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元ソロ冒険者はソロに戻りたい 〜山分けしたら報酬が減るだろうが! 俺は一人でいいんだよ!〜  作者: りっぴー


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14話 それは海よりも深く谷よりも深く空の青さよりも深い

 

 早朝のギルド内食堂スペースにて。

 訳アリの新人とやらを待ちながら俺は一人で参考書を読んでいた。


『新人研修その4! 新人を迎える際は事前にリーダーが顔合わせして、新人を迎えやすい環境作りをしよう!』


 参考所曰く。

 新人をパーティーに迎える際、その人物の性格や職業などを事前に知ることでほかのメンバーとの軋轢や衝突を減らせる、らしい。


 そういやアイリスとララノアの初顔合わせはあんまりにもあんまりだったな、主にララノアの態度のせいで。

 今思えば、あれは俺が悪かったのか……。

 パーティーリーダーの失態というやつだな、いや組んでないが。


 てなわけで。

 アイリスとララノアが来る前に件の新人と顔を合わせるために俺は早朝のギルドへとやって来ていた。

 ……そろそろ約束の時間だがまだかね。


「もし、お尋ねしたいのだが。アルバム・モノグラムという方がどこにいるか知らないか?」


 と、噂をしたらなんとやらだ。


「お、そいつは……」


 声の方へと顔を向け、俺は固まってしまった。


 そこに立っていたのは、なんというか、目に優しいのか優しくないのかよく分からん派手さの女だった。


 まず視界に飛び込んできたのは、光でも反射してるのかってくらいツヤのあるピンク色のロングヘア。

 さらさらと揺れるたび、自然と目で追ってしまう。いや、追わせられてる。魔力とかじゃなくて単純に存在感の暴力だ。


 瞳も同じ濃いピンク色で、正面から覗き込まれると一瞬だけ心臓が止まった気がした。

 別に惚れたとかじゃない。驚いただけだ。ほんとに。


 顔立ちは、なんだろう。

 人形、って言葉が一番近い。名工が暇つぶしじゃなくて本気出した方のやつ。

 輪郭の流れとか鼻筋とか、細かいところまで整いすぎていて逆に怖いレベル。


 ゆったりとしたローブを着てるのに、必要な部分だけしっかり主張してくる胸元もよく分からん。

 普通あれだけ布使ってたら全部隠れるはずなんだが、なぜか視線のやり場に困る。

 というか、困らせるために作られてない? あれ。


 ……いやいやいや、なんだこの情報量の多さだけで殴ってくるタイプの女は。


 そんな俺の困惑をよそに、本人はやけに満足げな顔をして一度小さく咳払い。


「そいつは?」


「あ、あぁ。いや、アルバスは俺なんだが」


「……あ、そうなの!? じゃちょっとやり直すから待ってなさい」


 えっ。


「えっ」


「ごきげんよう、異世界からの転生者にしてこの世界を救う特異点……人呼んで絶世の魔道姫! そう! リエール・ミレインとは私の事よ!」


 やべぇやつが来た。


「やべぇやつが来た」


 人は初対面の人間に開口一番、意味不明な事を言われるとどうなるのか。


 そう、思考が止まる。


 ピンク髪のさらさらロングヘアー特異点さんは「決まった!」と言わんばかりに右の腕をこちらへ向けてポージングを決めているが、俺には彼女が何を言っていたのか一切理解出来なかった。


