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行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
第三章 永禄尾張の地で
14/23

第14話 新たな仲間と、時を超えるDIY計画

 

 戦国露天風呂建設計画。


 その壮大な野望を胸に、俺は再びホームセンターの広大なフロアを彷徨っていた。

 目的は、湯船作りの要となる、セメントや防水材の調達だ。

 スマホでDIY動画を漁りながら、ああでもない、こうでもないと資材コーナーをうろつく。


「……やっぱ、ブロックで基礎を組んで、内側をセメントで固めるのが一番手堅いか? でも、向こうにブロックなんて運べるのか……?」


 ブツブツと独り言を呟きながら、セメント袋の重さを確かめようと屈んだ、その時だった。


「……あの、もしかして、平田先輩じゃありませんか?」


 背後から、不意に声をかけられた。

 店員か? いや、それにしちゃ、やけに馴れ馴れしい。


 俺は、一瞬、身構えた。このご時世、変な勧誘やセールスも少なくない。

 だが、その声の主は、俺の名前をはっきりと呼んだのだ。

 ゆっくりと振り返ると、そこには、人の良さそうな笑顔を浮かべた、若い男が立っていた。年の頃は、俺より3、4歳下だろうか。どこかで見たような……。


「……えっと、どちら様で?」


「あ、やっぱり! 俺ですよ、俺! 大学のサークルで一緒だった、大森です! 大森拓也!」


「おおもり……?」


 その名前に、俺の脳内のデータベースが、ようやくヒットした。

 そうだ、大森。確か、俺が卒業する間際に入ってきた、やたらと元気で、ちょっとお調子者な後輩だ。


「ああ! 思い出した! あの時の! なんだ、大森か! こんなとこで何してんだ?」


「ここで働いてるんですよ! って、先輩こそ、そんな大荷物抱えてどうしたんですか? なんか、すごい本格的なDIYでも始めるんですか?」


 久しぶりの再会に、俺たちは、しばし旧交を温めていた。

 すると、大森が、ふと、隣にいた小柄な女性に視線を移し、照れ臭そうに頭を掻いた。


「あ、紹介します。俺の彼女の、母栖もすです」


「は、はじめまして! 母栖詩織しおりです!」


 ペコリ、と深々と頭を下げる彼女。

 大きな瞳が印象的な、いかにも素直そうな女性だった。

 やれやれ、後輩は、いつの間にか、こんな可愛い彼女まで作っていたのか。

 なんだか、少しだけ、置いて行かれたような気分だ。


 休憩時間だという大森に誘われ、俺たちは、ホームセンターの駐車場に停めた俺の車の中で、缶コーヒーを飲みながら話をすることになった。


「へぇ、先輩、会社辞めて、こっちに戻ってきてたんですね」


「まあ、色々あってな。今は、婆さんの家で、のんびりしてるよ」


「いいなぁ、スローライフ! ……実は、俺たち、今住んでるボロアパート、近々追い出されちゃうんですよ。老朽化で取り壊すんだとかで……」


 大森が、がっくりと肩を落としてこぼす。

 隣で、母栖さんも、しゅん、と子犬のように項垂れていた。


「次のアテとか、ないのか?」


「それが、全然……。二人で住める物件って、家賃も高いし、敷金礼金もバカにならないし……。正直、詰んでます」


 深刻な顔で、深いため息をつく二人。

 その姿を見ていて、俺の頭に、ふと、ある考えが閃いた。


 ……そうだ。俺のいない間の、婆さんの家の管理、どうしようかと悩んでいたところじゃないか。

 特に、あの菜園。長期で留守にするなら、誰かに世話を頼みたい。

 まさか、こんなところで、渡りに船がやってくるとは。


「……なあ、大森」


「はい?」


「もし、行くところが無いんだったら……うち、来るか?」


「……へ?」


 俺の提案に、二人は、きょとんとした顔で、俺を見つめた。


「婆さんの家、無駄に広いんだよ。部屋も余ってる。俺がいない間の、家の管理と、畑の世話をしてくれるなら、家賃なんていらない。どうだ?」


 俺の言葉が終わるか終わらないかのうちに。


「「お願いしますっ!!」」


 二人の声が、綺麗に、そしてものすごい食い気味に、車内に響き渡った。

