亜依創造
9話 亜依創造
翌日。
「監督から連絡があったわ。今日は午後から出るって」
「ですか。監督来てもねぇ。やれるんですか、リハ?」
「まあとりあえず、猫姫の出ないシーンを。カカメホルク王の登場シーンやるから、用意してね加藤岡くん」
「ハイ、森尾さん」
森尾さん監督デビューは、いつになるかな。
早くなれるといいなぁ。
悪い人じゃないけど南部さんは怒鳴りすぎる。まあ作品に妥協がない人だから。
築三十年以上はたってるボロマンションだ。
昔は高級アパートに毛が生えたようなトコだったんだろ。入り口だけはリッパだ。
エレベーターホールが有り5階建て。
俺は4階に上った。4階だが、縁起をかつぎ部屋ナンバーは「5」だ。
504だつたよな。表札には名前はない。
ココには初めて来た。
最近はココに住んでいるはずだ亜依創造。
半年前、オケラ座の俺宛に手紙が届いた。
連絡先に手紙を出し、オケラ座の応接室で十年ぶりの再開をした。
亜依は、昔はポッチャリ体型だったが、仕事を無くしてから痩せ始めた。
十年ぶりの亜依は、ガリガリだった。
服装は古着だろう。アロハシャツに穴のあいたジーンズ。靴ではなくスポーツサンダル。
会う前に亜依から、使ってほしいと原稿のコピーが送られてきた。
そのコピー原稿の話しをした。
「どうだ、そのホン使えるか?」
「おまえらしい面白いホンだ。だが、ちょっとオケラ座むきじゃないな。こんなダークなホラーはここでは使えない。あのな俺、今度の公演作品を監督出来るんだ。しかも内容は俺にまかされてホンも書く。それをあの頃みたいに一緒に書かないか」
「ああ、オケラ座にいると聞いて、それにあうファンタジーにしたんだが」
「ちょっとダークすぎる。このホンでは無理だ」
亜衣は自分のホンに、こだわってる様子で考え込んだ。
亜衣の脚本家デビューは、俺と同じ「不可思議ザ・ストーリー9」だ。
あれは、すごくやりがいのある仕事だった。
ベテランも何人かいたが、若手中心で作られた番組スタッフだった。
毎回、奇々怪々なストーリーで視聴者を楽しませたり怖がらせた。時には笑って泣ける話も作った。
コレがあたって高視聴率が続き、1クールが2クールに。
そして気を良くしたプロデューサーが2時間の特番放送を決定した。
作品のホンは視聴率が何度もトップだった亜衣が担当することになった。
コンビで演出が多かった俺だが、2時間スペシャルにはベテランの演出家が、彼は映画も撮る大物だ。俺の出番はなかった。
この企画に歓喜した奴の力の入れようは、半端じゃなかった。
期限を一週間も遅らせたが、なんとかなった。
しかし、そのせいもあったのか現場はピリピリしていた。レギュラー放送のスタッフだった俺にもわかった。
そのせいなのか事件が起きた。
つづく