第六幕:真相
「き、君たちは」
「エ、エリシア……!?」
私たちがマーガレットが幽閉されている地下牢に着くと、ちょうど警察にマーガレットが連行されそうになっているところだった。
当然この場には、学園長であるサリバン先生も立ち会っている。
ふう、ギリチョンセーフだったわね。
「サリバン先生、少しだけお時間をいただけませんか? ――この事件の真相がわかったのです」
「――! ……そうですか」
サリバン先生は先ほどと同じく、憂いを帯びた表情で、目を伏せた。
今なら何故先生がそんな顔をなさっているのか、私にはよくわかります――。
「申し訳ありませんが、彼女に少しだけ時間をいただけますか」
サリバン先生からの申し出に、警察の方々は「まあ、少しだけなら」と了承してくれた。
ありがとうございます、サリバン先生。
「ほ、本当に犯人が誰かわかったの、エリシア?」
マーガレットが期待と不安が入り交じったような表情で、私に問い掛ける。
……マーガレット。
「……ええ。犯人は――あなたよ、マーガレット」
「「「――!!」」」
私は右手の人差し指を、マーガレットに向けた。
「そ、そんな……。冗談はやめてよ。あなたが言ったんじゃない! 私は犯人じゃないって!」
「ええ、でも、これは私にそう思わせるように、あなたが仕組んだ罠だったのよ。私もまんまと引っ掛かったわ」
「……」
マーガレットの顔から途端に色が消え、表情が読めなくなった。
「思えばさっき私に【女神の懺悔室】を使うよう要求したのも、ああしたほうが逆に使われなくなると踏んだからだったのね? 何せ、【女神の懺悔室】を使われたら、あの時点であなたが犯人だとわかってしまうもの。とはいえ、あなたは最初から警察に捕まるつもりではいた。あなたの目的は、私に動機を悟らせないことだった。私があなたを犯人だと確信する前に警察に捕まってしまえば、二度と私が動機に気付くことはないはずだから……。そうでしょ、マーガレット?」
「……そう言うってことは、もう動機はわかったってこと?」
マーガレットの顔は、憑き物が落ちたかのように、どこか晴れやかだった。
「……ええ、あなたは、私を裏切った殿下が、どうしても許せなかったのね?」
「……その通りよ」
「そしてあなたが許せなかった人物がもう一人いる。それは――殿下の真実の愛の相手である、ニーナ、あなたよ」
「「「――!!!」」」
ずっと無言で成り行きを見守っていたニーナに視線を向けると、ニーナはまるで爬虫類みたいな無機質な瞳で私を見つめていた。
思わず私の背中を悪寒が走る。
……ニーナ。
「殿下の真実の愛の相手は、マーガレットじゃなく、あなただったんだわ」
「……どこで気付いたの?」
そう訊くニーナの瞳は、依然爬虫類のままだ。
「最初に違和感を抱いたのは、殿下の部屋で兎のぬいぐるみのプレゼントを見付けた時ね。マーガレット宛のプレゼントにしては、随分可愛らしすぎると思ったのよ」
「……なるほどね。確かにあれは、マーガレットっぽくはないわね。……まったく、プレゼントなんていらないって、再三言ってたのに」
ニーナは自嘲気味に、クククと笑った。
「それでさっき逆立ちして考えた時に、思い出したの。【名探偵の報告書】で出たニーナの好きなものの欄に、『小動物』っていうのがあったことに。そういえばあなたは、兎やハムスターが大好きだものね」
「……」
「そこで閃いたの。もしかしてあのプレゼントは、ニーナ宛だったんじゃないかって。そう考えたら、全てが一つに繋がったわ。ニャッポを古井戸に落としたのも、あなたよね、ニーナ?」
「……ええ、ニャッポは私が殿下の愛人だって知ってたから、ジェームズに【心の対話】を使われる前に、隠しておく必要があったのよ」
「さっき三手に分かれた後、あなたは女子寮には行かず、コッソリ殿下の部屋に行き、殿下から渡されていた合鍵で中に入り、ニャッポを連れ出し井戸に落とした。そして何食わぬ顔で私たちと合流し、女子生徒から聞いたという噓を私たちに教えた。そんなところかしら」
「フッ、全部お見通しなのね」
ニーナは懐から私が持っているものと同じ合鍵を取り出し、溜め息を吐いた。
続いて私はジェームズに向き合う。
「井戸から助け出したニャッポから愛人がニーナだということを聞いたジェームズは、全ての真相に気付いた。そしてその真相を、私にだけは気付かせてはいけないと思った。そうでなければ、マーガレットの人生を懸けた自己犠牲が無駄になってしまう。そう思ったあなたは咄嗟に噓をつき、ニーナが愛人だということだけは、何としても隠そうとした。そうよね、ジェームズ?」
「……ああ、そうだ」
ジェームズは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
ある意味今回の事件で一番心を痛めていたのは、ジェームズなのかもしれない。
親友であるニーナが、同じく親友である私を裏切っていたことを知ってしまった。
だがそれが私にバレたら、私は深く傷付いてしまう。
だからこそ、それを必死に隠そうと、心にもないあんな噓をついたのだ……。
「……サリバン先生は、最初からこの事件の真相に気付いていたんですね?」
だからずっと、あんな悲しそうな顔をされていたんだわ。
「うん、偶然ニーナ君と殿下の、逢瀬の現場を目撃してしまったことがあってね。……思えば、あの時私が二人を戒めていれば、この事件は起きなかったのかもしれない。……私は、教育者失格だ」
「いえ、それは違いますよ先生」
「……」
これだけは言っておかなくては。
「二人が関係を持った時点で、もうこうなる未来は避けられなかったのです。真実の愛に舞い上がっている若い二人です。大人がどれだけ叱っても、却って意固地になるだけだったでしょうし。そうでしょう、ニーナ?」
「ええ、そうよ。私とナイトハルト様は、真実の愛で結ばれるはずだった。――それをあなたが邪魔したのよ、マーガレットッ! どうしてくれるのよッ!! あなたのせいで、私の人生はもう滅茶苦茶よッ!!」
突如激高したニーナに対して、マーガレットは至って冷静に、鼻で笑った。
「フン、何を泥棒猫が逆ギレしてんのよ。そんなの自業自得じゃない。いいザマだわ。あなたは一生そうやって、自分の人生を悔やみ続けて生きていくがいいわ。――それが親友を裏切った、あなたに対する罰よ」
「クソがああああああああ!!!!」
ニーナはその場に崩れ落ちた――。
「さあ、私は逃げも隠れもしないわ。どうかさっさと連行してちょうだい」
「あ、ああ……」
あまりの事態に困惑していた警察官だが、自分の職務を思い出したのか、慣れた手付きでマーガレットに手錠を掛けた。
「マーガレット……、あ、あなたは……、バカよ……」
私なんかのために、自分の人生を犠牲にして……。
「フフ、そうかもね。でも私は自分の選択に、後悔なんて微塵もしていないわ。――親友を虚仮にされて黙っているよりは、百万倍マシだもの」
「……マーガレット」
「じゃあね、エリシア」
清々しい顔で連行されていく親友の背中を、私は涙を堪えながら見つめていた。




