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白単エレゼーコントロール

「エレゼーいいカードだなあ、アグロとミッドレンジ両方見れるし」

「そうだね」


回復効果は、相手や盤面に影響を与えない分地味だけど、強い効果だ。

ディリスが使っているみたいな、バーンというデッキがあって、それらは手札から相手のライフを削り切ることを目的としている。初期のライフが20なので、三点火力なら7枚、二点火力なら10枚消化すれば勝利は確実になる。だからデッキ構築の時点で、通常、そうなるように最適化しているということになる。

だからこそ、回復という行為は光る。

20ピッタリのゴールで最適化されている以上、相手に回復されるとゴールが遠のくので、プランとして破綻するのだ。


赤単のアグロの特徴は、序盤は高速展開と強化で殴りつけ、中盤以降はピースサイズで負けるようになってからは、ピースのすり抜けダメージと、手札火力で押し切りを目指す構成が多い。


盤面を一掃する全体除去、所謂リセットカードを打つなら、自分はなにも展開せずに、相手の展開したピースだけ薙ぎ払った方が、カードカウント的に得だ。コントロールのキーカードは、やはりこのリセットカードで、リソース差を軸に戦うのが基本ということになる。

ただ、アグロ相手にはリセットが間に合わないことが多い。リセットカードによるカウント得を最大化するにはマグロ、つまりなにも展開しない状態にしたいが、アグロ相手にマグロでいるのは危険すぎる。だから通常コントロールというデッキは、アグロに弱いとされる。


その点この白単のコントロールは、ヒールをしてアグロ側のゴールを遠ざけつつ、リセットカードに巻き込まれない置物スペルで場持ちを行うので、アグロにも強いコントロールとして、今中盤戦をのり切ろうとしている。

それにエレゼーだ。

あのカード、場にあるだけで勝手にゲームが有利になっていく性能をしているので、早めに置けたのは大きな加点だろう。

しかし......


「どっちが勝つかな」

「分からない。相手のトップ次第だろうね」

シエルはどこ吹く風だ。もう、他人事なんだから。


盤面もライフもかなり厳しい。エレゼーが生き残らなかった場合、結構火力に押し負けるのもあり得る。

私は必死に祈った。

クレアちゃんが勝つように。


***

(ターン5)

「私のターン、ドロー」

ドローして相手の手札は一枚。

それが火力か、ピースか。ピースなら、全体除去に巻き込めるが、果たして。

「マテリアルをチャージして消費。お互いに2点のダメージ!」

土地効果のライフバーンが飛んできた。


・クレア 11→9

・ディリス 14→12


「そして、1コスト《劫火》を発動!」

「.......っ、来た!」

────────────

劫火 2

インスタdント

あなたが前のターン、カードの効果で赤のカードを除外していたなら、このカードのコストを1下げる。

好きな対象に2点のダメージを与える。あなたは一枚ドローする。

────────────


火炎軸のデッキのキーカード。

火炎系と呼ばれるカードは、カードを火に焚べるように、一枚ずつカードを除外する効果を持つ。そしてそれをキーにして、追加効果やコスト軽減を受けるギミックで、火力系の呪文を連打するのが基本だ。

