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3話 平民ジョークで〜〜す!

 

「改めまして、アイリス・ジルバードと言いますの。今日からお世話になります!」


「おう、よろしく」


 ギルド内酒場にて集まった俺たちはとりあえず自己紹介でも、ということになっていた。

 本当はこれから向かうクエストの道中で雑談でも交えながらすればいいと思っていたのだが。


「チッ……よろしくな」


 あまりにもララノアの空気がヤバすぎてこんな事をせざる得なかった。

 どう見ても初対面の地雷ムーブで早速だが空気が重い、重すぎる。


「あー……えっと、すまん! コイツは初対面の人間に対してとりあえず高圧的に出る悪癖があってさ……適当に無視していいから」


「んなっ!? 先輩!?」


 うるせぇ。

 もう話にならないのは嫌なんだよ、昨日の今日でわかってくれ。

 涙目でギャーギャーと何かを訴えかけてくるララノアを無視して俺は話を進める。


「で、アイリスさんは戦士職とのことだけど、細かい職種とかって決まったりしてるの?」


「モチのロンです」


 モチのロン。

 言って、相変わらずガシャガシャと金属音を鳴らしながら立ち上がると。


「この重装備を十全に扱うことが出来るわたくしに似合う職業と言えば……もう分かりますね? そう! 武闘家!」


 肩まで伸ばした銀髪をバサりと払い、アイリスはキメ顔でそう言った。

 どう見てもセイバーだが?

 おう、その背負ってるロングソードはなんなんだよ?

 飾りか?


「なーんて冗談です! お嬢……んん、平民ジョークで〜〜す! ……ここ笑ってくれてもいいんですよ?」


 ララノア見た後だとジョークに見えない。

 結局ララノアの奴、丸腰で来てるしな。

 横でおいおいと泣くララノアに視線を落としつつ、失笑をグッと我慢する。


「あっはっはっ…で、本当の職業は?」


「セイバー志望です!」


 胸に手を当て、アイリスが自信満々に答えた。

 ふむ、セイバーか。

 昨日の馬鹿力で背中のロングソードを振り回せるなら相当やれるはずだ。

 それこそ中堅パーティーに行ったって活躍出来るだろうに。


 ……なんでフリーなんだ?


 いやまだ1週間とか言ったか。たまたま誘われなかっただけだろう。

 周りを見ても冒険者が少ない辺り、ダンジョン攻略とか長期クエストとマッチしてしまったと見た。

 俺も長い時は2ヶ月近く帰ってこないことがある、そういうタイミングだったんだろう。


「……おーけー! んじゃま、クエスト行くか!」


 ララノアのせいで考えすぎてるだけだ、こういうこともある。

 彼女のような馬力のある戦士職はそれだけでどこのパーティも欲しがるもんだ。性格も素直そうだし、ベテラン勢もしくは見る目のある中堅勢にでも見つかればすぐにでも貰い手が見つかるはずだ。


 そう、そのはずだ。


 俺は若干思考停止気味に結論を付けると、未だに横でおいおい泣くララノアを担ぎ上げた。






 ◇






「なぁ、先輩? 今日は何を狩りに行くんだ?」


 街から離れた森、ざわめきの森にて俺たちは討伐対象であるモンスターを探していた。

 先程まで泣いていた彼女はどこへやら、呑気に聞いてくるララノアにクエスト用紙を渡してやる。


「今回はフォレストベアーの討伐だ。アイリスさんのパワーを活かせるモンスターのはずさ」


「なるほど、力試しというやつですね! 冒険者の荒くれ者が新人へ向けてやる洗礼というあの! 本で読んた事あります!」


 微妙に違う気がするがまぁいいだろう。

 それに力試しというのは間違っていない、今日は彼女の限界値がどれほどなのかを知っておきたいのだ。


 力はどれだけ持続するのか、モンスターの攻撃に対してどう対応するのか、そもそも生き物を殺すという事実に耐えうる精神的強さはあるのかどうか。


 戦士職、ないしは近接職は他職業よりもそういった耐える力や対応力といった物を要求される。

 昨日のアレを見る限りパワーだけならベテラン勢にも引けを取らないはずだし、今回はそういった面を見ておきたい。


「そういえばララノア様はどの職業なんですか?」


「あ? あぁ……アタシか。ふんっ、聞いて驚け? 喧嘩屋だ!」


 そんな職業ねぇよ。


「なんと!? 喧嘩屋?という職業は初めて耳にしました!そこはかとなくカッコイイ響きですね! それにエルフ様なのに近接職なんて更にカッコイイです……! すごいです……!」