 その必死な形相は、まるで、地獄に垂らされた蜘蛛の糸に飛びつく亡者のようだった。

 やれやれ、そんなに切羽詰まっていたのか。


 こうして、俺は、思いがけず、二人の若きカップルを、我が家に迎え入れることになったのだった。


 数日後。

 ホームセンターで借りてきた軽トラックの荷台に、お世辞にも多いとは言えない家財道具を乗せて、大森と母栖さんが、婆さんの家にやってきた。


「うわー! 広っ! マジで、ここに住んでいいんですか!?」


「し、信じられない……。夢みたい……」


 目をキラキラさせて家の中を見回す二人。

 俺は、そんな二人を案内しながら、今後のルールを説明した。


「夜の生活もあるだろうから、二人の部屋は、俺の生活空間から一番離れた、あっちの二間続きの和室を使ってくれ。仏間と、俺の部屋以外は、基本、好きにしてくれて構わない」


「「あざーっす!!」」


 俺の粋な計らい(自称)に、二人は、再び深々と頭を下げた。

 こうして、俺と、若きカップルの、奇妙な同居生活が始まった。

 そして、この同居が、俺の、いや、俺たちの運命を、さらにカオスな方向へと導くことになるなど、この時の俺は、知る由もなかった。


 それからというもの、俺の家は、にわかに活気づいた。

 特に、茜さんと澄田さんが、何かと理由をつけては、頻繁に遊びに来るようになったのだ。


『大森くんたちの引っ越し祝い、手伝うよ!』


『新しい同居人にご挨拶しておかないと、今後の作戦会議に支障が出ます』


 ……などと、もっともらしいことを言っているが、本音は、ただ単に、この新しい状況が面白くて仕方ないだけだろう。


 その日も、四人でリビングのコタツを囲み、茜さんの持ってきたケーキを食べていた時だった。


「いやー、それにしても、平田先輩、隅に置けないっすよねぇ」


 大森が、ニヤニヤしながら、俺と茜さん、澄田さんを交互に見て言う。


「こんな綺麗な女の人たちと、頻繁にお茶したりして……。一体、どういうご関係で?」


「「……っ!」」


 その、あまりにもストレートな質問に、茜さんと澄田さんの動きが、ピタリと止まった。

 やれやれ、このお調子者の後輩め。藪を突くな、藪を。

 俺が、どう誤魔化そうかと頭をフル回転させていると、母栖さんが、追い打ちをかけるように、純粋な瞳で尋ねてきた。


「もしかして、皆さんで、何か、秘密のプロジェクトでも進めてるんですか……?」


 ……もう、だめだ。

 この二人の、悪意なき好奇心の前では、どんな言い訳も通用しないだろう。

 俺は、観念して、深いため息をついた。


「……分かったよ。話す。全部、話してやる。ただし、絶対に、誰にも言うなよ」


 俺は、腹を括り、時を超える盃のこと、永禄三年の世界のこと、そして、今、俺たちが進めようとしている「戦国露天風呂建設計画」のことを、洗いざらい、二人にぶちまけた。

 俺の話を聞き終えた二人は、呆然とするかと思いきや、その反応は、俺の予想の斜め上を行くものだった。


「……マジすか。異世界転移……ならぬ、戦国時代転移……」


「すごい……。そんなことが、本当に……」


 二人は、目をキラキラと輝かせ、完全に興奮状態に陥っていた。

 そして、次の瞬間。大森が、ガタッとコタツから身を乗り出して、とんでもないことを叫んだのだ。


「先輩! 俺、仕事辞めて、その異世界に転移します!」


「えっ!? ちょ、拓也くん!?」


 母栖さんが驚きの声を上げるが、その彼女も、すぐに、決意を固めた表情で、大森の隣に並んだ。


「……私も、拓也くんに付いていきます!」


「お、お前ら、正気か!?」


 俺のツッコミも、もはや二人の耳には届いていない。

 聞けば、二人とも、親や親戚からは半ば勘当されているような状態で、この令和の世に、特に未練はないのだという。今まで、必死に、ただ生きるためだけに働いてきた。だからこそ、新しい世界でのスローライフに、強烈に惹かれるのだ、と。


「……いや、スローライフって言ってもな。向こうは、永禄三年の、戦の真っ最中だぞ。俺たちの拠点のすぐ近くは、織田家の内輪揉めの最前線なんだ。スローどころか、常に死と隣り合わせの、ハードモードなサバイバルライフだぞ!」


