02-01 「もし私が受けないと申しましたら・・。」
結は笑顔をサブリナに向け、マントをひるがえし、
開け放たれた扉の中に入っていった。
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結は通された間のあまりの荘厳さにど肝をぬかれていた。
目の前にしかれた玉座まで続く赤い絨毯には
輝く金の糸で大胆に刺繍が施されている。
周りの窓はステンドグラスになっており、窓の枠には細かい彫刻が刻まれている。
まだ誰も座っていない玉座は明らかに純金と純銀で作られているのがよく分かる。
(うわー。すごっ。めっちゃ海外旅行した気分♪
中世ヨーロッパっぽい・・・・。)
思わず口を開けてぽかーんと上を見上げた。
「見事な天井画・・・。」
すると、前方から人が近寄ってきた。
「そろそろ陛下がいらっしゃいます。」
しゃがれ声の白髪の老人が目を三角にして近寄ってくる。
(そんな怒んなくたっていいじゃん。)
結はせっかく美術鑑賞していた所を邪魔されムッとする。
バチッ ( ・)--*--(ー)バチバチッ
数秒間、結とその白髪の老人の間に火花が散る。
その時、結から見て、玉座の右側にあった扉が開いた。
すると、白髪の老人は結にがんつけて、開いた扉の隣に戻っていった。
(うわっ。がんつけたよ!あのじーちゃん。
でもよく考えれば、陛下ってことは・・・。
王様もしくはそれにふさわしい人物が来るって事じゃん!!
あのじーちゃんががんつけられるのもわからなくないか・・・。
だって私はどこの馬の骨かわかんないもんな。
それに郷においては郷に従えってあるしね。)
結はさっと片膝をついて頭をたれた。
布のすれる音がその宮殿内に響く。
「その方。顔をあげよ。」
結は素直に言われた通りに顔をあげた。
そこにはなんと・・・
「ぎぇ」
結はなんとか精神力で小さな悲鳴におさえる。
焦げ茶髪でちょび髭を生やした中年太り男が
結に翠玉の瞳を向けニコリと微笑んだ。
(あのヒゲジョリジョリ攻撃をした男じゃないの。
なんだか王座にすわっているし・・・。
しかも私にピンクドレス選んだし・・。
王様だったのか?信じられん・・・。)
結の頬の筋肉がヒクヒクと痙攣している。
「お主、馬車を助けたな。」
結は自分の世界から、こちらに意識を戻す。
あの中年太り男が真っ直ぐ結を見つめ言った。
(ここはこの男のモノ。
この世界でしばらくの間暮らすことになるだろうから。
今、ここで騒ぎ立てることは得策ではないな。)
結は目を一瞬つぶる。
そして、
この世界では珍しい漆黒の瞳を王に向けた。
「はい。」
結は凛とした少年の声色で答えた。
「あれで、余の命は助かった。礼を言う。」
「助太刀できたこと、とても、うれしく思っています。」
結は頭を優雅に下げた。
(王があんなあからさまにねらわれるここって?
そうとう治安がわるいか?
王様が悪政を行っているか?
何でだろう?)
「それにお主名は?」
思った以上に近い声に
結はハッとして思考の世界から意識を戻し、顔をあげた。
(Σ(゜◇゜;) ゲッ近い!!)
さすがに目と鼻の先ほど近くに来た王に結は引きつる。
よほど、ヒゲジョリジョリ攻撃が応えたのだろう。
王は答えない結に首をかしげる。
すぐに電球が頭の上に光ったらしい王は周りに向かっていった。
「侍従長。全員を退出させるのじゃ。もちろん侍従長も。」
侍従長と呼ばれたあの白髪の老人は顔を曇らせる。
「が、しかし・・・。」
「退出じゃ。」
「・・かしこまりました。」
まだ、疑いの目を結にむけつつ、他の警備の者と共に退出した。
バタン
扉が閉まった。
王が玉座に戻った。
(ふう。よかった。
気色悪さが消えていく~。)
結がむねをなでおろす。
「さて、これで安心して話せるだろう。
お主名は?」
王が結に問う。
(名前か・・。そうね~。
Teddy Bear大統領から拝借して。)
結は微笑を浮かべると口を開いた。
「ジョシュア・ロ-ズヴェルト(Roosevelt)と申します。」
「余はこのサイリニア王国の王ウィルソン・アーサーじゃ。
馬車の時は本当に助かった。
なぜ、ジョシュア殿は光の中から現れたのじゃ?」
(この私が光の中か現れたとぉ!!!!
やっぱりっ。あの腹黒タヌキめ。謀りおって!!
こんな訳わかんないところ[←風景・建物・文化・人種が
明らかに欧米なのに言葉が通じる。]に連れてきやがって。)
あの憎きタヌキ殿に心の中で拳を握り締めつつ、結は口を開いた。
「私もさっぱり分かりませんが、
私がここの世界でないことは事実であります。
現に私はサイリニア王国と言う名の国は知りません。
私はニッポンという国に住んでいましたし。」
王の顔が真剣になり、その翠玉の瞳が全てを見透かすかように結を見つめた。
結も王を見つめ返した。
どのくらいお互いの目を見つめ合っただろうか。
これは恋人が視線を絡ませるようなものではなく、
剣士がする相手の意を読もうとするものであった。
先に折れたのは国王であった。
ウィルソン国王が口を開く。
「確かに、ジョジュア殿。
余はニッポンという国の名を聞いたことはない。
おぬしの瞳と髪は漆黒だ。
こちらの国では滅多にいないのだ。
それにおぬしは現にあの光の中から現れた。
帰れるまで、この王宮にいるがよい。」
「ほんとですか!!
ありがとうございます。」
(こちらの金もなかったから、
実際どうしようか困ってたんだよね~。
なかなかイイ人ジャン!国王!)
「その代わりとして、
ちょっと頼まれごとをしてほしいのじゃ・・・。」
(う。なんかやな予感・・。
タダほど高いモノはないと言うのはこのことか。)
「これは国家の秘密に関わる事なのだが・・。」
王が頭を抱えながら口を開いた。
結はそれを遮る。
「そんな重要なこととこのわけの分からない私の居場所を取引するのですか?
私はこの国の者ではないです。
それに、家族などの何のしがらみもない私はどちら側にも寝返れる。
金額のつり上げようには敵や外に情報を洩らす可能性だってあります。」
結がさらりと冷たく言い放つ。
「ジョシュア殿でなければ話すまい。
余の目はあの馬車を助けたお主を見間違うはずがない。」
結は目を大きく見開き、王を見つめ返した。
「もし私が受けないと申しましたら、王様はどうなさいますか?」
結は微笑を浮かべつつ口を開く。
それに応えるように王も微笑し言った。
「そうだな。
ジョシュア殿には・・・・」
王様の登場です。
このむかつく侍従長も忘れないでください。
まだまだ、主要人物が眠っています。