「そうだろう! そうだろう! エルフの近接職なんて有史以来アタシが初だろうな!!!」


「有史以来!? わたくしは今! モーレツに感動しています……!」


「な、泣くほどか? ふふふっ……そんなに感動したのなら後でエルフ秘伝の喧嘩殺法を見せてやろう……!」


「い、いいんですの? であれば是非、是非ともよろしくお願い致しますわ!」


 人が周囲を警戒してる間に適当にわだかまりを解いてもらおうと思っていたのだが、思ったよりも相性が良さそうなご様子。

 後ろを歩く2人は危険な森の中だと言うのに、楽しそうに談笑の花を咲かせていた。

 コイツらここが危険地帯って分かってるんだろうな……?


 まぁでもララノアの奴が打ち解けてくれたなら、いいか。


 これであわよくばこの2人がパーティを組む、みたいな話になれば俺は1ヶ月後晴れてお役御免ということになる。

 近接職2人とちと偏ってはいるが、ここに中距離職の魔道士と狩人のような中・長兼任職が入ればバランスも取れるだろう。

 毒とか回復はポーションがぶ飲みでよろしく。

 いや待て狩人……?


 むっ。


 なんて考えてたら敵感知に反応が。いや、速っ!?

「っ! 2人とも来るぞ!」

「「へっ?」」


 バキバキと木々を倒す音が鳴ったと思うと、それが姿を現した。


 フォレストベアー。

 それはざわめきの森を住処にしているクマ型モンスターであり、この森のボス格が1匹である。

 本来なら森の自浄作用を担うモンスターであり討伐対象になることは無いのだが、繁殖期を過ぎてもつがいの居ない雌の個体は話が変わってくる。

 つがいを作れなかった雌は次の世代を残せないというストレスから凶暴性が増し、更に生態系を壊しかねないほどの食欲を得てしまうのだ。


 フォレストベアーの警戒すべき点は3つ。

 身を守る盾となる茶色の体毛、次に大木すら一息で切り倒す凶悪な爪、そしてそれらを十全に発揮する筋肉。

 これらの攻防一体のスペックを持ってして、フォレストベアーはこの森のボスとして君臨しているのだ。


「……思ってたより図体がデケェな」


 例年通りなら繁殖期が終わったばかりのこの時期でここまで成長していることは無いのだが……。

 流石にこの個体と真正面からやり合ったら中堅連中でもひとたまりはないだろう、ましてや新人なんてもってのほかだ。


「陽動として俺が前に出るから、ララノアはとりあえず待機! アイリスさんは隙を見て奴と「フォレストベアー様! お命頂戴致!!!」え、ちょ、アイリスさん!?」


 俺の言葉を遮り、アイリスがロングソード引き抜き構え飛び込んだ。


「お覚悟!!!」


 一気に胸元へ飛び込み、一閃。

 アイリスの振るった剣がフォレストベアーの首元で煌めき──────。


「え?」


 ───────快音と共に折れた。


 えっ。


「わ、わたしくしの剣が……」


 折れた矛先がクルクルと宙を舞い、地面に突き刺さる。

 その断面を見れば折れた理由は一目瞭然であった。中身がねぇ。

 こんなハリボテの剣で斬れるほどフォレストベアーの首は安くないのだ。


『グォォ……オ?』


 おいおい、相手まで困惑してるじゃねぇか。


「……ッッ!!」


「きゃっ!?」


 俺はその隙にダガーにてフォレストベアーの喉笛を掻っ切ってやり、意識を首へ割いた瞬間、呆然と立ち尽くしていたアイリスを担ぎ後退。


「も、申し訳ありませ「大丈夫! 後で聞く! !」


『フッーフッー! グァァ!!!』


「まぁ、こんなんじゃ死なねぇよな……!」


 鼻息荒く、喉からコヒューコヒューと音を鳴らしながらも、フォレストベアーは俺を殺そうと臨戦態勢に。


 まったく。今回はアイリスさんの実力を測りつつ、ある程度のところでサクッと背後から殺してやろうと思ってたのになぁ。

 これじゃあ新人研修の意味ねぇよ。


