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第四幕:愛猫

「というわけで、私のほうはこれといった成果はなかったわ」


 ジェームズとニーナに合流した私は、二人に正直に調査結果を報告した。

 この手の話は変に取り繕っても自分の首を絞めるだけなので、ありのままを報告するに限る。


「了解。俺もフクロウから話を訊いた限りだと、犯人に繋がる情報はなかったな。少なくとも、今夜この学園に、部外者が侵入したという目撃情報はなかった」


 ジェームズが溜め息交じりに、そう語る。


「なるほど、それだけでも十分な情報よ。これで部外者の犯行という可能性は減ったわけだもの」


 やはり犯人は、この学園内の人間ということね。


「ニーナは何か、女子生徒から情報は得られた?」

「う、うん、それがね、一週間くらい前に、殿下とマーガレットが、校舎裏で言い争ってるところを見たっていう子がいたの」

「――! マジで?」

「う、うん、マジで」


 ニーナはたどたどしくも、首を縦に振る。

 ううむ、だとすると……。


「てことは、やっぱり犯人はマーガレットなんじゃねーか? ちょっとした火遊びで付き合い始めたものの、思いの外マーガレットが本気になっちまったもんだから、殿下のほうが愛想を尽かして別れ話を切り出した、とか? その復讐として、マーガレットは殿下を殺したんだ! どうだ、辻褄は合うだろ!?」

「う、うん、確かに」

「いえ、全然合わないわ」

「っ! なんでだよ!?」

「だって殿下は今さっき、公衆の面前で私との婚約を破棄したのよ? つまり殿下はそれだけマーガレットに本気だったということよ」

「「――!」」

「それはマーガレットの側にも言えること。つまり二人は相思相愛ラブラブボンバーだったわけだから、別れ話の類ではなかったと思われるわ」

「ラブラブボンバー? ……でも、別れ話を切り出したけど、マーガレットに説得されて、殿下が折れたという可能性はあるんじゃないか?」

「それだとやっぱり、マーガレットが殿下を殺す理由がなくなるわ」

「あ、そっか……」

「とはいえ、これが貴重な情報であることは確かよ。場合によっては、サリバン先生に頼み込んで、もう一度マーガレットから話を訊かせてもらう必要があるかもしれないわね」


 なるべくなら、次にマーガレットと会うのは、犯人を見付けてからにしたかったものだけれど……。

 何とかして、もっと情報を集められないものかしら。


「……あ」


 その時、私の頭に、ビビビッとある閃きが浮かんだ。

 そうだ――!


「ニャッポよ、二人とも!」

「は?」

「え?」


 二人はポカンとした顔をしている。


「殿下の飼い猫であるニャッポなら、殿下のプライベートは誰よりも把握しているはずじゃない!」

「あ、なるほど」

「た、確かに」


 ああもう、なんでもっと早く気付かなかったのかしら!

 私のおドジさん!


「ニャッポならきっと、犯人に心当たりがあるはずだわ。今すぐニャッポに話を訊きに行くわよ、二人とも!」

「お、おう」

「う、うん」


 よし、これは決定打になるかもしれないわね。




「はぁー、いつ見ても荘厳な扉だな」


 殿下の部屋の扉を見ながら、ジェームズが頭を掻く。

 殿下の部屋は男子寮の一番奥まったところにあり、ここまで足を運ぶだけでも一苦労だ。

 まあ、一国の王太子殿下が寝泊まりしている部屋なのだから、さもありなんといったところだけど。

 私が女子寮で寝泊まりしている部屋も、似たようなものだしね。


「ふむ、鍵が掛かっているわね」


 扉のノブを回そうとしたところ、ピクリとも動かなかった。

 何かと抜けているナイトハルト殿下も、最低限の防犯意識はお持ちだったようね。

 私はキーホルダーの中から、殿下から渡されていた合鍵を取り出し、鍵を開けた。


「お、おい、エリシア、勝手に開けちまっていいのか?」

「あら? 私は殿下の婚約者なんだもの。その資格はあるはずよ」

「ま、まあ、お前がそう言うなら……」


 渋い顔をするジェームズをよそに、私は室内に入った。

 殿下の部屋に入ったのは随分久しぶりだけれど、相変わらず一人暮らし男子の部屋らしく、辺り一面物が散乱していた。


「ニャッポ~? どこにいるのニャッポ~?」


 いつもは部屋に入った途端、みぃみぃ鳴きながら擦り寄って来るニャッポが来なかったので名前を呼ぶも、ニャッポからの返事はない。


「ジェームズ、あなたの【心の対話(ドリトルトーク)】で、ニャッポに呼び掛けてみてくれる?」

「了解。おーいニャッポー! いたら返事してくれー!」


 が、一向にニャッポからの返答はなし。

 おかしいわね……。


「ちょっと手分けしてニャッポを探しましょう」


 そこまで広い部屋ではないので、隠れるようなところもあまりないはずだけれど。


「ああ」

「う、うん」


 私は四つん這いになって猫の気持ちになり、ニャッポを探した。




「あら?」


 ふと、ベッドの下に、綺麗にラッピングされた袋があるのを見付けた。


「何かしらこれ」


 ラッピングを(ほど)いて袋を開けると、中には兎のぬいぐるみが入っていた。


「どうかしたか、エリシア?」

「あ、それ……」


 ぬいぐるみを見せると、二人も察したみたいだ。


「うん、多分これが殿下の取り巻きたちが言っていた、マーガレット宛のプレゼントね。こんなものを用意しているくらいだもの、やっぱり二人は、相思相愛ラブラブボンバーだったんだわ」

「エリシア……」

「エ、エリシアァ……」


 二人が悲愴感を滲ませた顔で、私を見つめる。


「大丈夫よ二人とも。言ったでしょ? マーガレットと落とし前をつけるのは、犯人を見付けた後。今はニャッポを探すのを優先しましょう」

「あ、ああ」

「う、うん」


 が、いくら探しても、ニャッポは見付からなかった――。



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