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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

境界線 

作者: Bonta

修正中

草が生い茂り、心地よい風が吹く朝。2羽の鳥が枝の上でさえずっている。


Kenはカーテンが靡く涼しい風に包まれながら、時間を無視したかのように眠っていた。本来であれば、今日は朝早くから重要な任務のため起きなければならなかった。しかし、昨晩セットしたはずのアラームは鳴らなかった。壊れていたのか、あるいは何かの原因で作動しなかったのか。


静かで涼しい時間が過ぎ、人々の活動音が周囲に満ちる頃、Kenはようやく目を覚ました。寝ぼけ眼でベッドの横に置かれた昨日の飲みかけの水を一気に飲む。冷たい水が喉を通ると同時に意識がはっきりし、自分が寝過ごしたことに気づいた。慌ててカレンダーを確認し、今日の予定を確認すると、ギリギリ間に合う時間だった。だが、余裕はなかった。


急いで支度を済ませるも、まだ身体が思うように動かない。壁やドアに肩や膝をぶつけながら準備を整えた。体中に赤い斑点ができたが、Kenは一切声を出さなかった。ただ黙々と支度を終え、玄関の扉を開け、壁に飾られた家族写真に小さく頭を下げる。


「行ってきます」


静かで少し寂しそうな声で呟き、Kenは家を出た。空気を胸いっぱいに吸い込み、気持ちを切り替えるように深呼吸をする。そして、目的地へと向かった。


Kenが働いているのは、首都の真ん中に存在する警察署の中でも極秘部門とされる「公安部外事課第6」。外国諜報機関への対抗、テロリズムへの対処、国際問題に絡んだ機密任務を請け負う部署であり、公式には存在しないとされている。世間では陰謀論や都市伝説のように語られるが、公安の内部では“存在している”と囁かれていた。


Kenは、そこで新人捜査官として配属され、初任務の日を迎えた。


任務内容は、熱帯に位置するXXX帝国で進行中と噂される「破壊工作計画」に関する情報の調査と阻止。具体的には、現地に潜入している他部門の捜査官と合流し、偵察・情報収集を行い、作戦に必要な情報を整理するというものだった。


これは彼にとって初めての海外任務であり、同時に“越えてはいけない線”に触れるターニングポイントでもあった。


「本日よりKen、お前の初任務だ。お前には先輩捜査官の朝倉が同行する。彼の指示に従い、余計な判断はするな」


そう上司に告げられた通り、Kenは朝倉と共に飛行機でXXX帝国へ向かった。


現地は高温多湿で、街には埃っぽい熱気が満ちていた。息苦しい気候、聞き慣れない言語、見知らぬ街。Kenは早くも神経をすり減らしていた。


指定されたホテルにチェックイン後、二人は暗号化された連絡手段を使って、現地に潜入している捜査官と合流する時間と場所を確認した。


その夜。指定された市場の裏手にある倉庫にて、捜査官と接触。


「状況は想定より悪化している。標的は我々の存在を察知しており、移動が速い。明朝にはこの街を離れるつもりだ」


朝倉が即座に判断し、Kenを連れて対象の監視を開始。しかし、Kenの動きはぎこちなく、尾行に失敗。標的に気づかれ、銃撃を受けて窮地に陥った。


「Ken、伏せろッ!」


朝倉の叫びとともに、銃声が何発も鳴り響いた。手榴弾が投げ込まれ、爆発音とともに視界が白く煙る。煙と土埃が渦巻き、視界は完全に塞がれ、耳鳴りがキーンと頭蓋に響き渡る。Kenの身体は反射的に地面に伏したが、恐怖で手足は震えていた。


次の瞬間、朝倉が一気に飛び出す。閃光のような動きで敵の懐に飛び込み、無慈悲に喉を裂く。返り血が熱を持ってKenの頬に降りかかる。


銃声、悲鳴、肉が裂ける音。銃弾が肉を貫き、骨に当たって砕ける音すら聞こえる。Kenの隣で一人の敵がもがきながら倒れ、その目が白目を剥いていく。


朝倉はまるで獣のように動き、逃げようとする男の足を撃ち抜き、転倒したところに容赦なく銃弾を叩き込んだ。血が地面を覆い、臓物が道路に飛び出し、臭気が立ち昇る。


Kenは必死に息を殺し、目を逸らした。だが耳と鼻は、現実を拒むことを許さなかった。


朝倉が無言で立ち上がり、Kenの肩を叩いた。


「……立て。行くぞ」


Kenの手は震えていた。だが、その中にどこか、ほんのわずかに「怖くない」という感覚が芽生えていたことに、彼自身気づいていた。


(あれが……“人を殺す”ということなのか)


まだ銃を握ったこともない、引き金も引いたことのない自分。


だが、目の前で命が消えていく光景は、不思議と心に痛みを与えなかった。


むしろ、冷静な自分がいた。


耳鳴りの中で、静かに感情が凍っていくのを感じた。


(俺は……これから何人、殺すんだろう)


血の匂いに包まれながら、Kenは初めて「自分が境界線を越えた」ことを理解した。


それが「境界線」を越える第一歩だった。



沈黙する夜


作戦終了後、Kenと朝倉は帝国の滞在先へと戻り、暗号化された通信で任務報告を送信した。上層部からはKenの「冷静な行動」に対して高評価が下され、次なる危険な任務への抜擢がほのめかされた。


報告書を記録しながら、Kenはふと手が止まる。


「死んだ人数は3人、武装あり、抵抗中に射殺」


その一文を淡々と入力する自分に気づき、Kenは手を見つめる。震えていない。ただ、どこか冷たい。命が、ただの数字に思えた。


夜、Kenは宿の洗面所で血のついたシャツを洗っていた。赤黒く乾いた血が水に溶け、じわりとシンクを染めていく。その様子を無表情で見つめながら、彼は心の中で問う。


(これは汚れか、それとも証か)


あの夜、初めて自ら銃を撃った。最初の一発は外したが、二発目で敵の急所を撃ち抜いた。撃った直後、心臓は跳ねたが、嗚咽も涙も出なかった。ただ、無言だった。


寝つけない夜。Kenは机に銃を置き、静かに分解を始めた。部品を並べ、綿棒で細部を拭う。その動きは迷いがなく、無心の作業だった。


そこへ朝倉が来て、黙ってその様子を見つめる。


「……何も感じてないのか」


Kenは手を止めずに答える。


「怖くなかった。でも……気持ち悪かった」


言葉は淡々としていたが、その目はすでに何かを失っていた。


任務の翌日、次の作戦が下る。武器庫を兼ねた敵施設への潜入と破壊工作。Kenは今回、囮として動く役目を担うことになった。以前よりも積極的に動くようになったKenに、朝倉は小さく眉を寄せる。


「無理すんなよ」


だが、Kenは黙って装備を確認し、出発の時間を待った。


施設内、敵との接触。Kenは遮蔽物の影から素早く構え、敵に照準を定める。引き金を引いた瞬間、銃声が夜に溶けた。


敵は崩れ落ちる。Kenは立ち尽くし、その様子をじっと見下ろした。


(これで、何人目だ……)


もう、葛藤はなかった。驚きも、震えも。


その後の撤退中、敵の報復攻撃により朝倉が負傷。Kenは彼を背負い、施設を脱出。追撃の中で、Kenはただ淡々と敵を撃ち倒していく。


朝倉が血に濡れた顔で呟いた。


「お前……もう戻れねぇぞ」


Kenは答えなかった。ただ、朝倉がいつも見せていた戦い方を、忠実に再現していた。


冷たく、正確に、人を殺す技術を。

二作目 昔、簡単に書いた短編です。

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