03-06 「なっ何?」
急にゴゴゴゴという歯車がまわる音がしたと思うと、
本棚がギギギィと動き出した。
「なっ何?」
結は本棚から落ちるものかと、手に力を入れる。
聞こえる歯車の音は重い扉を何人かで動かすような音がするにも拘らず、
実際、自動ドアと同じくらい速くまわるそれに呆気に取られた。
止まるときも、ガコッと止まる。
それがあまりにも急でいきなり型にはまったかのように止まったので、
しがみついている事ができなくて、慣性の法則にしたがって落ちた。
「ぶっっっ」思わず、乙女らしからぬ音が口から出てしりもちをつく。
とっさに受身をとったが、
大理石のようなもので作られているだろう床はそれもむなしくかなり痛い。
「痛てててて・・・。」
結はお尻を片手でなぜつつ、少し涙目になった目をキリリとあげ本棚を睨む。
「なんなのさ!!急に本棚のくせに。急に回りやがって・・・!!」
恨む相手もいないため、本棚に腹いせをしてみた。
その時だった。
ものすごい殺気が結の背後から襲う。
シュッシュッシュッ!!
結はとっさに避ける。
結の首、顔、腕が先ほどまであったところを
短刀が通過して、後ろの本棚に刺さった。
「危ねぇっ。あったたらどうすんだよ!!
そういうものは人に向けちゃいけないって教わんなかった?」
ムカついた私はビッシッと人差し指を短刀が飛んできた方に向けた。
そこには王子様がいました。
サラサラヘアーの金髪に陶磁器のように白い肌、翠玉の瞳。
修飾語は王子様以外ないって感じの美形。
それが足を組んでヨーロッパ風の高級ソファに腰を掛け、
上品な香りのするカップを口元へと運んでいる。
私も乙女(???)の端くれ。
惚れはしないけど、目の保養にはなるかもと思っている。
少女マンガやディ○ニープリンセスに出てきそうな顔を思わずジロジロ見てしまう。
すると、王子様は私に絶対0度並みで睨んできた。
よく考えれば、コイツに殺されかけたこと思い出して、睨み返してやった。
負けてやるか!
しばらく、睨みあっていたけど、先に顔を背けたのは王子様。
私は勝った!!と余裕の笑みを浮かべた。
その時だった。
私の耳に聞き捨てならないセリフが聞こえたのは。
「アホ。」
王子様の口から軽蔑の音にのせてそう紡ぎだされた。
・・・・ピキッ。
コイツムカつく。
「ああああアホぉですとぉ????!!
人の顔を見て早々、失礼なっ!それに急に刀投げつけるな!!
死んだらどうしてくれるんだ!!
それが人に対する礼儀かぁ?
まず、名乗れっつーの。」
ハアハアハアハア
頭に血が上り、思わずまくし立ててしまった。
するとと~っても失礼な、顔だけ王子様はなぜか目を大きく見開き、私を見た。
暗い光を放ったその瞳が澄み翠玉の宝石が一瞬だけ輝いた。
その輝きに私は魅入ってしまった。
その瞳が一回伏せられ、もう一度私をみる。
「Willだ。アホ。」
今度は瞳が意地悪く光った。
ちきしょ・・・・。
一瞬だったけど魅入ってしまった私死んでろ。
あれは王子様の皮をかぶったキツネに違いない。
ムカつくので思いっきり睨みながら不機嫌そうに答えることにした。
「Joshua。
ちゃんと名前で呼べ!!!アホアホいうな・・。それにアホとはなんだ。アホとは?!」
すると、ウィルは目の前のアンティーク風なテーブルの上に置かれている本の中から
分厚い一冊を取り出し開き、読み上げた。
「『アホ』世界三大珍獣の1つ。
「珍獣かよ!!」
・・・生息地は熱帯の川や湖。体長(頭胴長)約3.5- 4 m、体重約1.2- 2.6 t。
頭部は非常に大きく、顔の側面上方に眼・鼻孔・外耳が一直線に並んで突き出しているのが特徴であり、
水中からこれらだけを出して周囲の様子をうかがっている様子がしばしば見られる。
鼻孔は自由に開閉することができ、水中での水の流入を防ぐことができる。
顎の筋肉が非常に発達しており、関節の構造と相まって、口を150度まで開くことができる。この巨大な口には、長く先のとがった門歯と犬歯が生えている。
中でも下顎の犬歯は長さ40- 50cmほどにも達し、自らの口腔を貫いてしまう場合さえある。
しっぽは逆三角形をしていて、蹄の数は4つ。
胃は3つに分かれていいるが、反芻はしない。
草食性で水生植物、木の草、草ゴケなどを食料とする。
つぶらな黒い瞳と茶色~こげ茶色の体色をしている。
一見とてもおとなしく、おっとりしており、無害に見えるが、自分のテレトリーを荒されると凶暴化し、
動物だけでなく、人間にも襲いかかる。
夜は餌を探すため、地上にあがってくることもある。
最高30Km/時及ぶ速度で走ることができる。
またその・・・。」
「そんなに私はドンくさそうにみえて、獰猛か?!」
もう一度私は近づいていってウィルから今読み上げられているその本を分捕った。
「ちなみにいうとそれがアホだ。」
広げられている所ををちらりと見ると、それはカバでした。
「・・・かばじゃな~~~~~~~~い。人間だああ!!」
思いっきり、耳元で叫んでやった。
すると、ヤツはハエを払うような仕草をする。
「・・・うるさい。出て行け。」
そう言うと、手元にあった読みかけの本で顔を隠した。
あら、いい度胸じゃない・・・。
私はその本を叩き落とすと、ウィルの顔を両手で挟んで自分の方に向かせた。
「話している途中です。ちゃんと目を見てください。
わかりましたよ。出て行きます。
フフフフフそうですよねぇ。お邪魔しましたぁ!!
すぐに消えます。ここにいる必要もないですもん。
ああ疲れたぁ・・。それではさようなら。」
私は例の引き抜いた本を拾って、本棚をのぼると元の位置に戻した。
後ろなんて絶対、振り向いてやんない。
思った通り、本棚は回転し180度の所で止まった。
結はそこからハラリと飛び降り、トンと着地をした。
「成功っと。それよりなんなのさ?ウィルめ。人のこと馬鹿にしやがって・・・・。」
結はイライラで騒がしい心を紛らわせるために近くの窓に近づき開け放ってしまった。
窓の外はどこまでも広く、静かで、私の心を落ち着けてくれる。
「すみません。」と声がした。
振り返ると緋色の髪に濃いダークグリーンの目の図書館の司書をしていた少年がいた。
(ゲッ。見られてた?)
思わず身を引く。
少年は一瞬不思議そうな顔をしたが、表情を戻すとすぐに口を開いた。
「シリンダ様から、お部屋の方に戻られるように伝えるようにと頼まれました。」
少年は結に背を向けると迷うことなく、この迷路のような図書館の通路を的確に選んでいる。
何か言われるんじゃないかと、かまえていた私はあまりの素っ気なさに拍子抜けしてしまった。
******
「着きました。では、僕はこれで・・。」
と図書館の入り口まで来ると少年はサッサと頭を下げて去っていく。
「あっありがとう・・。」
と結がお礼を言ったのと扉が閉まる音は同時だった。
どーも。森実です。
書けました。
やっと主要キャラに会えました!
あ~よかった。
次はWill視点から書く予定です。
感想やコメントお待ちしています。
↑↑これによってやる気になります。(o^∇^o)ノ。