 だが、わかることがただ一つ、多分相当アレな人だ。


 自身の存在を大きく見せたいがために自らを転生者とか、女神に出会った! などと騙る輩がまれに居ると聞くが、まさか自分がそれに出会うとは思わなんだ。


「あー、その転生者? 特異点? のミレインさんはなぜに冒険者に?」


「よく聞いてくれたわね! 私が何故冒険者になったのか……それは海よりも深く谷よりも深く空の青さよりも深ーい理由があるの」


「めちゃくちゃ深いじゃん、深過ぎてもう逆に浅そうなんだけど」


「いやー、ぶっちゃけると労働したくなくて!」


 ぶっちゃけ。

 今日日聞かないようなこと言って、ミレインはガタリと音を立てて椅子に座る。

 つかさっきからこいつキャラ安定しねぇな。キャラの落差でキャラキーンってなるわ、キャラキーンってなんだよ。


「私ってばここに転生してくる前はOLって奴をやってたんだけど、あ、オフィスレディね、オフィスレディ」


「そりゃご苦労なことで」


「んでさー、毎日朝から晩までズコバコズコバコ働いてたらさー、過労死よ過労死! もうさぁ、疲れちゃったんだよねぇ!んでさ───────」


 まとめるとこうだ。

 彼女はニホンという国?の首都にて商店の受付嬢のようなことをしていたが働きすぎて死んでしまった。

 どうしたものかと思って居たら女神様とやらに転生を提案されてこの世界にやってきた。

 けど前世で働き過ぎちゃったから正味、楽をしたくてグータラグータラとこの歳まで自由に生きてきた。

 ただ最近、ついに実家から勘当されてしまったので楽に稼げそ〜ってなノリで冒険者になりましたと。

 まぁそういうことらしい。


 ………………。


 痛い。

 すごく痛い。

 自身の前世の設定だとかをしっかり考えて、否、前世があると信じきってる成人女性とはかくも痛いものなのか。

 あと死ぬほど冒険者業を舐め腐ってるのもキツイ。

 そりゃこんなノリで他の奴らに絡んだら誰も組んでくれないよ、俺だってさっさと見なかったことにして帰りたいもん。


「てなわけで、私を雇ってくれるんでしょ? よろしくね!」


 人の気も知らず、ミレインが満面の笑みを向けてくる。


「仮な、仮。正式に組むわけじゃない」


「えっ、そうなの」


「そうだよ、あと二週間もすればベテラン連中が王都から帰って来るからそれまでの間の仮パーティーだ。それでもいいならよろしくな」


「うーん、まぁいいや。ぶっちゃけ雇ってくれるならなんでもいいのよ、なんでも」


 ミレインはどうでも良さげといったふうにケラケラと笑う。

 いまいちキャラが掴めん。


「っと、そういや職業聞いてなかったな。お前さんの職業ってなによ?」


「見ればわかるでしょ? 魔道士よ魔道士、この見た目で剣士とか拳闘士だったらちゃんちゃらおかしいわよ」


 まぁ、そうだよな。

 ただ、魔道士だと言うなら杖とかの装備を持ってないのがちと気になるが……。

 メアリーなんかも杖無しで魔法使ってたしそんなもんなんだろう、俺も杖無しだし。


「アルバスさんおはようございます!」


「おはよう、先輩!」


 さて適当に雑談でも、っと思ったところで後ろから聞き覚えのある挨拶が飛び込んできた。

 思ったよりも時間が経っていたらしい。


「おー、おはようさん。紹介するぜ〜こちら今日からパーティーに入る魔「ごきげんよう! 私の名前はリエール・ミレイン! 世界を救う異世界転生者! 人呼んで絶世の魔導姫! さ、二人の名前を教えて?」