 こういう場合、俺1人なら潜伏からのヒットアンドアウェイで確実に仕留めるところだが……それをすると2人を危機にさらしてしまう。

 手負いの獣ほど危険なものは居ない、そんな手合に2人を晒すのは流石に可哀想ってもんだ。

 それにこの状況を想定してなかった俺の責任もある。

 と、なると。


「《硬化》《超硬化》……アイリスさん、すまん!」


「えっなんです、何故硬化魔法をわたくしに、え、あ、ちょ!? 待ってくださいぃぃぃぃ!!?!」


 答えはそう、囮作戦だ。

 高い高いの要領で彼女を空へぶん投げ、空いた手を瞬時にダガーへとかける。

 叫び声を上げながらフライアハイするアイリスへ目を向けてくれと願い、脚に力を篭める。


『グオッ!?』


 思惑通り空を舞うアイリスに釣られフォレストベアーが上体を起こし、空へと目線を向けた。

 臨戦態勢に入った獣は獲物の一挙手一投足も見逃さないもの。


「ッ!」


 だからそこを突く。


 ダガーに魔力を込め強化。

《貫通力上昇》《斬撃性能向上》

 さらにスキルを重ね掛けて斬れ味、貫通力を上げる。


 そして一気に背後へ回り込み、脊椎にその切っ先を思いっきり刺し込み、捻る。

 ここなら分厚い肉や毛皮があるとはいえ、比較的薄いはず……!


『ォオォォ……』


 肉を刺した感覚が手に伝わったと思うと、ドスン、という音と共にフォレストベアーは地面へと崩れ落ちた。

 俺はフォレストベアーの背中に乗りあげると、脊髄から延髄付近をダガーで滅多刺しにする。

 ここで確実に、完璧にとどめを刺すという殺意と共に刺して刺して刺しまくった。


『…………』


 沈黙を確認し、俺は段々と近づいてくる絶叫に空を見上げた。


「ひぎゃあああああああああああああああああぁぁぁ!!!」


「おっかえりー!」


 絶叫しながら空中散歩から帰ってきたアイリスを受け止めて、俺は労いの言葉をかける。


「いやー、ナイス囮! 助かったぜ!」


「ひゅー…ひゅー……。し、死ぬかと思いました……」


 顔面蒼白で過呼吸気味のアイリスを降ろしてあげ、フォレストベアーに刺さったダガーを抜き取る。


「アルバス様……」


 今にも吐き出しそうな様子のアイリスが絞り出すように俺の名を呼び、ふらりと立ち上がった。


 流石に相談無しでの囮は不味かったか。


 ふらふらと揺れながらにじり寄ってくるアイリスの目が明らかに据わっている。怖い。

 だがまぁ彼女の怒りもわかる、ここは甘んじて受け入れよう。


「か……感動しました〜〜〜!!!」


「なっ……!? ガッ!!?」


 滝のごとく涙を流したアイリスが感嘆の声を上げたかと思うと、唐突に俺の土手っ腹へと抱きついてきて。

 彼女の予想外の行動に回避行動が遅れてしまった。


「ちょ、力強っ……! つか腹というか背骨が締まっ…!」


「まさかわたくしを囮にしてのモンスターの討伐!さすがですおえっ……! お恥ずかしいことにわたくし全く考えつきませんでした! かくなる上はこの細腕でぶん殴っおろろろろろろろろろろ!!!」


「あ、馬鹿っ!? 俺の上で吐くんじゃねぇ!」


 つかヤバイ、背骨がキリキリ言ってる!

 背骨が!!!!


「ララノア! 助けてくれララノア! ララノア!?」


 助けを求め、ララノアの方へ目線を移すと、そこには腰を抜かし白目を向く彼女が居た。


「おいチンピラエルフ起きろ! いや助けて! ララノア! ララノさん! ララノ待って背骨がなっちゃいけない音鳴らしながらひしゃげてこれ以上はダメダメダメダあだだだだだだだ!?」


「感謝です〜〜〜!」


 森に響くアイリスの声と吐瀉物の匂いを最後に、俺の意識は途絶えたのだった……。


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