この劫火とよばれる呪文は、地味ながら攻め手を継続しつつ、攻撃を行う良カード。


「さあ、どこに打つ!?」

「顔面ッ!! もちろん顔面だあッ!!」

クレア9→7


一方でディリスは手札を一枚補充して、現在1枚。

「漂い火の効果発動。墓地の劫火を除外して、+1/+1の強化っ!」

漂い火は2/2へ。盤面には2/2が2体、ブロック不可の1/1が一体。3/2が一体。


「場の全てのピースで攻撃」

そしてセオリー通り、損失覚悟のフルアタックを敢行する。盤面の炎を纏った敵が、一斉に襲い掛かってくる。

「さあ、燃えろ。燃えろ燃えろ燃えろ!! 全部焼きつくすッ!! なにもかも!!!」


「エレゼーで火炎の使い手をブロック」

「攻撃時効果、火炎の使い手でライフに1点のダメージ」

飛び火のようなダメージ。

・クレア 7→6

「それ以外はライフで受ける。.....きゃあ!」

「クレアちゃん!」

激しい攻撃でクレアちゃんは吹き飛んだ。

ライフは5点喰らって残り1。

・クレア 6→1


「はあ、はあ、はあ」

ふらふらとその場に座り込む。ダメージを食らった時の痛みといい、結界のバトルは精神を削り取る。

ただ自身の気力だけで、クレアちゃんは立っていた。


あいての残りコストは1。残り手札も1。最後の一枚が火力なら、クレアちゃんは死ぬ。

「ふふっ、あんた、もう焦げ焦げじゃない。ターンエンド」

あーはっはっと高笑いしながら、その1枚は使われずにターンが終了した。

2コスト以上のカードと見て間違いない。それか攻撃に参加できないピースか。全体除去のことを考えれば、それが妥当な選択肢かもしれない。


「わたしのターン、セット、ドロー」

ダメージを負ったエレゼーがターン開始時に回復する。

ダメージ回復を持つ土地が3枚なので、エレゼーのフレッシュは3点回復して元通りになった。


「三章に到達した、月光野を破壊して、3点回復。3/2飛行天使トークンを生成」

・クレア 1→4

本当は壊したくなかったのか、クレアちゃんは少し迷って《月光野の乙女の物語》を破壊した。

今はほんの少しでもライフを稼いでおかなくてはならない局面、それも仕方ないだろう。


「さらに、月光野の効果で除外した《光の中へ》を3コストでキャスト! ピースの持つ元のフレッシュが3以下のピースを全て除外する」

「なっ!!」

────────────

光の中へ 3

アーツ

着地時:このカードが場に離れるまで、元のフレッシュが3以下のピースを全て除外する。

────────────

ぴかーっと辺りに光が充満し、あらゆる脅威を巻き込んで、一点に収束する。

満を持して全体除去。天使トークンごと相手の盤面を一掃した。

これにより盤面にかかっていたプレッシャーが一気に消える。

「エレゼーの効果で、わたしは一枚ドローしてライフを2点回復」

・クレア 4→6


そのままクレアちゃんは、エレゼーに触れて、少し悩んだが、攻撃しないことにしたようだ。


「エレゼーを立たせてターンエンド、ゴー」

「少々マズい事態になったわね......私のターン、アクティベート、ドロー」

(ターン6)

