マペット倉庫
5話 マペット倉庫
ボクは鍵をあけて、重いスライド式の鉄の戸を開けた。
マペットたちが眠る倉庫だ。
前の方には今回の劇の悪役戦士として登場するゴーモン将軍の着ぐるみが立てかけてある。
今回使われる着ぐるみで、一番デカいヤツだ。
ゴリラのような身体に熊のような頭。大きな角が1本。長くて太い尻尾もある。
「どうやら、こいつは無事のようだな」
「今の所は……脇役のキャラが多く。このゴーモンが無くなったら」
「まだ、大丈夫だ、森尾。おまえは少し心配性すぎる。 なあ、お嬢ちゃん。こんなのが立ち上がって襲ってきたら怖いだろ」
「はあ、でもいまのところは、それには何も感じません」
ガサッ
「今、奥で何か動いたぞ!」
監督が、倉庫の奥に走った。
ボクは照明をつけて監督の後を追った。
「うわぁ!」
「大丈夫ですか、監督?」
一番奥の通路で監督が壁にもたれ、しゃがみ込んでた。監督のおデコに矢が。
「やられた。カトー」
あとから森尾さんと渋谷カナさんと何人かのスタッフが駆けつけた。
「大丈夫ですかぁ監督」
ボクは監督のおデコの矢を取った。
矢は先が吸盤になっているヤツだ。
「アレが、俺に矢を」
監督が指差す棚には矢を放った後のポーズのままのネズミキャラのマペットが。背は30センチ程の大きさだ。
まさかヤツが矢を監督に。
ボクらの来た通路と反対側から来たスタッフの一人が。
「こっちには、誰も」
「そいつが……」
弓を持ったマペットをおそるおそる触ってみたが、普通のマペットだ。べつに動くような事はない。
「ホントにこいつが矢を」
「ここまで、来て通路を曲がったとこでこいつと目が合った。そん時には弓に矢が」
「マジすか、監督。本物の矢じゃなくて良かったですね」
ボクは、監督に手を出し、監督が立った。
ホコリのついた尻をたたきながら監督は。
「確かにそいつが俺に矢を」
ボクの持つネズミ型人間のマペットの首を絞めた。
「なんとか言ってみろネズ公」
「キャアア」
誰か女性スタッフの悲鳴が入り口の方から聞こえた。
「なんだ?」
「チーフ、ゴーモンが動きだした」
なんだって、ゴーモンが動いたぁ。
入り口まで戻ると着ぐるみのゴーモンが動いている。しかもサーベルを抜いて暴れてる。
数人スタッフがサーベルで斬りつけられてるが、幸いアレは演劇用のゴム製だ。
傷つけられてはいない。
周りのスタッフが逃げ散ったら、ゴーモンが、ボクらの方にマントをひるがえし迫ってくる。
「逃げろ!」
奥の通路に戻り逆側から入り口の方に。
「誰が入ってんだ。カトー」
「わかりません、けどあの重い着ぐるみを一人で着て、あそこまで動ける人間なんて」
「ええ。ワイヤーで操演の尻尾まで動いていたわ。アレは一人であつかえれるものじゃありません、ナニが中に?」
倉庫の出口まで来たが。
「ひいっ!」
一番遅れてた渋谷カナがゴーモンに捕まって、ボクらの方に投げ飛ばした。
ヤバッ飛ばされた渋谷カナは森尾さんに直撃。二人共床に倒れた。
先頭を走っていた監督が戻り。
「森尾大丈夫か」
「私は大丈夫。渋谷さんは」
「大丈夫です」
「きゃあ」
ゴーモンが森尾さんの足を掴み取り持ち上げた。
「森尾ッ!」
森尾さんを助けようと近づいた監督がゴーモンの拳で殴りつけられた。
「監督!」
ゴーモンは森尾さんを引きずり入り口の方に戻った。
「カトー、森尾を」
ボクは、まるで生き物ようにうねるゴーモンの尻尾に注意しながら後を追う。
「アレに人など入ってません」
「あ、渋谷さん、大丈夫ですか」
「ナニがアレを……」
「渋谷さんでもわかりませんか?」
「何かわからないけど人じゃないのは確かよ。あ、外に出た」
「ヤロー森尾をどうするつもりだ」
ボクらはゴーモンを追って倉庫から出た。外では緑のスタッフジャンパーを着たスタッフが、手にモップやホウキ等を持ちゴーモンを囲んだ。
「森尾を助けろ、着ぐるみに負けるな!」
監督が、殴られて腫れた頬を手でおさえてゴーモンの横にまわった。
グモオモモモーッ
着ぐるみが、雄叫びをあげた。信じられない。
取り囲んだスタッフが一斉にとびかかるが、ゴーモンは長い尾でなぎ払った。
「お嬢ちゃんは超能力か、なんかでどうにか出来ないのか?!」
「ごめんなさい。わたしには」
駐車場の屋外ライトにひかれてか駐車場の方まで移動したゴーモンの前に一台のクルマが。
クルマから、女性が降りた。
「派手にやってるわね」
「ソフィー!」
「あら、モリリンじゃない。なんで怪物に」
「ソフィアさん、それは演劇の稽古ではありません!」
「あ、来てたのねカナちゃん。おーい」
グガァアアアア
「わあっ!」
ガツッーン
「なんで私を? モリリンなにやってんの? クルマの屋根がへこんだわ。オーナーに怒られる」
「ソフィ、こいつをなんとか出来ない?」
「ソフィアさーん。そいつは魔物よ!」
「魔物……キャア」
あれがソフィア佐伯。雑誌の写真より綺麗だ。
「あぶない!」
ボクは、着ぐるみゴーモンの腰にタックルをした。
軽い。人の重みはまるでない。しかし、倒れずにヤツの大蛇のような尻尾が巻き付き、締め付ける。
ころんだソフィアさんは、コートの内ポケットから何かを取り出して扇形に広げた。
「我が古より仕えるカードよ、悪しき魔を静めよ。ドン・イマド・スケーダ!」
つづく