 俺は、必死に現実を説く。だが、二人の目は、夢見るように、キラキラと輝いたままだった。


「大丈夫ですって、先輩! それなら、俺たちの現代知識で無双してやりますよ!」


「そうですよ! きっと、私たちにしかできないことが、たくさんあります!」


 ……だめだ、こいつら、話が通じねえ。

 完全に、異世界転生もののラノベや漫画に脳を焼かれてやがる。

 やれやれ、だ。面倒なことこの上ない。


 結局、すぐにでも行きたいと駄々をこねる二人を、俺は、なだめすかし、説得し、最終的には、次の新月の夜に、お試しで連れて行ってやる、という約束をさせられてしまったのだった。

 その日から、我が家は、完全に「戦国移住プロジェクトチーム」の秘密基地と化した。


 大森と母栖さんは、本当に、あっさりと仕事も辞めてきてしまった。

 その行動力には、もはや呆れるのを通り越して、感心すら覚える。

 そして、二人は、移住のための準備を、着々と進め始めた。


 特に、元ホームセンター店員である大森の知識は、俺たちの「露天風呂建設プロジェクト」に、絶大な効果を発揮した。


「先輩、湯船作るなら、セメントだけじゃなくて、この防水モルタルと、あと、このプライマーも必要っすよ。あと、配管どうします? 竹で作るのも風情ありますけど、耐久性考えたら、塩ビ管持ってった方が絶対いいっすね」


 大森は、俺の曖昧な計画を聞くと、スラスラと、必要な工具や資材のリストを書き出していく。

 俺は、そのリストを手に、再びホームセンターへと買い出しに走る羽目になった。

 さらに、大森の提案で、木材をこちらである程度加工し、キットのようにして持ち込むことになった。


「向こうの季節は、もうすぐ11月。冬に入るから、露天だけじゃ、絶対凍えますよ。簡単な小屋も建てられるように、防寒対策もしっかり考えましょう」


「なるほど……。確かに、その通りだ」


 俺は、彼の的確な指摘に、素直に感心するしかなかった。

 ホームセンターの店内で、偶然、ロケットストーブが売られているのを見つけた。暖房にも、調理にも使える、優れものだ。これも、持ち込む用品のリストに加えておく。


 気がつけば、婆さんの家の仏間の一角は、ノコギリやセメント袋、塩ビ管、そして、謎のロケットストーブなどが山積みになった、完全な資材置き場と化していた。


 そして、ついに、運命の新月の日がやってきた。

 その夜、仏間には、五人の男女が集結していた。

 俺、茜さん、澄田さん。そして、大森と母栖さんのカップル。

 季節は11月。過ごしやすい陽気の令和とは違い、向こうは、これから厳しい冬を迎えようとしている。


 俺たちは、全員、分厚いダウンジャケットや防寒具に身を包んでいた。

 その姿は、これから時空を超えようというよりは、雪山登山にでも向かうパーティのようだ。


「なんだか、すごいことになってきちゃったわね」


 茜さんが、楽しそうに笑う。彼女は、もはや、この非日常を、完全にレジャーとして楽しんでいる。


「……まさか、五人で渡ることになるとは。想定外です」


 澄田さんは、呆れたように言いながらも、その口元は、かすかに綻んでいた。

 そして、今回の新規参加者である大森カップルは、というと。


「うおおお! いよいよか! 俺の戦国無双が、今、始まる!」


「拓也くん、がんばって! 私、ずっとそばにいるからね!」


 二人して、希望に満ち溢れた、キラキラした目をしている。

 やれやれ、この能天気な二人を、無事に連れて帰ってこれるだろうか。

 俺は、この、あまりにもカオスなパーティのリーダーとして、一抹の、いや、かなりの不安を覚えながらも、不思議と胸が高鳴っているのを自覚していた。


「よし、行くか」


 俺の号令で、五つの盃が、同時に掲げられる。

 そして、一気に、神酒を呷る。

 ぐにゃり、と視界が歪む。


 最後に見たのは、期待と、不安と、そして、それぞれの野望に満ちた、四人の仲間たちの顔だった。

 いざ、戦国時代へ。

 俺たちの、波乱に満ちた冒険の、新たな幕が上がる



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