相手はふむと言って、手札を眺める。

「オレは《火の魔道士ペレット》をキャスト」

────────────

火の魔道士ペレット 2

あなたは追加のコストとして手札を一枚除外する。除外したカードのコスト分相手にダメージを与える。

あなたが赤のカードの効果で、カードを除外した時、そのコスト分好きな対象にダメージを与える。

1/2

────────────


魔法の松明を掲げる、赤いフードの小柄な女の子が盤面に登場した。

効果でダメージを与えた時に、そのカードのコスト分のダメージを追撃する永続能力を持つ1/2のピース。

「コストとして除外するのは、この《煌炎のフェニックス》」

炎を纏う、赤の不死鳥のカード。

それが、キラリと光る。


────────────

煌炎のフェニックス 3

ピース 幻想獣・不死鳥

幻想獣:このカードは呪文としてもピースとしても唱えることが出来る。

このカードが赤のカードで除外された時、あなたがこのゲームで4枚以上カードを除外していたなら、このピースを場に出す。

ーーーー

(スペル:爆ぜる翼)1コスト

あなたは手札を1枚捨てる。

相手のピースを対象にし、3点分振り分ける。振り分けた分のダメージを与える。

ーーーー

飛行

着地時:あなたは1枚手札を捨てる。

このピースのパワーは、あなたが除外したカードの枚数と同じである。

X/3

────────────


「フェニックスを捨てて3ダメージ。そして、フェニックスは舞い戻る!!」

・クレア

6→3


飛行5/3のフェニックスが場に舞い降りた。

火に包まれて、煌々と燃え上がっている。

アグロのくせに、全然息切れしない。

「さらに、祭祀場の効果を発動!! お互いに2点ダメージ」

「っ!!」

・クレア

3→1

・ディリス

12→10

「いい加減ッ、倒れろォおおおお!!!」

ディリスは絶叫する。

なんど傷つけても、心臓に刃が届かない攻めを繰り返している。

クレアちゃん自身、首の皮一枚繋がったが、それでも精神的な摩耗が激しい。

「クレアちゃん........」

私は心配で声を上げる。

「でも......!!」

クレアちゃんは強い。

「ここからは、コントロールの時間だ」

心はまだ、負けていない。折れてないんだ、全く。

「私は負けられないんだ」

デッキからカードを引く。

「私のターン、アクティベート、ドロー」

ドローしたカードは、お父さんのキーカード、《晴嵐の天使》!!

「エレゼー、攻撃、飛行4点」

「ぐあ!!」

「エレゼーを盤面に残したこと後悔させてやる」

ディリス10→6

「私はブーストして4コスト、《晴嵐の天使》をキャスト!!」


虹と共に後光の差した天使が盤面に着地する。


────────────

晴嵐の天使 4

ピース:天使 

飛行

着地時:これ以外のあなたがコントロールしている場のカードを、望む数選んで除外する。あなたのエンドフェイズ時にそれを好きな順で全てあなたの場に戻す。

攻撃時:飛行を持つ攻撃状態の2/2の天使トークンを1体場に出す。

4/5

──────────── 


「晴嵐の天使の着地時効果にボーナスして、わたしはカードを1枚ドローして2点回復」

・クレア

1→3

「また回復!? 何度も何度も何度も何度も!!!!」

「晴嵐の天使の着地時効果。わたしは《真夏の幻影、エレゼー》《幻日環の祈り》《光の中へ》《約束の花畑》を除外」

クレアちゃんは今まで置いてきた置物スペルを全て除外していく。

光の中へが場を離れたので、光の中へで除外していた《屋敷の漂い火》、《炎の使い手》《火を纏う猛獣》もまた、相手の盤面に再び戻る。


そして、

「エンドフェイズ」

彼女は宣言した。

「エンドフェイズ時、除外した全てのカードを場に戻す」

虚空へと消えていたクレアちゃんのカードが今再び場に戻る。


「《真夏の幻影、エレゼー》の着地時効果で4点回復。さらに光の中へで全体除去。幻日環の祈りの効果で3点回復。約束の花畑で2点回復」

「そ、そんな、馬鹿な!!!!」

再び光の中への効果が使いまわされて、盤面を一掃した。

フェニックスも、魔道士も巻き込んで、相手の盤面は空になる。わたしの盤面は効果対象外のエレゼー、晴嵐の天使の2体。

「エレゼーの効果で、着地時効果にボーナス。3ドロー、6点回復」

「3.......6!?」

「わたしのライフはこのターン17点回復して、18へ」

・クレア

1→3→7→9→12→14→16→18

「すごい!!」

「逃げ切った!!」

私とシエルは思わず顔を見合わせる。

すごい、あんなにピンチだったのに、もうライフは安全圏へと移行して、そうそう危機には晒されない状態へと変化した。

まさしく、鉄壁。

ずっと綱渡りの戦いだったけど、なんど打たれても倒れなかった。

受ける技術が卓越している。

本当はダメージを受けるのって、怖いはずなんだ。痛いし、苦しい。だから攻める。自分が壊れる前に、相手を壊した方が早いから。恐怖心に駆り立てられて、攻めて勝ちに行こうとする。

