第三幕:調査
「では、時間もないから、ここから先は三手に分かれましょう。私はまだダンスホールに残っている人に、話を聞いてくるわ」
特別指導室から出た私は、ジェームズとニーナにそう提案した。
「じゃあ俺は、【心の対話】で、校舎の周りにいるフクロウに話を聞いてくるぜ」
「ああ、それは助かるわ」
フクロウだったら夜目もきくし、怪しい人物を目撃してるかもしれないしね。
「わ、私は女子寮に行って、話を聞いてくるね」
「うん、よろしくね、ニーナ」
ニーナは人当たりもいいし、女子生徒から話を聞くのに適役だわ。
「……健闘を祈りますよ、エリシア」
「? あ、ありがとうございます」
サリバン先生が、少しだけ憂いを帯びた表情で、そう言った。
サリバン先生?
ま、まあいいわ。
今は時間が惜しいもの。
「では、30分後にまたこの場所に集合しましょう。解散!」
「オウ!」
「うん!」
さあて、ここから先は時間との勝負ね。
「まったく……、これから先、どうしたら……」
「俺なんて、卒業したら殿下の側近にさせてもらう約束だったんだぜ……」
私がダンスホールに戻ると、入り口付近で三人組の男子生徒が、輪になってブツブツ愚痴を言い合っていた。
いつもナイトハルト殿下と一緒にいた、取り巻きの三人だ。
よし、ちょうどいいわ。
まずは彼らに話を聞いてみましょう。
「ちょっとよろしいかしら」
「え? あ! こ、これはエリシア様! こ、このたびは、何と申し上げていいか……」
「いえ、私はこの通り、元気モリモリなのでお気になさらず」
「あ、はぁ……」
「それよりも、何点かお聞きしたいことがあるのだけれど、いいかしら?」
「あ、はい。俺たちでよければ……」
「ありがとう。単刀直入に言うわね。私は――殿下を殺害した犯人は、マーガレットの他にいると思っているの」
「「「えっ!?」」」
三人の顔に、驚愕の色が浮かんだ。
さもありなん。
「それを前提に考えて、どうかしら? 犯人に心当たりはない?」
「心当たり……、ですか。さぁ? お前は?」
「いや、俺も全然」
「俺も俺も! 殿下は、その、ちょっと抜けてるところはありましたけど、誰に対しても優しい方でしたし、恨みを買うような人じゃなかったと思います」
うん、その点は私も同意見ね。
「では質問を変えるわね。あなたたちは――殿下とマーガレットが男女の関係になっていたことは、知っていたの?」
「「「――!!」」」
三人とも、蛇に睨まれた蛙のような顔になってしまった。
おっと、イケナイイケナイ。
脅すつもりはなかったのに。
「大丈夫、別に知っていたからといって、あなたたちを糾弾しようなんてつもりは欠片もないから安心して。私はただ、真実を知りたいだけなのよ」
「あ、はぁ……、そういうことでしたら。……まあ、正直、最近殿下に女性の影があったことは事実です」
「ほう? というと?」
「『若い女性にプレゼントするなら、何がいいかな?』的なことを、最近よく訊かれてたんです。もしもエリシア様へのプレゼントだったらそう言うはずですから、『若い女性』と濁してる時点で、エリシア様以外の女性へのプレゼントなんだと察しました……」
「ふむ、なるほどね」
実際最近殿下からプレゼントをいただいたことはないし、十中八九マーガレットへのプレゼントを探していたと見ていいでしょう。
「ありがとう、よくわかったわ」
「あ、いえ」
恐縮している三人に頭を下げて、私は彼らと別れた。
その後もダンスホールに残っていた何人かの生徒に同じ質問をしてみたものの、これといった成果はなかった。
そうこうしているうちに約束の時間になってしまったので、私は一旦集合場所に戻ることにしたのだった。