終幕:告白
「……なあ、エリシア」
「え?」
地下牢から出て、私とジェームズ二人だけになった途端、ジェームズがいつになく真剣な表情で、私の名を呼んだ。
ジェームズ?
「その……、さっきは本当にゴメン。あんな噓をついちまって」
「ああ」
ニャッポから聞いたニーナの情報を、改竄して私に伝えたことを謝っているのね。
「ふふ、私は気にしていないから、あなたもどうか気にしないでジェームズ。あなたは私と――マーガレットのためを思って、ああ言ったのだもの。それを咎める気は、私にはないわ」
ただ、いくら私のためとはいえ、自分の手を血に染めるような真似をしたマーガレットの行為だけは、とても今すぐには飲み込めそうもなかった……。
……本当に、バカなんだから。
「そ、そっか、それならよかった。……あー、と、ところで、こんな時にこんなことを言うのは、卑怯だってことは百も承知なんだけどよ」
「?」
急にジェームズがしどろもどろになった。
「どうしたのジェームズ? あなたらしくないわね。何事もハッキリものを言うのが、あなたのいいところでしょ」
「うん、そうだな。――よし、俺も覚悟決まったよ」
「……!」
頬を染めながら凛とした表情で背筋を伸ばしたジェームズに、私も緊張が走る。
え? え? え?
な、何、この空気……。
「お前に頼みがあるんだ、エリシア」
「頼み?」
とは?
「結局お前の【女神の懺悔室】は、使わずじまいだったろ? だから今から俺に、【女神の懺悔室】を使ってほしいんだ」
「……はぁ、それは別にいいけど。何を訊いてほしいの?」
普通【女神の懺悔室】は、隠しておきたいことを無理矢理訊き出すためのもので、自分から使ってほしいなんて言われたのは初めてよ。
「……うん、『俺の好きな人は、今、目の前にいる人か?』って、訊いてほしい」
「――!!」
震える声でそう言ったジェームズの顔は、耳まで真っ赤になっていた。
ハァ!? ハァ!? ハァァッ!?!?
そ、それって……。
「……なぁ、頼むよ、エリシア」
「……!」
潤んだ瞳で懇願するジェームズは、雨に濡れた大型犬を彷彿とさせて、私の心臓がトクンと大きく跳ねた――。
嗚呼、私は本当に鈍感ね。
今の今まで、ジェームズの気持ちに気付かなかったなんて……。
「――ええ、わかったわ。では、あなたに訊くわね」
「ああ」
私は右の手のひらをジェームズに向け、【女神の懺悔室】を発動させるフリをした。
「――あなたの好きな人は、今、目の前にいる人?」
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