でも、クレアちゃんはそうじゃない。

ライフが減る恐怖と真っ直ぐに立ち向かって、そして跳ね返す。だからこその強さだった。

コントロール。完全に局面を支配しきった。


クレアちゃんのライフ18に対して、相手の手札は0。そして盤面は空、使えるコストは2のみ。

「ああ、あ、ああああ!!!!!」

「ターンエンド!!」

「お、おわっ、そんな、私のいままでの努力が。何枚、カードを使った!!?? もう、なにも取り戻せないの!?」

相手の手札はもうすっからかんだ。これから18点は、もう絶対に削り切れない。

一方クレアちゃんの盤面には4/5飛行のピースが2体、10打点。

「なんだよっ!! なんなんだよお前!!」

それでも彼女は手を伸ばす。

アグロというアーキタイプは、途中で諦めることをしてはならないからだ。粘り強くダメージを重ねる以外にない。

「......ターンエンド」

ここでブン回ってたアグロも息が切れて、何も唱えなかった。


「わたしのターン、ドロー」

クレアちゃんの勝ちだ。

「お父さんのソウルカードを返してもらう」

クレアちゃんは思いを込めてカードをタップした。

「エレゼーと晴嵐で攻撃。攻撃時に2/2飛行天使を出して、10点」

「.........ライフで受ける」

・ディリス

6→-4

「ぐわああああああああ!!!!!」

叫び声と共に天使に屠られて、ディリスはふっとんだ。


長く辛い戦いだった。

クレアちゃんはゲームに勝利した。


***


辺りを白い光が覆うと、三人は結界を抜けて現世に舞い戻る。

「うわああああっ!!」

吹き飛ぶディリス。


「確保っ!」

すかさず私は拘束魔術で敵の手足を縛り上げた。青い光がディリスの手足を縛る。

「いやっ!! いやっ!! 離して!! 離せよっ、このガキっ!!」

「うるさい、結界の盟約に従え」

結界での勝負は絶対。

敗者は勝者に逆らってはならないのだ。

「クレアちゃん!」

「うん!!」

クレアちゃんはそのまま勝負の理に従って、ディリスからお父さんのソウルカードを奪い取る。

彼女の父のソウルカードが、光って手元に収まった。

「取り戻せたんだ........よかった、よかった!」

クレアは無事にお父さんのカードを取り返すことができた。

その光景を見て、私は少しだけ泣いた。

『なんで君が泣くのさ』

『いいでしょ別に』


***


勝ったら全て終了。というわけにはいかない。

なにせソウルカードを奪うような人物だから、その場に野放しにすることはできないだろう。

わたしはアリシアちゃんがディリスを魔術で拘束するのを呆気ににとられながら見ていた。

そして声をかけられて、現実に戻る。

「......アリシアちゃんはすごいね」

「なにが?」

「いろんな魔術が使えて。そんな人、なかなかいないよ」

「そうかな」

「そうだよ」

これを言うと、アリシアちゃんは必ず浮かない顔をする。なんでなの? アリシアちゃんの手柄じゃん。ディリスを捕まえたのは、アリシアちゃんのおかげだ。

父が助かったのも、アリシアちゃんが魔術を扱えたからだ。

それなのに、彼女はバツの悪い顔をする。


「クレアちゃん」

「どうしたの?」

世の中大抵のことには後処理が必要だ。もちろん、ディリスも。

私達二人はディリスを逮捕するために、魔術師ギルドに連絡を入れようとしていた。

ただこの時のわたしは、勝負の熱に浮かされていて、それがなにを意味するのか、分かっていなかった。思えば、アリシアちゃんは、ずっとなにかに警戒していたはずなのに、そのことをすっぱり覚えていなかったのだ。

