いつもの下校風景
キーンコーンカーンコーン
今日も終業の鐘が鳴る。無気力高校生はさっさと身支度をして家に帰るに限る。咲のやつは将来有望な陸上部だから帰りが一緒になることは少ない。そして―――
「よし、恩納はいないな」
アイツも俺と一緒で帰宅部だ。というか俺が帰宅部でさっさと帰るから恩納もそうしているんだと思う。俺が野球部にでも入ろうものならあいつはマネージャーになろうとしてたんじゃないか。それはともかくクラスは別なのでわざわざ待ったりしない。待ち合わせたりもしてないしさっさと帰る。
「あっ……、さようなら漣くん!」
「おう、じゃあな青崎」
さっさと教室を出ようとした瞬間、俺の背中に挨拶を投げかけてきたのはクラスメイトの青崎さちだ。クラスで一番ちっこくて一番好奇心旺盛なやつ。クラスメイトから見た俺はどうにも厄ネタを抱えた関わりづらい奴であり、遠巻きにされている中でこうして挨拶をしてくれるだけでありがたい。のだが……なんか妙に間があったな?
「なんだよ青崎。俺の背中に虫でもついてたか?」
「い、いやいやいや!無視なんてとんでもない!」
「は?」
何言ってんだ?怪訝な顔になりながら後ろを振り向くと恩納がいた。教室のドアの真横、教室内からだと見づらい場所でスタンバイしていたようだ。
「うぉ!いつの間に!?」
「うふふ、だって照れ屋な漣君は私がいるのが分かると避けようとするでしょう?」
だから今日は死角に入ってみたじゃないんだよ。そういうところだぞ恩納。そのせいで俺までクラスから浮く羽目になってるんだが。
「あの~結さんと漣くんって別に付き合ってるわけじゃないんだよね~?」
青崎がおずおずと尋ねてくる。
「ぜんぜん違う。そんな関係じゃない」
「そうね。もっと深い間柄よ」
「被せるなよ。上からデマで書き換えるのをやめろ!」
ほら、青崎が真っ赤になって困ってるじゃないか!彼女の頭の中でどんな誤解が発生しているのか考えるのも恐ろしい。
「ごごごめんね二人とも。私なんかが邪魔しちゃって!」
「気にしなくていいわ」
御機嫌よう。恩納はそう言うが早いが俺が何かを言う前に力強く手首を引っ張って歩き始めた。
「お、おい!」
「何よ、別に必ずしも誤解っていうわけじゃないでしょう?今日は帰りの遅いおばさんに代わって私が夕飯作ることになってるんだし」
いや、そのなってるは聞いてない。母さんは俺に飯代を渡してくれている。ていうか恩納に母さんが留守だという話をした記憶もないんだが……胡乱な目で振り向くが肝心の恩納はどうしたのかしら私なにか変なこと言ったかしらといった表情でさも当然の発言をしただけだと言いたげだ。はぁ。
「なあ、恩納。どうしてお前はそこまでするんだ?」
「どうして?いつも言っているじゃない。漣君がいなければ私の命は無かったんだから。私の全ては貴方のものと言っても過言じゃないの。これは単なる恩返しよ」
違う。俺が言いたいのはそういうことじゃない。これは「単なる」じゃなくて過剰な恩返しだろ。
「恩返しだとしても普通はこんなことしないっていう話をしたいんだ」
「価値観の相違ね。私の気持ちが漣君に伝わって無くて残念だわ」
にべもなくそう答えた。当然のことのように。考慮することもなく。
「私としては常に漣君の三歩後ろを歩いていたいほどよ」
許嫁の距離感だろそれは。そして現代にそんなラブコメめいたシステムは存在しない。
「ていうかいい加減手ぇ離せよ。どうしたんだよ」
なんか微妙に不機嫌なのか?コイツの感情って読めないんだよな。感情っていうか考えがわからん。
「別になんでもないわよ」
さいですか。これ以上言い争いをして学校中に痴態を晒したくもない。靴に履き替えさっさと外に出る。校庭には準備運動をしている咲の姿が見えた。
「じゃあ帰るぞ」
未だに昇降口にいる恩納に声を掛けるとなぜか不思議そうな顔をされた。
「なんだよ。そのためにスタンバってたんだろ。早く靴履いて帰ろうぜ」
クスリ、と何がおかしかったのか笑みをもらす。相変わらず何考えているかわからないやつ。恩納が笑うのは結構珍しい。人をバカにしたり冗談を言ったりする時のわざとらしく口角を上げるやつじゃなくて自然体の微笑みは俺でも滅多に見れない。クラスだともっと静かにしているらしいしな。
「ところで今日マジで家に来るわけじゃないよな?っておわぇいってぇ!」
横というには若干後ろに恩納が追いついてきたところで質問したら踵でつま先を踏んづけられた。本当に意味がわからん。
「覚悟してなさい」
だから何をだよ。




