感情的な、行動とは、根本的に、異なります」


「なによ、それ! 理論武装ばっかりして! 素直に、褒めてあげれば、いいじゃない!」


「私は、常に、合理的、かつ、冷静な、判断を……」


 ばちばちっ!

 二人の間で、また、見えない、火花が、散った。

 ああ、やっぱり、この二人、仲が、良いのか、悪いのか、さっぱり、分からん……。


 俺は、ただ、二人の、女神(という名の、爆弾)に、挟まれて、おろおろと、縮こまることしか、できないのだった。


 やれやれ。

 信長に、会うための、クエストも、大概、難易度が、高いが、この、ラブコメクエストは、それ以上に、攻略法が、見えない。


 俺の、ヘタレな心は、春の、陽炎のように、頼りなく、揺らめいているのだった。

 俺の、奇妙で、そして、どこかワクワクする日々は、まだまだ、始まったばかりだ。




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