「本当に、魔術師ギルドに行くの?」

「そうだよ。だって、野ざらしにしておくわけにはいかないでしょ? 拘束が取れたら、駄目だもんね」

だってこいつは犯罪者だ。

世間を賑わせていた、魔術師を襲う魔術師。

そうである以上、こいつは野放しに出来ない。それに、捕まえたらお手柄だ。私達も、すこしはいい目を見られるかもしれない。


ただ、すこし疑問に思う。お父さんはこいつに負けたんだろうか? 本当に? にわかには信じられないけれど、ソウルカードを持っている以上、そう判断するしかないわけで。

後ろを歩くアリシアちゃんの足音が、不意に途切れた。

わたしは振り返る。

「そっか......」

震える声でアリシアちゃんは言う。

その時になって、ようやくわたしはアリシアちゃんの異変に気がついた。青ざめて、震える視線でこちらを見ている。


夕日がしずんで、二人の影が伸びる。

「あのね」

アリシアちゃんの声も、表情も、浮かばない。

なにかに悩んでいる。苦しんでいる。そんな様子で。

「私、魔術師ギルドにはいけない」

「アリシアちゃん?」

「クレアちゃんも、もうこれ以上私に関わらないほうがいいと思う」

突然そんなことをいわれて、わたしは戸惑った。

魔術師ギルドと関われない? それじゃあ、まるで.....


聞きたくなかった言葉。

それが彼女の唇を伝う。



「私は、犯罪者だから」



「嘘........」

殆ど無意識のうちにそう呟いた。

「アリシアちゃん、本当に?」

「ごめんね」

アリシアちゃんはぽろぽろと涙が溢れる。

わたしは困惑した。

アリシアちゃんが犯罪者? なんで。

確かに彼女は、なにかから逃げてるという感じはあった。でも、本当に?

わたしは.....わたしは、どうすればいい?

可能性はあった。ずっと、そうなんじゃないかって、思っていた。

彼女の傷を見た時、そのことを考えた。

もしこの傷をつけた存在が、「正義」の側だった時、わたしはどうするべきか。


この子は、わたしのスープを泣いて食べていた、か弱い少女だった。助けなきゃって、思った。彼女を見捨てたら、人じゃないと思ったんだ。

「わたしは、」

それでも、

わたしはアリシアちゃんの味方だ。


そう言おうとして声が詰まる。

父が居て、この秋から学園生活が始まる。全てを投げ打って、アリシアちゃんの味方なんて、本当に出来るの?

もし彼女が、彼女の言うように、罰に値するような犯罪者だとして、わたしはそれに味方するの?

そうして、なにもかも敵にしてしまっても?

それだけの覚悟がわたしにあるのか?


心の声に抗えない。喉の奥で、ずっとなにかが支えている。言ってしまえば、間違いなく壊れる。今までの生活の全部が壊れる。

戸惑うわたしを、アリシアちゃんはぎゅっと抱きしめた。

不意な感触に、わたしは驚いた。

「今まで本当にありがとう。クレアちゃんは命の恩人。ごめんね、勝手で」

「どこにも行かないで。わたし達、友達でしょ? なんとかなるよ。どうにかすれば、二人一緒に......」

「ごめんね」


ぱっとアリシアちゃんがわたしを離して、手をぎゅっと握った。手の中に固くて冷たい感触があった。お金だ。昨日、受け取らなかった金貨。それが人肌ほどに温かくなっている。

「.......受け取れないよ」

「受け取って。お願い」

アリシアちゃんは無理やり金貨を手渡して、一歩二歩と後ろに下がる。

「じゃあね、クレアちゃん。大好きだよ」


そう言うやいなや、アリシアちゃんは、踵を返してわたしの元から立ち去った。


わたしは呆然とその後ろ姿を見つめる。

.......上手く引き止められなかった。

わたしは馬鹿だ。今行けば、間に合うかもしれないのに。引き止められるかもしれないのに。そう思うだけで、一歩も前に進めない。

どうしよう。どうすればいい?

分かんないよ!!

どこで間違えたんだろう。

なんで、行っちゃうの? なんで引き止められなかった? どうして、どうして、どうして!?

「...........うぅ」

涙が滲んだ。

わたしは悔しくてたまらなかった。


アリシアを失ったわたしは、ディリスを魔術師ギルドに逮捕してもらって、家に戻った。父にソウルカードをかざすと、彼はその時目を覚ました。

これで良かったんだ。

たぶん。なにもかも。

そう思わなきゃ、やってられないよ。


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