 だ、そうだ」


「え、えっと……アイリス・ジルバードです」


「我が名はララノア・ニーブ! この世界のエルフで唯一の喧嘩屋を職業にする者! 人呼んで喧嘩屋エルフ! よろしく頼む!」


 すこし引き気味のアイリスと対照的に即座に同じノリで返すララノア。

 アイリスん時はあんなにつっけんどんで舌打ちしまくってたのに随分変わったなコイツ。


「アイリスちゃんにララノアさんね! よろしくー!」


「あぁ、よろしく!」


「よ、よろしくお願いします……」


 わかる、わかるぞアイリス。

 いきなりこのテンションで来られたら気圧されるよな。

 お前もそうだったんだぞ。


 ララノアとアイリスの手を取ってブンブンと腕を上下に振るミレインを尻目に、俺は事前に受注して置いたクエストの用紙へと目を向ける。


「んじゃま、適当にトークでもしながらクエスト向かうぞ〜」






 ◇






「─────へぇ〜、アイリスちゃんは武装錬金術が得意なんだあ、すごいわね!」


「いえいえそんな……ミレイン様のほうが凄いですよ! ギルドカードに記されてる魔力量なんて上級冒険者と遜色無いですし!」


「いやいや、まぁ? それほどはあるかもね?」


「それに異世界から使命を持って転生してくるなんて生半可な覚悟ではできませんよ! わたくし大感動いたしました!」


「……アイリスちゃんは可愛いわねぇ〜、アイリスちゃんと居たら自己肯定感爆上がりで助かるわ〜」


「わかる、わかるぞミレイン。アイリスと会話してるとこう、気持ち良くなる……」


 例の通り、ざわめきの森にて討伐対象を探す俺としゃべくりまくるその他という図式。

 適当にトークでも、と言ったのは俺だけども。

 コイツら、いつモンスターに襲われるか分からないのによく喋れるよな。

 アイリスとララノアの時も思ったが、ここを危険地帯って分かってるのかね。


「ねー、アルバス。そういえば私たちなんにも聞いてこないで来たけど今日はどんなクエスト受けたの?」


「今回はスライム討伐クエストだ。ミレインさんが魔道士ってことだから魔力耐性の低いスライムを選んでみた」


 昨日もスライム、今日もスライムである。

 スライムを無傷で狩れて駆け出し卒業、なんて言葉もあるレベルで冒険者とスライムは切っても切り離せない関係なのだ。


 まぁ毎日スライムは少し気が滅入るが。

 だがタイミング自体は悪くない、魔道士としてミレインがどれ程のものなのか見るのにスライムはうってつけだろう。


「っと、言ってる間にお出ましだな。前方から五体来るぞ!」


 敵感知の反応から少し遅れて、五体のスライムが現れた。


 ぷにぷにと音を立てて、緑色の軟体流動生物スライムが俺たちを囲むように跳ねている。


「よしミレイン、一番手はお前だ。まずは単発で様子見――」


「任せて! この私の華麗なる魔法で一瞬よ!」


 妙に自信に満ちた表情で、ミレインがスライムへ指を向ける。


「《雷矢(ライトニング・ピアス》!」


 ぱしゅん! と鋭い雷光が飛び出した。


 その瞬間。


 スライムは、ぴょんっと跳ねて普通に避けた。


「……は?」


「……ん?」


 俺とミレイン、同時に間の抜けた声が出た。


「《雷矢(ライトニング・ピアス》!」

 ぴょん。


「《雷矢(ライトニング・ピアス》!」

 ぴょん。


「《雷矢(ライトニング・ピアス》!」

 ぴょん。


 これはひどい。

 狙いがザルなのかこの個体が特別避けるのが上手いのか、ミレインの魔法はスライムを一切捉えられていない。

 スライム相手に点の攻撃は悪手とは聞いた事があったが。まさかここまで当たらないとは思うまい。


「ストップ、ストーップ!! ちょっと待って、今の見た?」


「見たな」


「スライムが」


「避けたな」


「……ナメてんじゃないわよ。私の魔法を避けるとか100年早いのよコラ」


「いや相手ただのスライムなんだが」


 ミレインの頬がぴくぴくと引きつり、プチんと何かが切れた音がした。

 そして次の瞬間、ミレインの目が据わる。


「あーもうめんどい。広範囲で焼くわまとめて焼くわぶっ殺すわ」


「おい待てや「雲裂きし光よ、遥か高天より降り注ぐ咆哮よ。

 揺らめく空気を震わせ、彗星の尾のごとく我が手に集え!

 さぁ示しなさい、世界を貫く真なる閃き!

 我が宣ず!

 今こそ全てを薙ぎ払う嵐の門を開け!

 待て待て待てやめ」


「《雷嵐招来ラ・ヴォルトストーム》ッ!」


 空気が轟と音を立て、裂けた。


 ミレインの足元を中心に、雷光が波紋のように地表を這い、五体のスライムへ向かって一気に走る。


 いや、正確には。


 スライムだけじゃなくてこちら側にもまっすぐ来ていた。


「アイリス! ララノア! 対ショック体勢!」


「「えっ」」


 雷の奔流が爆発するように弾けて。


 派手に暴発。


 視界が白く染まったあと、遅れて轟音が鼓膜を揺らす。


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!


「ぎゃあああああああああああああああ!!」


「ひょわあああああああ!?!?」


「ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇ……!!?」


 五体のスライムは文字通り蒸発し、


 俺たちは三人まとめて空中でひっくり返りながら吹っ飛んだ。


 焦げた草の匂いが鼻を刺し、遠くで鳥が飛び立つ音が聞こえた。


 地面に背中を打ちつけて転がり、なんとか起き上がる。


「……あの、ミレインさん?」


「……ミスった♡ めんご♡」


「♡つけたところでミスはミスだぞ!」


「でも見て! スライムは全部倒したわよ! 一撃よ!」


「俺たちも巻き込んでんだよ!!!」


 アイリスは涙目で髪が逆立ち、ララノアは焦げ跡だらけで煙を上げている。


「ミレイン……お前、アタシ達を殺す気か……?」


「死ぬかと思いました……死ぬかと思いました……」


「大丈夫大丈夫、人間そんな簡単に死なないってあ、ちょっと待って魔力酔いでゲボ吐オロロロロロロロロ」


「えぇ……」


 俺は頭を抱え、深く深く、それはもう深くため息を吐いた。




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